Apple Music音楽生活

Apple Music音楽生活

レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。

Amebaでブログを始めよう!

 ずっと探していたアルバムがあります。

Steve Hiettというアーティストの『Down on the road by the beach』という作品で、20歳代後半の頃の私の夏の定番BGMでした。アパートのベランダでビールを飲み、遠くに上がる花火を眺めながら聴いていたもんです。

 

当時、仕事上でお付き合いのあったデザイナーの方から「これ、いいから、聴いてみな」と勧められて、アナログのLPレコードを借りてカセットテープにダビングして聴いていたモノです。

その後、カセットテープを再生するオーディオ機器も使用しなくなり、そのテープ自体も何処かにいってしまいました。それでも夏になると時々は聴きたくなり、ネットで情報を探したり、何度かAmazon やApple Music を検索してみましたが見つかることはありませんでした。

 

先日、ピーター・バラカンさんの番組でリスナーの方がこのアルバムについて語り、この中の1曲でスタンダード・ナンバー"Sleep Walk"のリクエストをしましたが、バラカンさんは「このアーティストは私は知らないな」と言って、エイモス・ギャレットがライブで演ったバージョンをかけました。

「あの博識なバラカンさんが知らないミュージシャン‥??」

アーティスト名もアルバム・タイトルもうろ覚えになっていたので、聴いていたradiko を巻き戻して、久々にネットで検索してみると、これまでグーグル検索で全くヒットしなかったスティーヴ・ハイエットのこのアルバムの情報がヒットしたではありませんか。

なんと、一昨年の2017年7月に、ソニー・ミュージックより『AOR CITY 1000 シリーズ』の一つとして初めてCD化されていたんですね。そのお陰で、これまで全くネット上に無かった、このアルバムの情報を入手することができました。

私が一番驚いたのは、このアルバムが日本で企画制作されたものだったということ。立川直樹氏のプロデュースにより、日本のミュージシャンも参加して制作され、当時のCBSソニーから日本のみで発売されていました。更に、この人はミュージシャンではなくイギリスの写真家であったという事実。どおりで豊富な音楽知識を持つピーター・バラカンさんも知らない訳です。

おそらく、私が借りたレコードには帯もライナーノートもついてなかったのでしょうね。完全にスティーヴ・ハイエットというアメリカかイギリスのギタリストによる洋楽レコードだと思い込んでいましたから。しかも、『渚にて…』などという日本語タイトルもついていたとは…

 

ともあれ 早速、Amazon でCDを購入。

立川直樹さんの書いたCD版ライナーノートを読んで、他にも興味深い事実を知ることができました。

当時、私がよく現代アートの書籍やポストカードを買いに行っていた青山キラー通りのオン・サンデーズという店を運営していた"ギャルリー・ワタリ"(現ワタリウム美術館)の和多利志津子さんから「スティーヴ・ハイエットという写真家がレコードを作りたいと言っている」という話を持ちかけられた立川さんが写真を見て、デモ・テープを聴き、このアルバムと写真集を同時に制作するプロジェクトが始まったということでした。

その時のスティーヴ・ハイエットの写真集に収められた写真はこちら。

ある意味、アルバムは写真集『Down on the road by the beach』のBGMとして制作されたとも言えそうです。

 

 

 

 

 

まずはオープニング・ナンバーから

これはスティーヴ・ハイエットがパリのスタジオでギター、ベース、ドラムスの各楽器を一人で演奏したトラックをロンドンのスタジオでミックスした"Blue Beach - Welcome To Your Beach"

ハイエットはファッション・フォトグラファーとしてパリを拠点に『Vogue』などのファッション誌の仕事をしてた人なので、立川直樹氏が最初に聴いたデモ・テープもこれだったのかもしれません(あくまで推測ですが)

 

 

