カントリー・ロックのファンを自認する私としてはジーン・クラークは押さえておきたいアーティストの一人でした。
ご存知のとおり、ジーン・クラークはバーズのセンターでタンバリンを持って歌っていた人です。
バーズ初期のオリジナル曲のほとんどが、彼の作品によるものでした。
Gene Clark (1944 - 1991)
The Byrds (1964 - 1973)
実は5月に彼の代表作、1971年の『White Light』はディスクユニオン神保町店で中古CDを購入していました。
ただ、これは1971年という時代性でしょうか、表題作の"White Light"こそ典型的なカントリー・ロックなんですが、全体としてはアコースティック・ギターの弾き語りかギター、ベース、ドラムのシンプルな楽器編成による、当時のジェームス・テイラーに代表されるようなシンガー・ソングライター的アルバムです。
もちろん、いい作品ではあるのですが、残念ながら私が期待していたようなカントリー・ロックのアルバムではありませんでした。
で、今回、Apple Musicで入手したのがこちら。
1968、69年に発表された、正真正銘のカントリー・ロックのアルバムです。
Fantastic Expedition & Through the Morning by D.../Dillard & Clark
¥価格不明
Amazon.co.jp
バーズを脱退したジーン・クラークがブルーグラスのバンジョー奏者、ダグ・ディラードとデュオを組んで制作した2枚のアルバムをカップリングした、お得なCDです。
まずは1曲、ニール・ヤングの"Heart Of Gold"や"Out On The Weekend"に似た曲調がロックっぽいオープニング・ナンバー"Out On The Side"
バーズ時代にボーカルをクラークとともに採っていたロジャー・マッギンのクセのあるボーカルと比べるとジーン・クラークの歌声は朴訥として哀愁のあるボーカルで、私は好きですね。
Dillard & Clarkの正式メンバーと担当楽器は、
ジーン・クラーク(guitar, harmonica, vocals)
ダグ・ディラード(banjo, fiddle, guitar)
この二人以外にも、こんな人たちがレコーディングに参加しています。
バーニー・レイドン(banjo, bass, guitar, vocals)
クリス・ヒルマン(mandolin)
スニーキー・ピート・クレイナウ(pedal steel guitar)
マイケル・クラーク(drums)
これは、時間的な前後はあるものの、この後にフライング・ブリトウ・ブラザースに参加するメンバーですね。グラム・パーソンズとクリス・エスリッジを加えればブリトウが一丁出来上がりです。
クリス・ヒルマンとマイケル・クラークはこの時、まだバーズに在籍中でしたが、水面下ではブリトウズ結成が進んでいたということですね。
このCDの前半、1~12は1stアルバム『The Fantastic Expedition of Dillard & Clark 』
カントリー・ロックの代表作とされるバーズの『ロデオの恋人(Sweetheart Of The Rodeo)』と同じ1968年の作品です。
バーズがグラム・パーソンズを呼び入れて『Sweetheart Of The Rodeo』を完成したように、ジーン・クラークは、当時、テレビにも出演してアメリカでは有名だったダグ・ディラードと組んで、このアルバムをレコーディングしたという訳です。元バーズのジーン・クラークとブルーグラス界の人気者ダグ・ディラードの組み合わせは話題性もあったことと思います。
Dillard & Clark (1968 - 1969)
収録曲は以下のとおり
1."Out on the Side"
2."She Darked the Sun"
3."Don't Come Rollin'"
4."Train Leaves Here This Morning"
5."Why Not Your Baby"
6."Lyin' Down the Middle"
7."With Care from Someone"
8."The Radio Song"
9."Git It On Brother"
10."In the Plan"
11."Something's Wrong"
12."Don't Be Cruel"
3.はクラークのハーモニカで始まる典型的なカントリー・ロック"Don't Come Rollin''
ボーカルのハーモニーがイーグルスを思わせます。
イーグルが1972年の1stアルバムでカバーすることになる4.の"Train Leaves Here This Morning" はクラークとバーニー・レイドンの共作。当時、まだ無名だったグレン・フライやドン・ヘンリーと比べ、名だたるバントでの経歴を持つバーニーのイーグルの中での存在感は大きなものがあったと想像できます。
5,6,12はボーナストラック。
6はバーズっぽいカントリー・ロック。12はエルビス・プレスリーのお馴染みの曲(ボーナストラックならではですね)
なぜかボーナストラックがいいので5.の"Why Not Your Baby"をかけてみます。
シングルとして発売されていたのかな。
後半の13~23が1969年発表の2ndアルバム『Through The Morning, Through The Night 』の収録曲。
1969年といえばフライング・ブリトウズ・ブラザース結成の年ですね。
13."No Longer a Sweetheart of Mine"
14."Through the Morning, Through the Night"
15."Rocky Top"
16."So Sad"
17."Corner Street Bar"
18."I Bowed My Head and Cried Holy"
19."Kansas City Southern"
20."Four Walls"
21."Polly"
22."Roll in My Sweet Baby's Arms"
23."Don't Let Me Down"
1stでは殆どの曲のソングライティングにクラークが関わっていましたが、このアルバムでは彼が作曲しボーカルを採っている曲は14.17.19.21の4曲のみ。他のナンバーの作曲者のクレジットにはエヴァリー・ブラザースやビル・モンローの名前も見えるので、カントリーやブルーグラスのカバー曲と思われるものが多いですね。
ディラードが本職ではないボーカルも採っており、2ndアルバムの方はジーン・クラークというよりも、ダグ・ディラード色が強いアルバムと言えそうです。カントリー・ロックというより、モロにカントリーという感じですが、これはこれで悪くないです。
このアルバムからも1曲
アルバムのタイトル・チューン。
スニーキー・ピート・クレイナウのペダルスティールが効いたカントリーワルツ"Through The Morning, Through The Night "をどうぞ
この2ndアルバムを聴いてカントリー・ロックとカントリー、ブルーグラスの違いが判ったような気がします。簡単に言うとジーン・クラークのようなロック畑の人がカントリー調の曲を書いてボーカルをとればカントリー・ロックになります(笑)
同じようにバンジョー、マンドリン、フィドル、ペダルスティールを使っていても、ディラードが主導の曲とは明らかにテイストが違います。
22はブルーグラスの創始者、ビル・モンローの曲。
私はブルーグラスというのはテンポが速くて、バンジョーやフィドルの早弾きがあるという認識でしかありませんが、こういうのが正調のブルーグラスなんでしょうね。
ちなみに、ディラードはビル・モンローのバンド、ブルーグラス・ボーイズのバンジョー奏者、アール・スラッグスの影響を受けているそうです。
ラストは何とビートルズの"Don't Let Me Down" で幕を閉じます。
いささか、解説的なブログになりましたが、ライナーノートとクレジットのないApple Musicには、こういうものが必要ですね。
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