タイトル:
世界のノイズに耳をふさいで、君だけを探して
ぼくはこの本を読んで、心の中にずっと引っかかっていた「何か」にようやく形が与えられたような気がした。J.D.サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』は、決して派手な物語ではない。だけど読み終えた瞬間、胸の奥がざわざわとして、今すぐ誰かと話したくなった。図書館へ走って、あのページをもう一度めくりたくなる。そんな衝動に駆られる本だ。
この物語の主人公、ホールデン・コールフィールドは、どこにでもいるようでどこにもいない17歳の少年。彼の語ること、感じることは、一見すると単なる愚痴や反抗のようにも思える。だけど、ページをめくるたびに、その言葉の裏にある「切実さ」と「純粋さ」が透けて見えてくる。彼は、大人の世界に対する違和感、欺瞞、そして子どもでいることへの痛烈な憧れと喪失感を抱えながら生きている。
読んでいて何度も、ホールデンがぼく自身の声に思えてならなかった。大人のふりをして毎日を過ごしているけれど、本当はずっと、心の中に子どもらしい疑問や不安が渦巻いている。自分でも気づかないうちに、感情に蓋をしてしまっている。でもホールデンは、それを必死に言葉にしようとする。彼の不器用な語りは、ぼくの中にある見ないようにしてきた思いを、そっと引き出してくれた。
彼が語る「ライ麦畑」のイメージは、象徴的で、しかも切なく美しい。誰にも踏みにじられない純粋さを守ろうとする気持ち、誰かがその場所から落ちてしまわないように支えようとする願い。ホールデンが求めるのは、そんな一瞬の真実であり、失われていくものへの静かな抵抗だ。ぼくはその姿に胸を打たれたし、同時にとても寂しい気持ちにもなった。
「感動」という言葉は安っぽく響くかもしれない。でも、ホールデンの物語には、ただの「感動」では済まされないような深さがある。読んでいるあいだ、自分が本の中に吸い込まれていくような気がした。彼の孤独に触れることで、自分の孤独とも向き合うことになった。そして読み終えたときには、自分自身の中にある「守りたいもの」に気づかされていた。
この本は、きっと人によって受け取り方が全然違う。でもそれこそが、この物語のすごさだと思う。読む人の数だけ、ホールデンの姿が映し出される。だからこそ、一度読んでみてほしい。ページをめくるごとに、自分自身と向き合うことになる。目の前にいるホールデンが、いつのまにか自分の分身になっているかもしれない。
ぼくは、こんな本をもっと早く読めばよかったと思った。でも、今だからこそ、必要な一冊だったとも思う。だからこそ、これを読んでくれる誰かに伝えたい。もし少しでも心が疲れていたり、世界のノイズにうんざりしていたり、自分の声が聞こえなくなっているのなら、この本を手に取ってほしい。
きっとあなたの中の「ホールデン」が、何かを語りかけてくるはずだ。そしてその声に耳を傾けたとき、世界の見え方がほんの少し変わっていることに気づくだろう。
さあ、図書館へ走ろう。あのページを、あの言葉を、自分の目で確かめるために。ホールデンが待っている。あなたの心の奥で、いつまでも。