「脳は『できる』と思えば能力を引き出す」──この言葉には、私たち一人ひとりの中に眠る可能性を開く鍵があります。人間の脳は、想像をはるかに超える力を秘めています。そしてその力を呼び覚ますスイッチが、「自分はできる」という思い、すなわち“自己効力感(セルフエフィカシー)”です。
自己効力感とは、心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念で、「自分にはこの課題をやり遂げる力がある」と信じる気持ちのことです。この感覚があるかどうかで、人の行動や思考、そして成果に大きな違いが生まれます。たとえば、同じ問題を前にしても、「できる」と信じている人は挑戦を恐れず工夫し続け、最終的に目標を達成します。しかし「無理かもしれない」と思っている人は、その不安が脳にブレーキをかけ、行動の幅を狭めてしまうのです。
私たちの脳には、自己イメージを現実に近づけようとする性質があります。たとえば、ある研究では、被験者に「あなたはこの課題が得意だ」と言われただけで、実際の成績が向上するという結果が報告されています。これは「プラシーボ効果」の一種とも言われ、脳が「私はできる」と思うことで、本当にその通りの結果を出してしまうのです。逆に、「自分はダメだ」「失敗するかもしれない」と思えば、その思いが無意識に体や思考に影響し、力を十分に発揮できなくなります。
この現象は、スポーツの世界でもよく見られます。たとえば一流のアスリートたちは、競技前に「私は勝てる」と強く思い込み、脳に成功のイメージを焼きつけて試合に臨みます。実際に、イメージトレーニングを行った選手の方が、行わなかった選手よりも成績が良かったというデータもあります。これは、脳が想像したことを現実のように感じ取り、そのイメージに沿って体の動きを調整するからです。つまり、「できる」と信じることが、脳を動かし、体を動かし、現実を動かしていくのです。
学習においても、自己効力感の有無は大きな差を生みます。「私は数学が苦手だ」と思っている子どもは、たとえ教え方が良くても集中できず、うまく結果が出ません。ところが、「自分にもできるかもしれない」と少しでも思えたとき、脳は“前向きな回路”を開き始め、理解力や記憶力が高まりやすくなります。脳の神経回路は、使えば使うほど強化されていきます。つまり、「できる」と思って挑戦することで、脳の力そのものが鍛えられていくのです。
このように、自己効力感は単なる気の持ちようではなく、脳の生理的な働きとも密接に関係しています。脳は、安心して挑戦できる環境や、過去の成功体験を積み重ねることで、自分の力を信じる方向へと変わっていきます。ある研究によると、小さな成功体験を繰り返すことで、脳内のドーパミンが活性化し、「もう少し頑張ってみよう」という意欲が湧いてくるのです。このドーパミンこそが、脳のやる気スイッチとも言われる神経伝達物質です。
また、「できる」と思うことは、ただの願望ではありません。それは、未来を創る選択です。「私はこうなりたい」と心から思い描き、そこへ向かって少しずつでも行動を重ねる。それが、現実を変えていく力になります。たとえば、起業して成功した人たちの多くは、最初から自信満々だったわけではありません。しかし「やれば何とかなる」「とにかく一歩踏み出そう」という自己効力感があったからこそ、壁を越えていけたのです。
脳科学の観点からも、自分自身を信じることの大切さが明らかになっています。脳には“可塑性”という性質があります。これは、脳が変化し続けるという特徴です。つまり、何歳であっても、新しい知識やスキルを身につけられるということです。脳は、使ったように育ちます。「できる」と思って努力を重ねる人の脳は、その思いに応えるように力を発揮し、さらに新たな可能性を切り開いていくのです。
一方で、「できると思えない」「どうしても自信が持てない」というときもあるでしょう。そんなときは、無理にポジティブになろうとせず、まずは小さなことから始めることが大切です。たとえば、「昨日より5分多く勉強できた」「今日も会社に行けた」──そうした小さな積み重ねが、やがて「自分はできる」という確信へとつながっていきます。小さな達成は、脳にとって大きなご褒美です。脳はその達成感を記憶し、次のチャレンジを後押ししてくれるのです。
私たちは、思っている以上に強く、思っている以上に可能性に満ちています。そしてその可能性を開くカギは、自分を信じること、つまり「できる」と思うことにあります。それはただの思い込みではなく、脳を活性化させ、行動を変え、未来を変える確かな力なのです。
だからこそ、もしあなたが今、自信を失っていたり、迷いの中にいたりするならば、どうかこう思ってください。
「私にはできるかもしれない」
その一歩が、あなたの脳の力を呼び覚まします。その一歩が、今は見えていない道を開きます。自分を信じる力は、脳が最も応援してくれる力です。信じて歩めば、脳は必ず応えてくれます。
そして最後に、あなたがまた前を向いて、もう一度チャレンジしてみようと思えたなら、その時点で、すでに脳の力は動き始めています。どうか今日という日に、心からの「できる」を、自分自身に贈ってください。あなたの脳は、あなたのその一言を待っています。