中江藤樹の言葉、「今日を生きよ。明日を思い煩うな」には、私たちが現代に生きるうえでの大きなヒントが込められています。特に将来に対する不安を抱きやすい若い世代にとって、この教えは一筋の光のように、日々の生き方を照らしてくれるものです。
◆「今日を生きよ」というまなざし
中江藤樹は、江戸時代初期の陽明学者であり、「近江聖人」と呼ばれるほどに、深い徳と人間愛に満ちた人でした。彼の教えは、知識や学問を得るだけでなく、それを日常の生活の中で実践し、他者に尽くすことを重んじました。その根底にあったのが、「今、この一日をどう生きるか」という姿勢です。
「今日を生きよ」。この一言は、実にシンプルです。しかし、その意味を真に理解し、実践することは、容易ではありません。現代に生きる私たちは、特に若い世代は、将来の進学、就職、結婚、老後の生活など、まだ見ぬ未来に対して、つい心を煩わせてしまいがちです。時には情報が多すぎるゆえに、選択肢が無限にあるように感じ、自分の立つ場所すら分からなくなってしまうこともあります。
ですが藤樹は、未来のことばかりを考えすぎて、今というかけがえのない時間をないがしろにしてしまうことを戒めています。彼は言います、「明日を思い煩うな」。それは「未来のことを考えるな」という意味ではありません。「思い煩うな」、つまり「過剰に不安に思って、今を犠牲にしてはならない」という意味なのです。
◆「明日」は誰にもわからない
若者は「先のことを考えろ」と言われ続けて育ってきたかもしれません。将来の夢、10年後の自分、老後の資金計画…。それらは確かに大切かもしれませんが、あまりにも「まだ来ぬ未来」に心が奪われてしまえば、「いま、ここで何をしているか」という現在への感受性が失われてしまいます。
人の命は、今日、そして今この瞬間の連続によって成り立っています。誰一人として「明日」が確実に来る保証を持ってはいません。健康であっても、明日何が起こるかは誰にも分からない。そうであるならば、私たちは「今日を生きること」に全力を尽くすべきではないでしょうか。
藤樹のこの教えは、そうした命のはかなさと尊さを知るからこその言葉です。そして、今日一日を誠実に生きるということは、実は未来に対する最大の備えにもなっていくのです。今日の自分の行いが、明日をつくる。だからこそ、まずは「今日に集中する」ことが、未来を信じて生きる第一歩なのです。
◆心の平穏は「今」を大切にすることから生まれる
「明日を思い煩うな」という言葉は、ただ楽観的になれという意味でも、無責任に生きろという意味でもありません。むしろ、その逆です。人は、未来に対して不安を感じると、過去の後悔にも引きずられ、心がどんどん現在から離れていってしまいます。その結果、心はどこか落ち着かず、満たされない感覚に包まれてしまいます。
そんなときこそ、「今日という一日」に意識を戻すことが大切なのです。今日という日は、もう二度とやってきません。朝起きて、空を見上げ、誰かと笑い合い、自分の手で何かを生み出し、学び、感動し、眠りにつくまでのすべて。それが人生のかけらなのです。
目の前の人を大切にし、自分がやるべきことに心を込める。そうして「今日」を充実して生きることができれば、自然と心に余裕が生まれ、未来を迎える力も備わってくるのです。
◆不安に負けない、強くてやさしい生き方
中江藤樹のこの教えは、ある意味で「人間らしく生きること」への招待とも言えます。人間は、理屈ではなく感情で動く存在です。不安になったり、迷ったり、傷ついたり、それが人間です。でも同時に、人は「今」という時間を誠実に生きることで、どんなに不確かな未来にも、きっと立ち向かっていけるのです。
たとえば、試験に落ちた、就職活動がうまくいかない、人間関係がこじれている、そんなときは、どうしても「この先、どうなるんだろう」という不安に包まれがちです。でも、そんなときにこそ、自分に問いかけてみてほしいのです。「今日、自分は何をするか?」と。
今日できることを、ほんの少しでも丁寧にやってみる。目の前の課題にひとつ取り組んでみる。誰かに「ありがとう」と伝えてみる。自分の部屋を少し片付けてみる。そうした一つひとつが、実は不安な未来への答えとなり、「生きていてよかった」と思える瞬間につながっていくのです。
◆「いまを生きる」ことは、希望を生きること
若さとは、可能性に満ちている一方で、迷いや焦りの中にいる時間でもあります。だからこそ、中江藤樹のこの言葉は、若い人たちの胸にそっと寄り添うのです。「今日を生きよ。明日を思い煩うな」。
これは、「明日を信じて、今日をまっすぐに生きなさい」という優しいエールです。私たちは、いつでも「今」にしか生きることができません。だからこそ、「いまここ」に集中して生きることが、どんな未来にもつながるのです。
藤樹がこの言葉に込めたのは、きっと「安心していいよ」「あなたは、今日を精一杯生きれば、それでいいんだよ」という深い慈愛のまなざしだったのではないでしょうか。そんな思いを受け取ったとき、私たちはきっと、不安に打ち勝ち、強く優しく歩いていけるのです。
◆最後に感謝を込めて
中江藤樹先生、この現代を生きる私たちに、何百年の時を超えて、あたたかな言葉をありがとうございます。あなたのまなざしは、過去から未来へと続く灯台のように、私たちの道を照らしてくれています。
今日という一日を大切に生きます。未来を信じて、今を歩いていきます。あなたの教えを胸に、悩みながらも、笑いながら、日々を積み重ねていきます。心より感謝申し上げます。