「ああ面白かった」と言って死ねる人生の設計図
ふとしたことで手に取った一冊の本が、心の奥の静かな場所に火を灯すことがある。佐藤愛子さんの『ああ面白かったと言って死にたい』は、まさにそんな一冊だった。人生の終わりに、どんな言葉を口にしたいか。どんな気持ちで幕を閉じたいか。それは、生きることの核心を突く問いでもある。
この本の魅力は、何よりその“潔さ”と“面白さ”にある。年齢に逆らわず、しかし老いにも屈せず、ユーモアと皮肉、そして深い人間理解に裏打ちされた言葉の数々が、まるで佐藤さん自身の声としてこちらの胸に届く。読んでいて、つい笑ってしまったり、涙がこぼれたり、何かを反省したり、自分の人生を真っ直ぐに見つめ直したくなったり――そんなふうに、心が忙しくなる。だがその“忙しさ”は、読後、ふと軽やかな爽快感となって残る。
著者は、すでに90歳を超えている(本書執筆時)。にもかかわらず、いや、だからこそかもしれないが、実に若々しい。若さとは年齢ではなく、「どう生きているか」で決まるのだと、佐藤さんの姿勢が教えてくれる。世の中への皮肉、社会への嘆き、他人の愚かさ、自身の情けなさ、いずれも本音でぶつかりながら、それを笑い飛ばす。こんなふうに老いていきたい、と素直に思った。
「生きる」とは、「面白がること」
この本が心に残る最大の理由は、「人生は楽しむものだ」というメッセージが、ただの綺麗ごとではなく、痛みや苦しみ、迷いをくぐり抜けた人の“真実の言葉”として語られているからだ。
私たちは、つい“正しく生きること”や、“人に迷惑をかけないこと”を重んじてしまう。でも佐藤さんは言う。「面白くなきゃ意味がない」と。もちろんそれは無責任な生き方を推奨しているわけではない。むしろ、誰にも流されず、自分の足で立ち、自分の頭で考えることの大切さを示しているのだ。その姿勢が、痛快なのだ。
人生は一度きり。そして、どんなに抗っても老いはやってくる。ならば、どんなふうにその坂を下っていくか。悲しみと共に老いるのか、笑いと共に老いるのか。この本は、明確に後者を選び、そのための覚悟とコツを教えてくれる。
「私は私でいい」と思える強さ
本書を読みながら、何度も「自分って何だろう」と立ち止まった。
人は、何かと「正しさ」や「他人の目」に縛られがちだ。若いうちは「親や社会の期待」に、年を重ねれば「老いた自分への失望」や「役に立たない不安」に悩まされる。
だが佐藤さんは、「人は誰でも、何かを抱えて生きている」「人生は、思いどおりにならないから面白い」と言わんばかりに、自分の弱さも老いもさらけ出す。そのあり方が、実に心地よい。そうして、「他人と比べなくてもいい」「不完全でいい」と思わせてくれる。
本当の意味での「自立」とは、自分の人生に責任を持つこと。人にどう思われるかではなく、自分が納得できるかどうか。そうした軸を、この本は思い出させてくれるのだ。
心が重たいときほど読みたい
人生は、順風満帆ではない。むしろ、悩み、失敗し、落ち込むことの連続だ。年齢を重ねれば重ねるほど、その苦しみは深くなることもある。若いころのようにやり直しがきかない現実や、身体の衰え、孤独感。そんなとき、この本に出会えたならきっと救われるだろう。
なぜなら、この本には“共感”が詰まっているからだ。教訓でもなく、説教でもなく、「私もそうだったよ」という寄り添いがある。
その優しさが、胸にしみる。
そして何より、この本を読んでいると、自分の小さな悩みが、ふっと軽くなる。あれもこれも、あまり深刻に考えなくていいのだ、と。
生きていれば、嫌なこともある。でも、笑えることもある。人生のどちらの側面も肯定してくれるこの本は、まるで人生の友のように感じられる。
感動を、行動に変える
私たちはつい、「もっと若ければ」とか、「環境が整えば」と思いがちだ。だが佐藤さんは、どんな年齢であっても、どんな境遇であっても、人生を面白がることはできると教えてくれる。
だからこそ、読み終えた今、私自身も小さなことから始めようと思った。たとえば――
- 気になっていた人に電話をかけてみる。
- 面倒だからと後回しにしていた趣味を始めてみる。
- 「ありがとう」と心から伝えることを意識してみる。
- 少しでも笑えるテレビや本に触れる時間を増やしてみる。
こうした一つひとつが、「ああ、面白かった」と言える人生につながっていくのだと思う。何か特別なことをしなくてもいい。ただ、自分の人生を“自分ごと”として楽しむ。それが、最大の秘訣だ。
最後に
「面白かった」と言って死ねる人生。これほど潔く、美しく、そして幸福な終わり方があるだろうか。
だがそれは、ある日突然訪れるものではなく、日々の「小さな選択」の積み重ねでつくられていくものだ。
『ああ面白かったと言って死にたい』は、そんな人生の真実を、笑いと涙で教えてくれる一冊だ。
読後には、心がふわりと軽くなり、自分の人生も悪くないと思えるようになる。
この本に出会えたことに、心から感謝したい。
そして私も、今日から自分の人生を、もう少しだけ面白がってみようと思う。