BBB[あんたと俺 その9 櫻井家の謎] | 情熱派日本夕景

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今日の食材はとりあえず、人参、じゃがいも、玉葱、糸コンニャク、レタス。
後は肉と生野菜が少し欲しい…と言ったところ。
下拵えの後、米を研ぐ。
量はだいたい7合。
2人にしては多過ぎる量である。

と、インターホンが鳴った。

「あ、おば上。」

宗尊は急いで玄関へ駆け出す。
扉の向こうから、妙に若々しそうな声が聞こえてくる。

「宗ちゃーん。
ちょっと開けてくれない?」

宗尊は半分ジョークで

「肉とサラダドレッシングと生野菜、それで女の必需品は大丈夫ですか?」

と、扉越しに言う。
すると声の主はやや怒った感じで言う。

「大丈夫だってば!!
だから、ドアが開けられなくなっちゃったの!!」

「へぇ。」

そこで扉を開ける。

帰ってきた女性の手は、大量の品が入ったエコバッグとハンドバッグに陣取られていた。

「おかえりなさい、おば上。」

宗尊は少し、笑った。

「ただいま。
パート帰りに買い物して来たんだけど、買い過ぎちゃった。」

彼女は大島(旧姓櫻井)ひろみ。
櫻井隆博の1歳下の実の妹であり、現在2児の母。
母親を早くに亡くした櫻井兄弟の母親代わりでもある。
転勤になった夫とともに引っ越して来たのである。

「まあ、今年はやっちゃんが受験ですしね。
今も缶詰ですよ。
絶対に燈火高校に行くって。」

と、ひろみの顔が突然、こわばった。

「…ちょっと、今…燈火高校って言わなかった?」

宗尊は少し動揺した。

「ええ…まあ。」

ひろみは全く聞かされてなかったらしい。

「…後で親子面談って言っといて。」
「あゐあゐさ。」

大島家はひろみの夫・宏哉(義兄・隆博の後輩)、長男・和哉(中学3年・従兄弟・カズマと名前が似てるせいか、通称・やっちゃん)、長女・みなみ(中学1年)。

母親以外は野球が大好き(ひろみはただ1人サッカー派)。
和哉は今年の中学野球引退まで港中のエースだったし、みなみは港中ソフトボール部で1年生ながら正捕手をしている。
身近で野球に触れ合ってたせいか、みんな野球好きと化していたのだ。

『目標・燈火高校』発言は、どうやらそういう魂胆が見え見えな気がしてならない。

ちなみに燈火高校は千葉県立である。

「ったく、明日はようやく取れた『大人の夏休み』なのに…。」

ひろみは少し、不機嫌だった。

話は合宿3日目の夜に戻る。
というより、進む。

食後の龍崎野球部の面々は少し退屈そうだった(数名除く)。

「…。」
↑美術の宿題『麻薬撲滅キャンペーンポスター』の構想を練っている櫻井寿馬(16)。

と、楽しげな物を見つけた。
質のいいカラオケマシンである。

「…いいのかな。」

渋川は気になってしょうがない。
とりあえず崇道が瑛憲さんに交渉する。
すると…。

「あれ?
別にいいよ。
ただし、9時までね。」

OKらしい。

「やったぁ!!
歌いまくるぞー!!」

万歳三唱。

なんか2年生だけで勝手に盛り上がってるような気がするのだが、それは気にしない。
これは仲間外れではなく、彼自身の意思なのである。

その証拠に彼以外の1年生は全員、カラオケで大フィーバーしている。

それを見ていたカズマは、ピンと来た。

「…お、いいかもな。」

と、急ピッチで絵を仕上げる。

だが、1人だけカラオケに参加しないカズマを2年生がほうっておく筈がない。

ちょうど絵具を乾かしている時…。

「回れ~回れ~扇風機~。」
↑この時点で音程が外れている。

「よっ!!
カ・ズ・マ!!」

思わず『ビクッ!!』となるカズマ。

「…な、なんなんすか崇道さん!!」

崇道はマイクを持っていた。
しかもちゃっかり電源ON。

「何遠慮してるんだよ!!」
「いや、遠慮なんかしてない…。」
「言うだろ、踊る阿呆に見てる阿呆同じ阿呆なら踊らにゃ損損って。

折角の機会に歌わないのは損だっての!!」
「…いや、俺…カラオケ行ったことないんですが。」
「まずは歌え!!
歌うんだ!!
好きな曲歌わせてやるから!!」
「…(だめだこりゃ)

1曲だけですよ。」

とりあえず約束。

「ではいきまーす!!」

と、崇道はタンバリン(ペンションのレンタル品)片手に乗せようとする。

「(あーあ…なんで断れなかったんだろう。

これが日本人の血の濃さ故の辛さなんだろうか…)。」

カズマは珍しく苦悩の表情である。


5分後…。

「…(うわっ…下手すぎ)。」

みんな真っ青になっていた。
誰にでも得手不得手は必ず存在するものである。
カズマの場合、それがスポーツ(野球どころかバレエ、水泳もできる)と勉強(文系教科に強い)と絵(人並みだが)であり、梅干し(本人いわく『下手物と梅干しどちらかしかないと言われたら、絶対下手物をとる』)と音楽(感受性音痴)と有刺鉄線(見ただけで吐き気がするくらい嫌い)と料理(簡単なものしかできない)というだけである。

「…だから歌いたくなかったのに。」