荊州の情報収集に来ていた魯粛殿と二人で江東を訪れたものの、魯粛殿の話しとは様子が違う。
私が江東へ来て説得すれば孫権殿はすぐにでも軍を出してくれそうな話しであったが。
来てみれば魯粛以外は皆、曹操に恐れをなして降伏に傾いている。
兄は顔を見せない。
兄弟の情に流されるやもしれぬと外されたのだろう。
兄がいないのは好都合だ。
敵が一人減ったのだから。
さて、いかにして、孫権殿に曹操討伐の兵をあげさせるかだが・・・。
そうだ。曹操からの脅しを逆手に使おう。
孫権殿は江東の地に権勢を伸ばして三代目の領主になる。
まだ若く、自尊心も強い。
寸度の領地も持たぬ劉備の殿を、敗残の将くらいにしか思ってはいないだろう。
その殿が、曹操の脅しには決して屈しない。
曹操を倒すまで、何度でも戦いを挑み、それでもなお、かなわぬならば、それは天命であり、甘んじて受ける覚悟だと言えば、自尊心を傷つけられた孫権殿は悔しさに駆られ、自分から曹操討伐の手を挙げるに違いない。
問題は重臣たちの反対をどう阻止するかだ。
孫権殿の意思が固まれば強く反対するものは僅かであろうが、曹操に対するには一致団結が望ましい。
今、遠方にいる周瑜殿は文武に優れ、気性が激しく、曹操をも恐れぬと聞く。
周瑜殿に曹操討伐の論陣を張ってもらえれば重臣の意見も傾くはず。
孫権殿も私と同じ考えと見える。
私が劉備の殿の高邁なる意志を述べると、躊躇することなく、曹操討伐は江東に任せよとの仰せだった。
そのすぐ後、周瑜殿がご帰還された。
早速、曹操討つべしとの論を展開し、反対派を押し切ったのだ。
いよいよ、劉備の殿の運命をかけた戦がはじまる。
周瑜殿は私には手だし口出しは一切するなという。
江東の力だけで乗り切り、戦果を全て独り占めするつもりらしい。
私と違い、幾度もの戦火をくぐり抜け、刃を交えてきたつわもの周瑜。
実戦経験の乏しい私は足手まといであろうが、ここはひとつじっくりとお手並みを拝見させていただこう。
すくなからず、戦果もいただくつもりだ。
私とて、何の手立てもせずに江東にきたのではない。
いったん戦争の火蓋がきられれば、劉備軍は手はず通りに動くであろう。
いよいよ、曹操との一戦がはじまる。