タイトル:
「色を持たぬ母が、世界を塗り替えた日々」
この本を読まずに、どうして人の強さを語れるだろう。
ページをめくるたびに、自分の小ささと母という存在の広さを思い知らされる。ジェイムズ・マクブライドの『母の色は水の色―12人の子を育てた母の秘密』は、ただの回想録でもなければ、自伝的小説という枠にも収まらない。これは、人間の生きざまが「色」を超えて響き合う、魂の交響曲だ。
最初の数ページで、私は“母”という言葉に対する認識が揺さぶられた。白人である母ルースが、黒人の夫と結婚し、12人もの子どもたちを育てるというその事実。けれど、それは単なる物語の導入にすぎない。読んでいくうちに、この母がどれほどの逆境を乗り越え、どれほどの犠牲を払い、どれほど純粋に、そして激しく愛したのかが、胸を貫いてくる。
この本のタイトルにある「水の色」という言葉には、深い意味がある。水は形がなく、色も持たず、ただ流れていく。だが、それはどんな器にも収まり、命を育み、岩をも削る力を持つ。この母もまさにそうだった。貧しさ、人種差別、無理解、孤独――そんな過酷な状況の中でも、彼女は自らの信念を手放さず、子どもたちの未来のために前に進み続けた。その姿が、どれほど“強い”かということを、私はこの本で思い知らされた。
感動的なのは、ただ困難に立ち向かうだけの物語ではないという点だ。母ルースは完璧ではない。時に厳しく、時に不可解な行動をとる。しかしその全てが、子どもたちのため、自分の信じる正義のためであることが、息子ジェイムズの語りを通してしっかりと伝わってくる。そして、その語りには深い愛と尊敬、そして自らの未熟さを見つめる静かな眼差しがある。子どもとして、作家として、彼が母の人生を知り、自分自身を理解していく旅路は、読む者の心を深く揺さぶる。
特に印象的だったのは、彼が若き日に迷い、失意の中で人生を彷徨っていた場面。そんな時も、母は彼を切り捨てることなく、静かに、しかし断固として信じ続けた。その信じる力が、どれほどの希望になったか。読んでいる私まで励まされたような気持ちになった。
私はこの本を読み終えた瞬間、いてもたってもいられなくなった。自分の母に電話をかけ、何気ない言葉を交わしたくなった。そして、本棚に眠っている手紙の束や、昔の写真を引っ張り出して、母という存在を改めて見つめたくなった。そんなふうに、読後の余韻が心に染みわたり、行動に移さずにはいられない。そういう本が、年に何冊あるだろうか。
この本は、人種や国境、宗教を越えた「親と子」の物語であり、人間の誇りと愛の証明でもある。読む者すべての心に、水のように静かに、しかし確かに染み込んでいく。生きるとは何か、愛するとは何か、自分を信じるとはどういうことか――そういった根源的な問いに、優しく、しかし鋭く応えてくれる。
私は、図書館に駆け込みたくなった。こんな本を一冊でも多くの人に手に取ってほしい。誰かがこの本を読んで、母との関係を見直し、自分の人生に向き合い、明日を変えるきっかけになるなら、それはとても尊いことだと思う。
読書とは、時に人生を変える力を持つ。この一冊が、まさにそうだった。私の心に水を注ぎ、そこに命を芽生えさせた一冊。
今すぐ読んでほしい。できることなら、あなたの心にも、あの母の静かな強さが届くことを願って。