「マジメ」って何だ?――歴史が教えてくれる、生き方のチューニング法

本を閉じた瞬間、私は深くため息をつきました。それは落胆のためではなく、「なんでもっと早くこの本に出会わなかったんだろう」という、惜しさとも悔しさともいえる感情でした。童門冬二氏の『マジメと非マジメの間で』は、ただの歴史エッセイでも、風変わりな人物評論でもありません。これは、自分自身の“思考のクセ”を点検し、“生き方のバランス”を整えるための極上のツールブックでした。

■ まず「マジメ」とは何か?という問い

私たちはよく、誰かのことを「マジメだね」と言ったり、自分でも「自分、けっこうマジメな方です」と言ったりします。でも、その“マジメ”って何を意味しているのでしょう?

この本は、冒頭からその「マジメ観」を揺さぶってきます。著者はマジメな人間を“理論的で几帳面だが、意外と精神的に脆い”と捉え、時に自分の狭い正義に固執しすぎる危うさを指摘します。一方、「非マジメ」とされる人物にこそ、柔軟さ、創造性、ユーモア、決断力などの“現代に求められる資質”が潜んでいるのだと。

これを読んで、自分がずっと美徳だと信じてきた「真面目さ」が、時として行動力を奪い、人間関係を窮屈にし、自分自身をも縛りつけてきたことに気づき、ハッとしました。

■ 歴史人物が「教材」になる面白さ

本書の魅力は、何といってもそのユニークな構成です。西郷隆盛、吉田松陰、徳川家康、明智光秀、坂本龍馬、織田信長、源義経……誰もが知る歴史人物を、「マジメ/非マジメ」の観点から再評価していきます。

その人物がどれだけマジメだったのか、あるいはどこで非マジメな決断を下したのか。たとえば、「吉田松陰はマジメすぎて、時代の流れを読めなかった」とし、「坂本龍馬は軽薄にも見えるが、時代の風を感じとり、人を動かす柔軟さに満ちていた」と語るくだりには、思わず唸ってしまいました。

つまりこの本は、歴史上の人物を“反省の鏡”にするのではなく、“未来へのヒントの宝庫”として捉えているのです。

■ 心を動かすのは「失敗と弱さの描写」

何よりも印象的だったのは、著者の語り口に漂う“人間への優しさ”でした。歴史人物の“失敗”や“弱さ”を、糾弾せずに、愛情をもって分析しているのです。

西郷隆盛の過剰な純情、明智光秀の不器用さ、源義経の幼さ。どれも一歩間違えれば「ダメ人間」にされてしまいそうな要素ですが、それらを著者は“背景”や“環境”とともに丁寧に描き、その結果、読者である私たちは「この人も苦しんだんだ」「自分と同じで完璧じゃなかったんだ」と共感を深めていきます。

そして、こうした共感が“学び”に変わっていく瞬間――それこそが、この本の最も深い価値だと感じました。

■ 「正しさ」よりも「しなやかさ」を

現代は、あらゆる場面で「正しさ」を求められる時代です。SNSでは、間違った発言をすれば即座に批判される。職場ではルールを守ることが第一義にされ、個性や直感は押し込められがちです。

でも、この本を読むと、歴史の中で生きた人物の多くが「正しさ」ではなく「しなやかさ」によって難局を乗り越えてきたことに気づきます。そして「しなやかさ」こそが、本当に強い人間の特性なのだと痛感します。

つまり、「マジメ」であることを否定するのではなく、それをどう活かし、どこで抜き、どこで笑うか。それを教えてくれるのが本書なのです。

■ 行動のヒントとしての読書体験

読後、私はいくつかの“行動”を自分に課してみました。

  1. 完璧を求めない
    小さなミスを許す。自分にも他人にも。

  2. ユーモアを忘れない
    どんなに緊張感のある場面でも、笑いを忘れないようにする。

  3. 歴史を「他人事」としない
    たとえば光秀のような「正しさに突き動かされた失敗」を、自分の職場の選択や人間関係に投影してみる。

これらを実践するうちに、自分の中の“マジメ過剰”が少しずつほどけ、日々の行動にも遊びや余裕が生まれてきました。それが不思議なことに、成果にもつながっている。マジメすぎると、仕事でも人間関係でも「スピード感」や「タイミング」を失うことがあると、改めて実感したのです。

■ 人生の中で、何度でも読み返したい一冊

この本の価値は、「一度読んで終わり」ではありません。人生のステージが変わるたびに、読む角度が変わり、得られる示唆も変わってくる。社会に出たばかりの若者には“自分らしさのヒント”を、中堅のビジネスパーソンには“マネジメントと人心の機微”を、そして引退後の人生には“人生の棚卸し”として、深く染み渡ってくる本です。


■ おわりに──感動を行動へ

私たちは日々、“正しく生きる”ことに疲れてしまう瞬間があります。そしてそれは、「間違ってはいけない」というマジメさが、自分を縛っているからかもしれません。

でもこの本は、そんな私たちの肩をポンと軽くたたいてくれます。「マジメすぎなくていいよ」「少しズレたっていいんだよ」と。

童門冬二氏の静かで温かな筆致は、歴史を通じて人間を肯定してくれる力を持っています。そしてその言葉の数々は、私たちを動かす“小さな勇気”へと、きっと変わる。

『マジメと非マジメの間で』――この本は、あなたの人生を“正す”のではなく、“ほどく”ための一冊です。そしてその“ほどけた先”に、本当の自分らしさや、本来の行動力がきっと見つかるでしょう。

どうか、手に取ってみてください。歴史の向こうに、自分が見えてくる――そんな読書体験が待っています。