なんとも言えない気だるい雰囲気ですねぇ。。

このアルバムはこの曲とN.Y.で収録された2曲以外はCBSソニーの信濃町スタジオでアメリカのセッション・ギタリスト、エリオット・ランドールムーンライダーズのメンバー(鈴木慶一さんは参加してませんが)のサポートによりレコーディングが行われました。他の曲ではエリオット・ランドールや白井良明のギターも入っているのでスティーヴ・ハイエットのギターがどれなのかは判りにくいですが、この曲には多重録音で彼のギターが3トラック入っており、スティーヴ・ハイエットの弾くギターがどのようなものかが分かります。独特の浮遊感のある非常に心地いいエレキギターです。ハイエットはフェアポート・コンベンションに参加する前のイアン・マシューズとバンドを組んでシングル・レコードも出しているということなので、全くのアマチュア・ギタリストという訳ではないですね。

ハイエットが一人で全ての楽器を担当したセルフ録音の曲は、もう一つ、4曲めの"Roll Over Beethoven-Out Of The Beach"(言わずと知れたチャック・ベリーの曲ですが、全くロックンロールに聴こえません 笑)がありますが、この2曲には彼の作る音楽の個性がはっきりと出ています。ただし、全曲をセルフ録音で制作していたら、やはり素人っぽさが残るインディーズ的なアルバムになっていたでしょうね。

これが、プロのセッション・ギタリストであるエリオット・ランドールと専門のスタジオ・スタッフのサポートを得てレコーディングするとどんな風になるかと言うと、こうなります。

N.Y.のブルーロック・スタジオで収録された"Miss B.B. Walks Away"

 

 

やはり、まず音質が違います。"Blue Beach"の少しこもったような音と比べると明らかにクリアですね。

セッション・ギタリストとしてのエリオット・ランドールの一番有名な仕事はスティーリー・ダンの1stアルバムの"Reelin' in the Years"のギター・ソロだそうですが、まだウエスト・コースト的な匂いのある初期のスティーリー・ダンの曲の中でも特にウエストコースト・ロックの雰囲気が濃厚なこのナンバーのギターと『Down on the road by the beach』でのエリオット・ランドールのギターは全くテイストが異なりますが、どんなアーティストのレコーディングに呼ばれてもその場で要求される音を即座に出してくるのがプロのスタジオ・ミュージシャンのプロたる所以なんでしょうね。実際、彼が入ることでギター・アンサンブルがこなれた感じになり聴きやすくなっています。他にも白井良明を加えた3本のエレキギターの競演が楽しめる"Looking Across The Street "などのギター・インストによる楽曲がこのアルバムの核となっています。アルバム・カバーの裏面にも"This is a Guitar Album"と記載されていますね。

同時代のエレクトリック・ギターによるインストゥルメンタルを中心としたギター・アルバムと言えば以前、ブログに書いたドゥルッティ・コラムのことが思い起こされます。ヴィニ・ライリーもスティーヴ・ハイエットも芸術家肌の人だと思いますが、ヴィニの個性がそのままストレートにレコーディングされた繊細で壊れそうなドゥルッティ・コラムの楽曲と比べると、夏のビーチの心地よいBGMとしてAORやフュージョン的な聴き方のできる『Down on the road by the beach』という作品、やはりCBSソニーというメジャーなレコード会社によるプロダクションと思わせます。

1980年に『The Return of The Durutti Column』がリリースされて、日本でも新しモノ好きの人たちからは注目されていたドゥルッティ・コラムですが、自らの美意識に忠実な作品をインディーズ・レーベルから発表し続けたヴィニ・ライリーの個人的なプロダクションは聴く人を選ぶものでした。『Down on the road by the beach』はスティーヴ・ハイエットというアーティストの独特の感性を保ちつつも万人に心地よいと感じさせるアルバムに仕上がっています。

 

