龍翁余話(814)「辰年」

 

2024年(令和6年)の幕開け、まずは読者各位と共に「頌春」(しょうしゅん)を祝いたい――ところで、12年前から毎年の新年号の『龍翁余話』では、その年の干支を揮毫して来た。2012年(『辰年』)の新年号『龍翁余話』(211)「1年の計は元旦にあり」では『龍』を揮毫した。その理由として、こう書いた【辰は動物に当てはめると竜(龍)に該当する。翁の干支は辰(龍)ではないが、我が名が龍だから辰年が何となく身近に感じられる】――2024年は『辰』を揮毫した。

中国の古くからの言い伝えによると「辰は“ふるう・ととのう”の“振”を意味し、陽気が動いて万物が振動し、草木もよく成長して形が整った状態を表わす」と解釈されている。また「辰(竜・龍)は十二支の中で唯一架空上の生き物で、権力や隆盛の象徴であることから中国では“皇帝”や仏教(寺院)で重宝されて来た」とか。そう言えば、台湾・日本ほか東南アジア諸国の仏閣で『龍』の彫刻・仏画が多く見られる。(本場中国でも“龍信奉”は当然だと思うが、翁、現役時代、ある事情で中国取材(渡航)が出来なかったので各種雑誌や報道写真からの情報だけで推測。)

 

2024年の『辰年』の特徴は(前述の通り)陽気が動いて万物が振動し活力旺盛になって大きく成長し、形が整う(一定の成果が得られる)年だと言われている。“陽気”とは何かを調べて見たら、東洋における“気の思想”は3つあるそうだ。1つは、自然との関わり。例えば「天気がいい(悪い)」「気温が高い(低い)」「空気が悪い」など。2つは、人間の心身(健康状態)に関すること、例えば「病気(気に病む)」「気分がいい(気分が悪い))」「気が晴れる(気が乗らない)」、3つは人間関係のこと、例えば「気が合う(気が合わない)」「気に障る」「気が置けない」「気掛かり」など・・・

 

ご承知のように十二支には(その干支自体が持っている運勢のほかに)時刻や方角を表わす場合にも使われる。『辰』の時刻は、午前8時を中心とする2時間(7時~9時)。方位は

東南東。江戸時代、深川あたりの芸者衆を「辰巳芸者」と呼んでいた。これは、江戸城(今の皇居)から見て深川が辰巳(南東)の方角にあったから。現在、東京から東南東に当たる近県の都市をみると、圧倒的に千葉県だ。東は銚子・成田・船橋・習志野などの方角、南東は鴨川・勝浦・茂原・木更津・千葉方面。これらの方角が“吉方位”とするなら、翁のゴルフのメンバーコースが成田だから「2014年のゴルフは、体がよく振動して、いいスコアが期待出来るのでは」と勝手に(いいように)思い込む。更に、ティ・タイム(スタート時間)は、いつもトップスタートの7時20分(前後)だから“辰の刻”――正月だから、このように”陽気“に考えるのも悪くはないだろう。

 

ところで、歴史・時代劇好きの翁、『辰』の字から(いつも)「北辰一刀流」に思いが行く。江戸時代の後期に現れた剣術界の巨星・千葉周作、わずか1代で(自ら編み出した)「北辰一刀流」を国内最大級の剣術流派に押し上げ、門下の育成に無類の手腕を発揮したことはあまりにも有名。門人には幕末の志士で薩長連合を成し遂げた坂本龍馬、近藤勇と一緒に新選組を創設した山南敬助、講談や浪曲で親しまれる(『天保水滸伝』でお馴染みの)平手造酒(ひらて みき)、勝海舟・西郷隆盛の会談の前に単身で官軍の居留地・駿府に赴き、西郷と面談、江戸城無血開城に尽力した山岡鉄舟らがいる。このように多くの有名志士を輩出した背景には、千葉周作の理念が深くかかわっている、と言われている。その1つ、当時は上級武士と下級武士が一緒に稽古することはご法度だったし、庶民が武士と一緒に剣術を習うなどと言うことは考えられなかった。そこで千葉周作は道場を数か所に持ち、庶民に至るまで剣術を学ぶ機会を与えた。このように(特権階級以外にも)広く剣術を普及させたことは、千葉周作の最大の功績だ、と評価する歴史学者も多い。『辰』と「北辰一刀流」のこじつけ話(余談)はこれくらいにして――

 

(前述のように)『辰』の別称「竜」(龍)は、中国の神話で”神獣“とされており、皇帝のシンボルであった。そのため帝王の顔を”竜顔“、帝王の衣服を”竜衣“、帝王の姿を“竜影”などと帝王にまつわるものに「竜」がつくことが多く「竜」を最上級の意で用いたそうだ。また「竜」の姿は「竜に九似あり」と言われるように角は鹿、頭は駱駝(らくだ)、目は鬼、身体は蛇、腹は蜃(しん=蜃気楼を造り出す架空の動物)、鱗(うろこ)は鯉、爪は鷹、掌(しょう・てのひら)虎、耳は牛に似ており、長い髭をたくわえ、顎(あご)の下に1枚だけ逆さに生えた逆鱗(げきりん)がある。「竜」は、その逆鱗に触れられると激高し、触れた相手を即座に殺す、とされている。そのことが語源となって現代でも(目下の者が)目上の人を激しく怒らせることを「逆鱗に触れる」と言う。

 

「逆鱗に触れる」のほかにも「竜」にまつわる言葉は沢山ある。例えば「登竜門」(成功へ至る難関を突破すること)、「竜頭蛇尾」(りゅうとうだび=初めは勢いが盛んだったのに、終わり頃、だんだん勢いがなくなる)、「「臥龍点睛」(がりょうてんせい=最後の重要な仕上げ)、「竜吟虎囀」(りゅうぎんこしょう=お互いの意思や気持ちが通じ合っている)、「飛竜乗雲」(ひりょうじょううん=時代の流れに乗って英雄や賢者が大活躍する)「竜飛鳳舞」(りょうひほうぶ=龍の如く壮大・・・などなど。結びに(翁の好きな)「北辰一刀流道歌」を紹介しよう。♪谷川の 瀬々を流れる栃(とち)がらも 実(身)を棄ててこそ 浮かぶ瀬もあれ」(たとえ失敗しても、全ての欲望を脱ぎ捨て再出発すれば“運気上昇”の機会もある)――読者各位にとって2024年『辰年』が“振動招福”の年となることを祈って・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。