ボクタビ第1部[星の王子様2] | 情熱派日本夕景

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眼を見開いた結城の虹彩は、灼熱の炎の如く、真っ赤に染まっていた。

もちろん見た目だけではない。
彼には、この田舎の夜の暗さも真夏の正午並みの明るさに感じているのだ。

それ以上に、さっきから続く震えが、より近く感じる。

「姿を消しても無駄だ!!
俺には見えてるからな!!
レクイエムなんか歌ったって((; `▲')

と、強がって言ってみる。
(本当はめちゃくちゃ怖かったりする。)

神頼み的に宝珠に触ってみる。

「(…頼む、俺にもう少し力を!!)」

すると、手から小さな物体が現れた。
まるで、ダートのような…。
しかも…形状は、結城愛用品(スチールチップは微妙に違うが)に酷似しており、何気に使い易そうだ。

と、結城はまた眼を閉じ、神経を集中させた。

「…(奴は、常に俺の死角に入り込んで…レクイエムを歌っていた。
ならば、灼眼の力で…すべてを見渡すまでよ…。)」

それは兎も角、どうやって辺り一面を見渡すんだ?

「(網膜に映らなくても見える手段…それは心のみぞ知る…。
これぞ『心眼』なり…。

理論じゃ説明出来ないが、これくらい…。)」

と、結城は突然眼を開け、まるで野球のピッチャーが二塁に牽制球を放るが如くダートを投げ付けた。

ダートは真っ直ぐ進み、当たるかどうかというところだった…が、

ガチンッ!!

何かに妨げられるような音がしたのである。

どこかにシールドかあるようである。

真っ直ぐ進んだダートは、弾かれるように吹っ飛び、1回転、2回転とくるくる回って落下し、地面に落ちて消滅した。

が、それと同時に悲鳴も聞こえた。

「きゃっ!!」

そして、尻餅の音…。

声は男の割には高めであり(テノールでレクイエム歌ってたから当然だろ)、リアクションが女っぽい。

さらに、違和感…ダートが何かに弾かれる音…。
まあ、羅列した時点で特に何かと言われても困るのだが…。

すると、結城。

「…。
もう止めにしようぜ。
そこにいるんだろ?
誰だか知らないがな。

こちらには大量のダーツがある。
降参するまで放ち続けるから。」

姿も見えない『彼』に降参勧告をしているのである。

まあ、もともといじめられっこで人を傷つける事を好まない結城だけあり、らしいと言えば…らしい。

すると…

「…分かりました。
降伏します。」

との声がした。
(ここまで事がうまくいくと、何か不気味である。)
そしてシールドが解け、男性が現れた。
見た目から、結城より年上のようだ。
僅かにウエーブのかかった茶色の髪はセミロング且つ艶やかな後ろ髪、長袖の古ぼけたカッターシャツ、年代物のジーンズという服装をしている。
彼の首元には、緑の宝珠がキラリと輝く。
そして、大きな翼を持っている。

彼は俯き、何も話したくなさそうだ。
見る限り、何ヵ月も放っとかれたような…。
そんな感じである。

「…(- -)」

彼はかなり落ち込んだ様子である。

結城は眼鏡をかけ直し、

「…あの…。
貴方は…。」

彼に話しかける。
すると…

「…ミツル。」

こう呟くのである。

「?」

当然、訳が分からない。

「僕…岩崎充。」
「…。
…。
…自己紹介ですか…。」
「はい。」
「そうですか。
俺は暁結城といいます。」
「暁…結城さん…。」
「…ハハハ…。
…貴方、なかなか面白いですね。」
「そうですか?」
「はい。」

