運命が変わった場所

 

前回の「#11」で、僕は”消去法的な選択として社会科を専攻することにした”と書いた。

 

別に、社会科の科目自体、嫌いではなかったのもある。いわゆる「歴史マニア」的な面は持ち合わせていないけれども、元々、人に興味があるタイプなので、過去の偉人の人間性を深掘りするような話とか、ドキュメンタリー番組で、歴史上の人物が取り上げられたりすると、興味を持って見ていた。それが僕にとっては”社会科教師として資質有り”ぐらいに考えていたのもあると思う。

 

実際、大学で知り合った教職仲間で、社会科を専攻している人は、僕と同じぐらいの温度感の人ばかりだった。一度語り出すと止まらない、みたいなタイプは一人も居なかった。「教師になりたい!」から「じゃあ何の科目を教えよう?」の順番の人が多かったと思う。だから、違和感だったり、劣等感だったりは、抱くことがなかったのだ。

 

しかし、教職大学院に来てみて、自分のレベルの低さを痛感させられることとなった。

 

大学院の講義では、実践演習的なものが色々と組まれるわけだが、同じ社会科を専攻している院生が集まって、模擬授業を見せ合う、となった時に、明らかに、僕の授業の質が低いと、感じざるを得なかった。なんだろう・・・。客観的に見た時に、自分の授業内容に、引き込まれる感じが無いのを、強く感じたのは、よく覚えている。「あぁ、俺の授業は魅力が無いな…。」というのか・・・。

 

もちろん、僕なりに、教材研究を通して、「今回の授業のキモとなる部分は?」などと考えたりしながら、それに沿った小ネタ等も用意してはいるのだけど、自分で言うのもなんだが、”ただやってるだけ”みたいになっている気がしてならなかった。言われたことをやっているだけというのか・・・。自分自身、楽しんでいる感が無いというのか・・・。

 

不思議なもので、大学時代は、あまり気にならなかったのだ。「まぁ大体こんな感じだよな」と済ませてしまっていたというのか・・・。周りとのレベルの差が大きくなってはじめて、相対的に見た時に、「あっ、このままだとダメだな…。」と思うようになっていった。そこからだと思う。授業に対するコンプレックス的なものを抱えるようになったのは。

 

一言でいうと、僕には、社会科教員としての”志”が著しく欠けていたのだ。大学で教職課程を履修する人はまだしも、教職大学院に進学するとなると、”志”を有している人の方が、圧倒的多数だった(少なくとも僕にはそう見えた)。とりわけ、僕には、教科に対する愛情が、無かった。いや、全く無かったわけではないはずなのだが、比べた時に、”社会科を愛していない”と言われたら、頷かざるを得ない程度しか、無かったのだ。

 

よく「好きと得意は違う」と言ったりする。今回の例で言うと、社会科の知識技能が他の人より優れていたとしても、本人の中で「仕事だからやっているだけだ」というスタンスだと、相手への伝わり方は、芳しくないものになるはずだ。一方、たとえ知識技能が多少劣っていたとしても、「自分が大好きな社会科をもっとみんなに好きになって欲しい!」という熱意は、必ず、相手にも伝わるものだ。それが僕には無いんだなぁ・・・と、悟ったのである。この感情は、徐々に「違和感・劣等感」へと変化していって、僕の足かせになっていった。

 

「俺は社会科を心の底から好いていないなぁ…。」と思ったタイミングで、教授に相談したこともあった。その教授は、教職大学院に籍を置くまでは、社会科教員として、学校で働いていた先生でもあった。

 

「学校には勉強が好きな子よりも嫌いな子の方が多いものだ。担当科目が好きな人ほど『なんで興味を持ってもらえないんだろう・・・?』と悩んだりすることもある。子どもの頃は勉強嫌いだった人が立派な先生になっている例も沢山ある。自分が嫌いだったからこそ勉強を好きになれない子どもの気持ちに寄り添えたりするものだ。弱みじゃなくて強みと思えばいい」

 

僕が悩みを吐露した時は、そんな声を掛けてくれて、背中を押してもらったのを思い出す。事実、そうだなと思ったし、僕が目指す理想の教師像に近いなと思った。元々、「教科指導」よりも「生徒指導」に興味を持って、僕は、学校の先生になりたいと思ったクチでもある(大学院のコースも生徒指導の方面に所属していた)。自分に無いものを持っている人を羨んで、自己肯定感を下げたり、自己否定を行なうのは、誰にとってもプラスではないな、と思った。

 

・・・ただ、心のどこかでは、しこりが残り続ける感覚も、あった。”生徒は教師を選べない”。この言葉が、僕の頭から離れることはなかった。「僕が社会科を教えるよりも、もっと教えるべき先生が居るんじゃないか…。」という観念が、拭い去れなかったのだ。なんなら、今もまだ、根強く残っていたりも、する。

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