つづき。

 

出産編

 

 

僕が息子の出産に立ち会って驚いたことのひとつは、陣痛の強さを測る計測器が存在していたことです。

 

 

陣痛の強さが数値化されていて、陣痛間隔と一緒に表示されているのです。

 

 

痛みを数値化したわけではないけれど、陣痛が強ければそれだけ痛みも増すわけで、間接的な痛み計測器とも呼べそうです。

 

 

たとえば数値が「0」のときは妻の呼吸も安定するのだけど、

その数値が「5」まであがると、彼女の呼吸は乱れはじめます。

 

 

そして「10」を越えるとついに唸り声が上がり、彼女は激痛に耐えるために懸命に呼吸を整えようとします。

 

 

もちろん誰かと話す余裕なんて全くない。

 

 

 

陣痛の波は繰り返しやって来て、その数値はまだまだ上がっていく。

 

 

 

「15」を越え、「20」に達し、さらに「25」に至ります。

 

 

 

 

 

(測定器)

 

 
 

 

 

 

陣痛室は二畳ほどの空間。

 

 

ベッドと計測器をのぞけば、椅子ひとつがようやく入る狭い部屋です。

 

 

計測器の機械音と、妻の苦しい息づかい。ときおり部屋の外に医者や助産師が行き交う足音が聞こえます。

 

 

 

部屋は薄暗くて、空調はよく効いている。

 

 

僕には肌寒いくらいなのに、それでも妻の額から脂汗は止まらない。

 

 

 

陣痛の数値が「50」に迫ろうとする頃には、計測器を見るのも辛くなってきます。

 

 

 

僕ら男性には想像もつかないような激痛だと思います。

 

 

出産時、妻につきそう男は圧倒的に無力です。

 

 

 

少しでも楽になって欲しい、

力になりたい、

でも我々男はただ彼女が激痛に耐えているところを見守ることしかできない。

 

 

 

数時間、陣痛に耐えた後、ようやく麻酔が入りました。効いてくるのは二十分後。

 

 

 

 

無痛分娩について、様々なことが言われます。

とくに父親となる男性からや、僕らの親の世代にも反対意見が多くあると聞きました。

 

 

もちろん自然分娩で産みたいという妊婦の方々に、僕は心から敬意を抱きます。

 

 

でも、もし誰かに

 

「どちらにしようか迷っている」

 

と相談されたなら、環境が許す限り(無痛分娩を行える信頼できる産院が近くにあり、経済的負担も許容できるなら→自然分娩と比べて10万円ほど高額です)、無痛分娩をおすすめします。

 

 

反対している方の意見を、僕は直に聞いたこともあります。

 

 

「出産とはそもそも女性が痛みを耐えるものだ。何万年も人類はそうしてきた」

 

「新しい分娩方法は何があるかわからない」

 

「お腹を痛めなければ、子供への愛情が湧かない」

 

 

 

お前ら、うるせぇよ、と。

 

 

 

「今回の胃のポリープの手術、麻酔使います? 麻酔なしの方が精神的には鍛えられるし、乗り越えた感がグッとでてきますが」

 

とか言われて、

 

「まじすか、それなら麻酔なしで腹切ろうかな」

 

と答える人はいるんだろうか。

 

 

 

「手術麻酔ってここ百年、二百年くらいの歴史しかないんです。それまでは何万年も人類は麻酔なしでやってきたんですよ」

 

「え、そんなこと言われると麻酔、不安だなぁ」

 

「でも、そんなあなたに朗報が。催眠術で痛みを和らげる手術法なら麻酔よりも歴史があります」

 

「ぜひ有名な催眠術師の先生をお願いします」

 

なんて真顔で頼む人はいるんだろうか(いや、いるのかもしれないけどね)。

 

 

 

でもお腹を痛めなければ子供への愛情が湧かないなどと言われてしまっては、全国の父親は両目に涙をいっぱいにして居酒屋に駆け込んでしまうでしょう。

 

 

 

もちろんリスクはある。けれどリスクのないお産はありません。

 

 

 

無痛分娩から得られる恩恵とリスクを理性的に判断して、そのリスクを受け入れられるなら、無痛分娩は決して悪い出産方法ではありません。

 

日本産科麻酔学会によると、すでに2008年の時点でアメリカでは6割、2010年のフランスでは8割の妊婦が無痛分娩での出産を選んでいます。

 

日本産科麻酔学会 無痛分娩Q&A Q20

http://www.jsoap.com/pompier_painless.html

 

 

 

 

……というわけで、なにはともあれ妻は(食い意地のための)陣痛を数時間耐え、ようやく無痛分娩の最終段階に入りました。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

無痛分娩編① ブログと父親、はじめました。

 

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