『定年からの安上がり旅術』(山下マヌー)感想文
――「旅に出たい」が、「出られない」と思い込んでいるあなたへ
「年金暮らしだし、旅はもう贅沢すぎるかな……」「体力も落ちてきたし、海外旅行は無理かも」――そんなふうに、どこかで自分にブレーキをかけてはいませんか?
もし、あなたがほんの少しでも「旅に出てみたい」という気持ちを持っているのなら、この本はまさにあなたのための一冊です。
山下マヌーさんの『定年からの安上がり旅術』は、単なる旅のハウツー本ではありません。もっと根っこにある、“人生をどう味わい尽くすか”という問いに真っ向から応える「人生実用書」です。そして何よりこの本は、旅を通して再び人生にときめきを取り戻すための、「勇気の種」が詰まっています。
「旅は贅沢」から「旅は生活の延長」へ
多くの人が「旅=非日常=高額」というイメージを持っているかもしれません。特に定年後ともなると、収入は限られ、慎ましい生活を優先しがちです。しかし山下さんは、そんな固定観念をやさしく、かつユーモアたっぷりにくつがえしてくれます。
“安上がり旅”という言葉には、単に節約という意味以上に、「賢く・楽しく・自由に旅する知恵」が込められています。これまで私たちが「旅は高いから無理」と諦めてきたのは、知らなかっただけかもしれない。思い込んでいただけかもしれない――そんな気づきを与えてくれるのです。
しかも本書で語られる旅の術は、いかにも現実的。ホテルや航空券の選び方、荷物の工夫、予算管理、移動手段の使い分けに至るまで、すぐにでも使える実用知識がずらりと並びます。それらは著者自身が長年世界中を旅して身につけた、まさに“生きた知恵”です。旅慣れていない人にも、再チャレンジを迷う人にも、この本は限りない安心感と可能性を差し出してくれます。
「旅の目的は絶景ではなく、自分を取り戻すこと」
何より心を打たれるのは、著者の旅に対する哲学です。本書の随所に、旅を通じて“生きる喜び”をもう一度見つけてほしいという思いがにじんでいます。
定年後の生活は、時に空白です。毎朝決まった時間に起き、会社に行き、家族を支え、何十年も走り続けてきた人生のスケジュールが、ある日を境に「ゼロ」になる。この空白に戸惑い、疎外感や孤独感を抱える人は少なくありません。そんなとき、「旅」という小さな挑戦は、意外なほど大きな転機になります。
たとえそれが日帰りでも、近隣の町でも、これまで降りたことのない駅でもいい。自分で調べ、自分で選び、自分の足で歩く。そのすべてが、失われた“自分自身との対話”を取り戻す行為なのです。
年齢を言い訳にしないための一冊
著者の語り口は、決して若者向けではありません。むしろ「老い」や「体力の衰え」、「お金の心配」といった、誰しもが年齢を重ねることで抱える不安を、正面から受け止めてくれます。それゆえ、この本には説得力があります。
「もうそんな歳じゃない」「足腰が不安で……」と感じる人にこそ読んでほしい。なぜならこの本は、「今のあなたにできる旅」がどれだけ多いかを教えてくれるからです。年齢や制限を言い訳にせず、その人なりの旅を模索する姿勢こそが、人生を再び輝かせるのだということに気づかせてくれます。
特に印象的だったのは、「無理をしない。でも妥協もしない」というスタンス。豪華さを求めない代わりに、自分なりの“旅の基準”を持つことの大切さ。それは、人生全体にも通じる考え方かもしれません。
旅は人生のリハビリである
本書を読んで、ふと浮かんだ言葉があります。それは「旅は人生のリハビリ」という言葉です。心や体が少し疲れたとき、環境を変えてみるだけで、新しい風が吹き込んでくる。定年という人生の大きな節目にこそ、旅は最高の処方箋になるのではないでしょうか。
旅先での些細な発見、美味しい料理との出会い、見知らぬ人とのふれあい。そんな一つひとつが、生きる力をじんわりと、しかし確実に蘇らせてくれます。この本を読み終えた後、私は思わず手帳を開いて、次の休みにどこに行こうかと考え始めていました。それはまるで、自分の中にあった好奇心という名の“火種”が、ふっと灯り直した瞬間でした。
「よし、行ってみよう」――それが第一歩
私たちは時に、「完璧な準備ができてから動こう」と思いがちです。でもこの本が教えてくれたのは、「準備より、まず一歩踏み出してみること」の大切さ。たとえ完璧でなくても、そこに“楽しもう”という気持ちがあれば、旅はきっとあなたに微笑み返してくれる。
高齢化社会の今、この本が静かに、しかし力強く語りかけてくれるメッセージは大きな意味を持っています。旅を通じて、自分らしい老後を取り戻す。それは贅沢でも特別なことでもありません。むしろ「自分を大切にする」「もう一度、生きることにワクワクする」という、ごく当たり前のことなのです。
最後に
『定年からの安上がり旅術』は、読後に「行動したくなる」本です。旅に出たくなる、外に出たくなる、誰かに話したくなる。そう感じた時点で、もうすでに旅は始まっているのかもしれません。
何も遠くへ行く必要はありません。まずは近くの公園でも、街のカフェでも、地元のバス路線でもいい。少しだけ日常から離れ、自分を連れ出してみる。そんな“ちいさな旅”を通じて、あなたの人生がまた輝き始めることを、心から願っています。
年齢にしばられず、予算に縛られず、もう一度、自分の人生にときめいてみたい――。
そんなあなたにこそ、この一冊を手に取っていただきたいと思います。