今年の夏休み。
息子の親友が泊まりに来た。
8月8日から、16日までという、結構な期間のお泊まりであった。
この『お泊まり』は、毎年の恒例行事。
夏がくると、我が家が行くか、彼等が来るかしている。
息子の親友君のママは、私の友人である。
今を去ること五年近く前、私たち一家は神奈川県に住んでいた。
当時の私はシングルマザーで、三人の子ども達と、ぼろアパートで、慎ましくも愉快に暮らしていた。
そこで知り合ったこの親子も母子家庭。
子どもと保育園が同じであった。
気付けば、もう10年近い付き合いである。
今は遠く三重県に越してしまったけれど…
幼い男の友情に、胸を打たれた母二人は、子ども達が望む限りは、この友情を守ってやろうと誓いあった。
年齢は、うちの息子が一つ上である。
小学生のうちは良いけれど…
中学生にもなれば、この僅かに一つの年の差は、大きくなるかもしれないね。
来年は、会いたがるかなぁ…
そんな事を、毎年話していたけれど。
どうやら、一生の友人になりそうである。
息子は中2、親友君は中1になったが、二人は、変わらずにベッタリだ。
一丁前に反抗期で、口を開けば憎まれ口
大人とのやり取りを、面白がるだけの知能も出てきたらしい。
まったく…などと言いつつも、子どもの成長とは、親にとっては嬉しいものだ。
大きくなった肩を並べて、笑い合う彼らは、それなりに素敵だった。
そんな楽しい時間も、やはり終わりは訪れる…
サヨナラの時間を迎えた彼等の目は、まるで幼いあの日のまま…
涙を堪える事は、できるようになったけれど
切なさや寂しさを、隠す強がりまでは…
まだまだできやしなかった。
『またおいで。いつでも待ってるから。』
私が親友君に、駅のホームでこう言うと、大きな目で私を見つめ、とても不安そうな顔をする…
さっきまで、憎まれ口を聞いていた、生意気な彼はもう居なくなってしまった。
あっという間に大人になってしまうな…
二人の、私を越してしまった背丈と、低い声
大人に挑戦してくる反発心
あどけなさが、段々に影を潜め、嬉しくも寂しい気持ちで眺めていた。
ところが…
今、目の前にいる二人は、大きな体の肩を落とし…
互いの母に向ける眼差しは、やり場のない寂しさと不安から、母に救いを求める、幼い少年の顔だ。
抱き締めたら、ポロポロと涙をこぼしそうな、気弱な目であった。
うちの息子君も同じである。
『ちゃんと勉強しろよ。』
親友君の母に声をかけられ、クシャクシャに頭を撫でられた。
途端に息子君は半泣きだ。
追い越したくて、必死な親の背中。
背丈を越した勢いに任せて、追いつけ追い越せと…
幼い頃から、怒鳴られ、誉められ、叱られ、励まされて…
そんな他人様の大人は、家族同様に、心に刻まれている。
頑張れよ。そういう彼女の姿は、やはり大きく映ったのだろう…
シュンと肩を落とし、うんと頷く息子君の広い背中は…
私には小さく見えた。
君たちは、自分の小さな頃は見れないものね。
目に焼き付いてるよ。
君たちの生きてきた姿。
あぁ、昔から知ってるもの。
その小さな背中と、歯を食い縛る横顔を。
5歳のあの時に…膝を抱えてうずくまる君が…
今、目の前に見える。
親友君が、私と自分の母を交互に見つめ、また下を向く。
抱きしめる代わりに握手をする。
また彼は泣きそうになる。
だけど、握った手は…
もう大人の手だった。
一緒に手を繋いで、歩いたあの川原の道…
握ったあなたの手は柔らかくて…
誰かに守られなければいけない手だった。
うん。
今度は、あなた達が…
誰かを守る手になってきている。
去りいく電車を見送って…
少し小さくなった息子と帰る。
『やっぱり寂しいな…』
でも、来年会えるさぁ!
そう言って、寂しそうに笑う君は…
やっぱり少しだけ、大人になっていた。
あと何年…私を追い越そうと足掻くだろうか。
私の背中が小さく見えた時…
君たちは、もう子どもじゃなくなってる。
沢山な別れと、出逢いと、寂しさと悔しさを噛みしみて…
もっともっと、でかくなれ!