大学時代、「天下分け目の戦い」でお馴染みの天王山に、男友達と登ったことがある。
僕は京都の大学に通っていた。天王山は、京都府の大山崎町に位置する山だ。そのことを聞きつけた僕と友達は「京都にあったんだ!じゃあ行ってみよう!」と、一も二も無く、目的地へと向かって行った。
僕と友達は共に野球が好きだ。シーズンが佳境に入ってくる終盤戦で、1位チームと2位チームの首位攻防戦のことを「天王山」と呼ぶことは、とうの昔に知っていた。だが、「なぜ天王山と呼ぶのか?」までは知らなかった。その語源となっているのが、今(大学当時)、僕達が暮らしている、京都府の大山崎町という場所にあるんだ、と知ることが出来た。それだけで十分だった。大学生の取り柄は、フットワークが軽いことにある。
山の手前の駐車場で車を降りた僕達は、そのままの足で、天王山を登り始めた。真夏の時期だった(おそらく夏休みを利用して登山を計画したのだろう)。大変暑かったので、とりあえず飲み物だけでも買っておこうとなって、運転中に見かけた自動販売機で、天然水のようなものを購入した。「miu」と書かれていたと思う。何故だかそんなことは意外と覚えているものだ。忘れてしまっても良いことは覚えているくせに、覚えていないといけないことはすぐに忘れてしまう。僕にはそういうところがある。
僕と友達は、水分補給用のペットボトルを片手に、勇んで山登りを始めた。順調に歩みを進める。当時はまだ二十歳そこそこ。三十路を迎えた今と比べて、心身も若々しかったはず。思いのほか、軽快に、山を登ることが出来たと記憶している。
特に困難に直面することもないまま、道中の休憩所(?)に辿り着く。山頂までに、数か所、見晴らしの良いスポットが設置されてあるのだ。そこで一息つく。僕と友達はまだまだ元気。気分的にも「せっかくだから山頂まで登るよなぁ?」といった感じだった。
しかし、ここで、思いもよらぬ、事件が起きる・・・。
僕と友達は、山登りを再開しようと、前に進もうとしたのだが、ああ、なんということか、行く手を遮るように、それなりに大きなハチが、ブ~~~~ンと、鎮座しているではないか!
例えるならば、そう、ドンキーコングに出て来るお邪魔キャラの、ハチみたいだった。それぐらい、微動だにしなかった。「こっちに来たら刺すよ?」と言わんばかりに。「ヘビに睨まれたカエル」という言葉があるが「ハチに睨まれたヒト」という言葉も辞書に載せても良いのではないかしら、そう思うほどに、僕達は、睨まれていた。
僕は、迷うことなく言った。
「よし、降りようか。」
友達は、後ろ髪を引かれながらも、曖昧に頷きながら、言った。
「あぁ・・・、まぁ・・・、じゃあ、帰るかぁ・・・?」
のび太は言った。
「諦めの良いところが僕の長所なんだ。」
僕は思う。
「諦めの良いところが僕の長所なんだ。」
ちゃんちゃん。