朗読劇『柳橋物語』の夜公演を観た。

山本周五郎の小説を女優の深川麻衣が一人で読み綴る。





朗読劇を観るのは初めてだ。

始まってすぐは話が自分の中に入って来ず、やっぱり朗読劇は受け取るのも難しいのかなと思っていたが、程なくして気づけば物語が自分の中で描けるようになっていた。

もしかしたら背景や情景描写のくだりを過ぎて会話で話が進むようになったからかもしれないが、それでも物語に引き込まれていたに違いはない。


この朗読劇は今日一日のみ、昼公演と夜公演しかない。

だから今日が初日でもあるのに、深川麻衣の口からは言葉がつるつると紡がれていく。

この日のために心身を削るように、骨の髄まで物語を染み込ませて創り上げた女優としての覚悟と凄み、そして人としての真面目さ誠実さが伝わってきた。

この深川麻衣をこの眼で見られたのだから、一万円というチケットは高くはない。



ストーリーについてはここでは割愛するが、この物語から自分がひしひしと感じ取ったのは、たとえどんなに聡明で心優しく芯が強く勇敢で美しい女性だとしても、ちゃんと男を見られる眼がないと全部パーという非情な事実。

果たして自分は作品の伝えんとするテーマを正しく受け取れたのかといぶかしくもあるが、それが自分にとっての事実である。

でも実際にそういう女の人は結構居るしね。



今まで映画やドラマはよく観てきたが、舞台は年に一本ほどしか観てこなかった。

だけど今回は朗読劇ではあるがずっと一人の役者による舞台だった故に、これまで感じることがなかった役者の人間性みたいなものを叩きつけられた感がある。

そしてこの深川麻衣のそれは、実に心地よくあった。清々しいほどに心地よかった。


それが舞台だというのならば、なんとも恐ろしく残酷で、試練でしかない場所だ。

けれどもそれは大なり小なり観る側にも受け取れる器を問われてもいるわけで。

今日を境に、これからはストーリーを見に行くのではなく、役者を観るために舞台も多く観ていこうと思えた。


そのいちばん最初が深川麻衣であった自分は、果報者であろう。

4月21日(日)、TM NETWORKデビュー35周年記念祭!ライヴ・フィルム『TMN final live LAST GROOVE 1994』(5.1ch HDリマスター版)一日限定プレミアム上映に参加した。


長すぎるタイトルだが、つまりは1994年5月18.19日に東京ドームで行われたTMの終了となるラストライヴのリリース済みの映像を、あらためて映画館で鑑賞するというイベントである。

 なお、その日はTMがデヴューした1984年4月21日からちょうど35年後にあたる。


 25年前の1994年5月18.19日、当時19歳の自分はその2日間とも東京ドームにいた。

当時の他の記憶と比べたらこの日の記憶はかなり鮮明ではあるものの、そこで観たもの聴いたものはだいぶおぼろげになってしまった。


後方から二列目という自分の席から客席を見渡すと、見える頭頂部などから客層がほとんど四十代以上であることが窺える。25年とはこれだけの時間なのかと思い知るが、今は目を背ける。今後も目を背ける。


開演時刻になり照明が消されると、予告編もなくあの日の映像が映し出される。

 2019年版リマスターなるものの効果なのか画質は気にならなかったが、4:3というブラウン管サイズの画角はどうしようもないらしい。しかしTM NETWORKという過去を振り返るには相応しく思える。

 そしてなによりそんなこと関係なく絶頂期終盤のTM NETWORKを観るのは、スクリーン上であってもメチャクチャ楽しい。

それはスクリーンの中の小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登も同様で、これがTM NETWORKの最後だというのに、とても仲良さげで、また満ち足りた顔を見せている。本当にこれが終了(解散)するユニットなのかなと、今観ても思う。


 主に初期の楽曲でセットリストが構成された1日目のフィルムが終わる2時間半まで気持ちは一気に疾走したが、座ったままの腰は限界を叫んでいた。

 わずか15分とはいえ、高齢となったFANKS(TMのファンのこと)のために休憩があって心底よかった。


短い休憩の後にはじまった2日目は、おそらく自分の人生で1000回は聴いたであろう6th Album『CAROL』からの楽曲と、TMNにリニューアルしてからの楽曲中心に組まれてはいたが、あらためてこの日に演奏されたTMN以後の楽曲の少なさに驚いた。これはそのまんま小室哲哉の当時の活動への手応えに触れているような気もした。

 またこの2日目は、当時の記憶の定かさにもよるが、観たはずのシーンがいくつかなかった。これは多分、リリースされた当時からなかった気もする。

特に、TMのサポートギタリストとしてB'z以前に活動していた松本孝弘がこの日はゲスト参加したのだが、その松本を紹介するシーンは、レーベルが異なる事情かもしれないが、今回もカットされたままなのは悲しい。


ライヴも終盤を迎え、最後の曲となった『TIME MACHINE』も終わり、小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登が会場を後にする。

そしてカメラは照明が点けられてFANKSが退場していく客席を映す。

 この退場時のことで鮮明に憶えていることがある。

 多分その時の自分より二つ三つ歳上の女の子だと思うが、「TMが終わっちゃう〜」と泣きじゃくり虚脱状態になって自分では歩くことができず、友人の女の子たちに両脇から抱えられて帰っていった。

 あの日の自分はその女の子の背中を、「小室哲哉が1999年とか世紀末とかはしゃげそうな時期に何もしないわけ無いじゃん」とどこか冷ややかに見ていた。

 そんなことを思い返していた。

 そうしているうちに、15:30から始まった上映は20:45頃に終了した。


 尚、果たしてその通りに1999年にTM NETWORKは再始動するのだが、その時のTM NETWORKは自分の中に在り続けたTM NETWORKではなかった。

 一言で言ってしまうと、TM NETWORKという名義ではあるが、そこにはスッカラカンの楽曲しかなかった。

 以下は勝手な自論になる。

 TK Familyとかやる中で、次から次へと大量に楽曲を作り出し、多分ヒットしたのはその3割くらいで、人知れず消えていったものまで含めて膨大な曲を世に出した小室哲哉に、当時のTM NETWORKの様な曲はもう作れなくなっていたのだろう。

 「こんな感じの曲で新しければいいんでしょ」という作り方にどっぷり浸かってしまった結果かもしれない。もしかしたらなんでもいいから新しさを求められているだけで、CDこそ買うものの大多数の人間が自分の曲をまともに聴いていないことに気づいてしまったのかもしれない。

TM NETWORKでデヴューして、どんなに魂を削って曲を作っても思うようにヒットせず、それでいて渡辺美里に提供した『My Revolution』はヒットして、肝心のTMは自分の思う通りにはなかなか上向かなかった。

 それでもこれでもかこれでもかと懸命に心を砕いて叩きつけるようにして作った楽曲は、結果今なお神々しい輝きを放っている。そして栄光も掴んだ。

だがその創作の魂は一度手放してしまったらもう戻らないものでもあったのだろう。

再始動後のTM NETWORKのアルバムもシングルもほとんど聴いてはいるし、ライヴにも首都圏のものはこれもほとんど全て参加している。しかしこの考えは変わらない。あの頃のTM NETWORKは今はもうない。

 そういった意味では、あの時大泣きしてグッタリとなって抱えられていった女の子の言った通りかもしれない。

今日は少し遠くまで来た。

仕事とはいえ、初めて見る景色はいつだって楽しい。





a tune for today.

BABYMETAL『Starlight』