龍翁余話(825)「お巡りさん」

 

♪ もしもし ベンチでささやく お二人さん 早くお帰り 夜が更ける 野暮な説教 するんじゃないが 近頃ここらは 物騒だ 話の続きは 明日にしたら そろそろ広場の灯(ひ)も消える・・・1956年(昭和31年)に発売された曽根史郎が歌う『若いお巡りさん』が大ヒットした。戦後、恋愛が大っぴらになり、若い男女の逢引(あいびき)は夕闇が迫る時刻、人通りが少なくなる公園・海岸・湖畔・河川敷・林の中などで愛を育んだ。その間隙を縫うようにコソ泥(人のすきを狙ってこっそり物を盗むドロボウ)も出没した。当時の巡回警官(交番巡査)は、強面(こわおもて)で一様に威張っていた。だから逢引の恋人たちは(コソ泥への注意は怠らなかったが)巡回警官の見回りも嫌がっていた。そんな時期、優しい顔の歌手・曽根史郎がソフトな美声で歌った『若いお巡りさん』によって巡回警官(お巡りさん)へのイメージが少し変わったと言う世評もあったが、とにかくこの歌は空前の“大ヒット”。曽根史郎は同年、同曲でNHKの紅白歌合戦に初出場(以後、4年連続で出場)した。

 

時代劇好きの翁ではあるが、たまに現代劇も観る。その中の1つに『駐在刑事』がある。

2014年から始まった寺島 進主演のテレビドラマ。現在は中断しているようだが、このドラマはシリーズもあれば単発(2時間スペシャル)もあって、翁はライブで観ることは少なく、ほとんど再放送だ。(ここでちょっと余談――かつて翁の業界の後輩から「テレビ番組を“みる”の漢字の使い方「見る」「観る」「視る」のどれが適切ですか」と質問された。翁は「舞台・映画・美術館・博物館・自然美・テレビのドラマやスポーツ中継を“みる”場合は“観る”を使い、テレビニュースや建物、街並みなどを“みる”場合は“見る”を使うようにしている。どちらでもいいと思うのだが、気持ちを入れて“魅入る”場合は“観る”、何となく“みる”場合は“見る”と言う風に使い分けている。なお、テレビを見る人を“視聴者”と言うので“視る”を使ってもいいと思う」と答えた。(話を本題に戻そう)。

 

俳優・寺島 進――彼が若い時は、風貌から見てチンピラ役が多かったようだが、翁が彼の“役者としての演技力”を評価したのは2007年5月~7月(1クール13回)毎週火曜日

テレビ朝日火曜時代劇『八州廻り桑山十兵衛~捕物控ぶらり旅』(主演・北大路欣也)で、

主役の桑山十兵衛と共に旅をする調査・探偵係の“粂蔵”の役からだった。主人の桑山に対して以外は態度も口も悪いが、時々、人を笑わせる3枚目風が面白かったので、翁、このドラマから“寺島ファン”になった。そして彼が初めて主役を得たのが『駐在刑事』。役柄は、もともと警視庁捜査一課の刑事だったのだが、ある事件の容疑者を取り調べ中、その容疑者が(隠し持っていた)青酸カリで自殺するアクシデントの責任を取らされ、都下の「青梅警察署水根駐在所」へ左遷させられた警察官(役名・江波淳史)の物語。江波は最初のうちは警視庁捜査一課刑事に未練と執着を残していたが、歳月を経るうち、住民との人間的な付き合いを通して”駐在巡査“の重要性とやり甲斐を感じるようになり、ドラマでは住民から「駐在さん」と慕われ、(管内で)何かの事件発生の場合は(捜査一課刑事時代の)”刑事魂“が働いて捜査~容疑者検挙に手腕を発揮する。時として本署刑事に疎まれたり衝突することもあるが、彼は平然として”駐在巡査“に誇りを持って活動する・・・

 

警察組織の中に地域部があって、交番勤務の警察官は地域課に属し、俗に“駐在のお巡りさん”と呼ばれ、当該地域の事件・事故発生時の初動警察活動をはじめ、普段のパトロール、巡回連絡、地理案内、遺失届や拾得物の受理、地域住民からの相談の対応など、警察官の中で直接・密接に一般人との関りを持つ重要な職種である。この“交番”システムは

アメリカやシンガポール、ブラジル、台湾、韓国などにもあり、ヨーロッパでも(以前は、交番を設置することは住民の監視活動に繋がるとして反対されていたが、犯罪増加によって)現在では、身近に警察官の詰め所があって直ぐに警察官が駆け付けてくれると言う安心と地域犯罪の抑止力となることから交番制度が採り入れられるようになったそうだ。なお、英語では“交番”は“Police Box”(PB)であるが、現在では日本語の“こうばん”をローマ字に翻字化して“KOBAN”としたPBを多く見かける。翁が知るだけでも米国・アトランタのメインストリートやサンフランシスコの日本人町、ロサンゼルスのショッピングモール前、ニューヨークのマンハッタン、ハワイ・ワイキキなどのPBに“KOBAN”を見ることが出来る。

 

さて、3月1日に始まった「春の防犯運動」(地域安全活動)は5月31日まで続く。地域安全活動とは文字通り地域住民が中心となり自治体・警察・学校・事業者などが連携して地域安全に取り組む活動を言う。「春の防犯運動」の主な目的は「子ども・女性・老人を守る」であろう。幼児・小学生の誘拐犯罪は減少しているが、子どもの交通事故は増え続け、歩行中、車中、道路での飛び出しによる死亡事故が後を絶たない。そして依然として多いのが老人を狙い撃ちにした「オレオレ詐欺」的事件。警察当局やマスコミがあれほど注意を呼びかけているのに何故、被害に遭うのか、翁の疑問と腹立たしさは消えない。女性の被害(強制わいせつ・公然わいせつ)も春から夏にかけて多発している。そんな時、やはり一番先に頼りになるのが「駐在のお巡りさん」だ。

 

近年、(特に都市部では)人と人との繋がりが希薄になっている。周囲に対して無関心だったり近所の人の顔も名前も知らないこともあるので不審者が近所をうろついていても気が付かない、あるいは“見て見ぬふりをする”傾向があるので「地域犯罪」はなかなか減少しない。もしかして「あなたやあなたの家族が被害に遭う」こともあり得る。老人の翁、小路を歩いている時、あるいは商店街などで巡回している「お巡りさん」を見かけると、何故かホッとする。ドラマ『駐在刑事』のおかげで翁、近くの交番の『お巡りさん』に対しても次第に親しみを覚えるようになった・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。