何気に打ち解けている。

「なんか…ゆっくり話したいですよね。」
「…はい。」
「うちの大浴場にでもきます?」

なんと、『裸の付き合い作戦』をとる結城。

すると岩崎…。

「…お風呂?」
「そう、お風呂。」
「…いいですね。」
「え?
いい!?」
「…はい。」
「(…ちょっと待て!!
この誘いに乗った…。


…都以来の変わり者だ…。)」
「どうかしました?」
「…な、なんでもないです。」

ちなみにこの誘いに初めて乗っかった都は、父を亡くして落ち込んでいたのである。
変わり者…という訳ではない。

「とりあえず、羽をしまった方がよろしいかと思うんですが…。
うちの奴が驚きますから…。」
「…そうですね。」

と、岩崎は羽をしまう。
こいつ…本当に人間か?と、つくづく思ってしまう。

「…。」

それで結城はようやく家に入って早々…

「悪いな。
今日は客人がいるんだ。
風呂入れていいか?」
「え!?
客人?」
「そう、客人。」

客人…とはもちろん、岩崎の事である。
もちろん、岩崎はちゃんと後ろに付いている。

「…結兄…またナンパなの?」
「ちげぇよ!!
第一、客人イコールナンパという考え方するなよ…。
それは都だし!!」
「冗談(というより、みんなが噂してた)なのに…。
…仕方ないわね。
お風呂入れてあげるから。

入浴剤はどうするの?」

さすが暁家。
金がある。
人脈(お中元やお歳暮)がある。
入浴剤を入れて風呂に入るとは…。

「入浴剤か…。
どうします?」
「…種類は?」
「…いろいろあるんですよ。
高級な物から、市販の物まで…。
中には泡もありますね。」
「…泡で。」
「こだわってますね。」
「…入ってみたい。」
「なるほど。
じゃ、紗香…泡で!!」

やはり声がでかい。

「…結兄、分かったから…。」

ちなみに暁家の風呂はかなりでかい。
お湯を入れるのに本来は30分くらいかかるところを5分くらいで済ませられる。

その間…。

ゴソゴソ…。

「…何やってるんですか?」

岩崎が尋ねる。
確かに、風呂入るのに準備なんか…。

「ゴーグル探してるんです。
俺の必需品だし。」
「…へーっ。」

というのも、結城の灼眼はコントロールしづらいこともあり、常に眼鏡をしていないと暴走してしまう恐れもある。
故に風呂用の眼鏡…つまりゴーグルが必要になるのである。
ちなみに睡眠時はアイマスクを着用し、いざと言う時用のコンタクトレンズもある。
誤魔化し(騙し討ち!?)用の黒のカラコンも。

ゴーグルを始め、それらは専用のケースに保管され、さらに鞄の中に詰め込まれてるのである。

よっぽど重要…なんだろう(当たり前だよ)。

とりあえず風呂も沸き、浴場に向かう2人。
口先だけではなく、本当に大きかったのである。
入浴剤の入った大きな浴槽、シャワー…。
小さな浴槽も、大きな浴槽の隣に設置されていた。

浴場の充実ぶりに、岩崎は眼を見開いていた。

「…。」
「…ほぉ…。
(…温泉経験…ないな、ありゃ。)」

2人は浴槽に入ると…かなり饒舌になっていった。
多分、止まらないだろう。

「…気持ちいいです。」
「…でしょ?
風呂はいいもんですよね。」
「…とかいいつつ、結城くんは小さい方なんですね…。」
「うちの方針なんですよ。
そちらは客人用っていう…。」
「なるほど。」
「…段々テンション上がってきましたね。
俺の事をさっきまで呼ばなかったのに…。」
「あ、すみません。」
「別にいいですよ。

ところで…ちょっといいですか?」
「はい、なんですか?」
「こうして知り合ったからには、貴方の事をもっと知りたいんです。


ちょっと…話してくれませんか?」

結城は岩崎に話を聞くことにした。
もっと仲良くなりたいという、彼の心の表れであろう。

「…あまり話せませんが、いいですか?」
「出来るだけで結構ですよ。」
「ありがとうございます。

…僕、実はあまり記憶がないんです。」
「えっ…(・_・)
いつ頃からなんですか?」
「…今年の2月頃からだと思います。
この宝珠を手に入れた頃からだと思います。
多分、何かあったんだと…。」
「…無理に思い出さないでもいいですよ。
いつかは思い出せる筈ですから。」
「…そうですか。
ありがとうございます。」
「いえいえ。いいですよ。」