この"Miss B.B. Walks Away"ではスティーヴ・ハイエットがベースも担当しています。レコーディングにはムーンライダーズのベーシスト鈴木博文も参加しているのですが"Hot Afternoon"でアコースティックギターとパーカッションを担当しているのみ。ムーンライダーズのドラマーかしぶち哲郎は不参加でドラムスは主にエリオット・ランドールが担当。本職の彼らを起用しなかったのは制作費の都合ということもあるのでしょうが、タイトなリズム・セクションやグルーヴ感を必要としないアルバムだったということだと思います。ベースやドラムスの入っている曲でも音数は少なく、全くギターの音を邪魔していませんね。

 

こちらも"Roll Over Beethoven"と同様にカバー曲。ブッカー・T・ジョーンズが曲作りに関わった1968年のスタックス・レコード、エディ・フロイドのヒット曲"Never Find A Girl"

この作品は、基本的にはギター・インスト・アルバムですが、4曲でスティーブ・ハイエットはヴォーカルもとっています。ギターの邪魔にならない程度のヴォーカルですが、この曲では比較的しっかり歌っています。

 

 

当時はいかにもギタリストが本職の人のヴォーカルという感じで「嫌いじゃないな」と思っていましたが、声の感じからして20歳代くらいの人を想像していました。今回 、初めてスティーヴ・ハイエットは1940年の生まれだったということを知りました。レコーディングが行われた1983年には既に43歳だったんですね。

ジョン・レノンと同年齢ということになるので、なるほど、セレクトしたカバー曲のラインナップをみると、この世代の人らしく、1956年のチャック・ベリー"Roll Over, Beethoven"、ビートルズ登場前に既にブレイクしていたイギリス初のロックンローラー、クリフ・リチャードの1962年の"The Next Time "などが並んでいます。

スティーヴ・ハイエットが書いたギター・インスト曲だけでは単調になりがちなところを要所に配置されたオールディーズ・ナンバーがアルバムの流れの中でいいアクセントになってます。収録されたカバー曲の中でも、このアルバムの雰囲気に最も相応しいのはやはり、この1959年のサント&ジョニー"Sleep Walk "でしようね。

 

 

腕に自慢のギタリストなら一度はカバーしてみたいギター・インストとして数多くのアーティストの演奏がありますが、私が初めて聴いたのはこのスティーヴ・ハイエットのバージョンだったのかな…

カバーは4曲、スティーヴ・ハイエットのオリジナルが6曲(共作含む)、エリオット・ランドール、キーボードの岡田徹、故 加藤和彦さんが各々1曲ずつ提供しています。ラストの加藤さんが書いた"Standing There"はそう思って聴くとサディスティック・ミカ・バンド『黒船』のインスト・ナンバーと感じが似ていますね。これも30数年経って初めて知った事実の一つ。

 

 

 

発売されてから2年経っても、まだ在庫がありましたが(笑)期間限定生産なので購入したい方はお早めにどうぞ。もう二度と入手することはできないと思いますから(新品なのに価格もお得です)

 

 

わざわざCDを買うほどでもない人はこちらからアルバム全曲を途切れなしに聴けます。炎天下で聴く音楽ではないですが、気だるい夏の夜に屋外のデッキでビールを飲みながら聴くには最適です。スマホのスピーカーの音でも充分楽しめます。トラック・リストもつけておきますね。

 

Steve Hiett - Down on the road by the beach

1. Blue Beach - Welcome To Your Beach

2. Never Find A Girl (To Love Me Like You Do)

3. By The Pool

4. Roll Over, Beethoven

5. In The Shade

6. Looking Across The Street

7. Long Distance Look

8. Hot Afternoon

9. Crying In The Sun

10. The Next Time

11. Miss B. B. Walks Away

12. Sleep Walk

13. Standing There

 

 

最後に、スティーヴ・ハイエットに関するニュースをもう一つ。

なんと、36年ぶりのニューアルバム『Girls In The Grass 』が近日リリース予定!

現在、Apple Music では先行シングルのみ試聴可能。

『Down on the road by the beach』の方は相変わらずApple Musicには上がってませんね。

 

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