龍翁余話(578)「相次ぐ高齢者運転の自動車事故」

 

このところ、高齢者の自動車運転事故が目立つ。それも単独事故ではなく、必ず、と言っていいほど(幼児を含む)他の人を巻き添えにする悲惨な事態を招いている。4月19日、東京・東池袋で旧通産省幹部の男性(88歳)運転の車が暴走して8人の重軽傷者と2人の死者を出す事故を起こした。その後、何故か高齢者運転の自動車事故が相次いでいる。

 

6月に入ってからの新聞綴じを読み返してみたが、“高齢ドラーバーの自動車事故”のニュースの多いことに驚く。3日、大阪・此花区で松葉づえの80歳の男性運転の乗用車がスーパーの駐車場でアクセルとブレーキを踏み間違えバックで歩道に飛び出し、歩道にいた2歳と7歳の子どもを含む4人の買い物客に怪我を負わせた。4日、福岡市早良区の多重事故で夫(81歳)、妻(76歳)が死亡。6日、名古屋で87歳の男性のアクセルとブレーキの踏み間違いによる車3台の多重事故。6日、大阪市で76歳の男性が路上にいた60歳代の男性をはね重傷を負わせた。7日、鳥取県米子市の踏切で高齢男性運転の軽自動車が列車に衝突(男性死亡)。7日、千葉市のJR海浜幕張駅前で80歳のタクシー運転手がアクセルとブレーキを踏み間違え歩道に突っ込む(怪我人はなし)。8日、北海道浦賀町で70歳代の男性が運転する車が無理な追い抜きで反対車道にはみ出し、路線バスなど3台の車に衝突(運転男性が怪我)。8日、埼玉県寄居町で81歳男性運転の軽自動車が対向車線にはみ出し前方から来た乗用車と激突(81歳男性死亡)。8日、山梨県北杜市で80歳代の男性が運転する軽トラックが道路脇のコンクリート壁に激突(運転者死亡)。10日、兵庫県小野市にある病院の駐車場で81歳の男性運転の車が車止めを乗り越えて複数の車に衝突、近くにいた妻(77歳)を死亡させた。10日、福岡県柳川市の県道で72歳の男性が運転するミニバンが右折しようとしたところへ直進の乗用車が突っ込み2人の高校生が巻き添えをくらって負傷(命に別条なし)。10日、香川県綾川町の道路で70歳の女性が運転する軽自動車が88歳の女性をはね死亡させた。13日、兵庫県西宮市で女性(69歳)運転の車が保育園児ら19人の列に突っ込み、園児2人負傷、もしかして今日もどこかで・・・

 

このように『相次ぐ高齢者運転の自動車事故』に対応するため政府は、安全機能がついた自動車を運転することが出来る「高齢者専用の新たな運転免許制度」を作ろうと動き出した。2019年度中に方向性を決めるとしているが、現時点で論じられているのは「75歳以上の高齢者を対象にするも、選択制で義務付けではない」としている。“義務付けでない”とすれば果たしてどれだけの効果が期待出来るか疑問視する声も聞かれる。

 

ところで、高齢者運転の自動車事故の原因について警視庁の調べによると「他の自動車や人への安全確認不履行」38.1%、「交差点安全確認不足」16.6%、「前方不注意」12.6%、「ハンドル・ブレーキなど誤操作」7.1%、「動静不注意(相手車輛の存在は認識していたが、相手の車両の動き方の注意を怠った)」6.7%、「歩行中の歩行者妨害」5.1%、「信号無視」2.2%、「その他」11.6%、となっている。事故を起こした高齢運転者の言い分は「今までにこんなことはなかった(過去の自分の運転歴への過信)」、「ブレーキを踏んでも利かなかった(自分の誤作動をタナに上げて車のせいにする)」、「こんな場所に人(や車)がいるとは思わなかった(他の自動車や人に対する安全確認不足)」、「信号が青だった(他の信号を見ての錯覚)、「一時停止の標識に気づかなかった(うっかり)」が多い。それと、一般道路での一方通行路や高速道路での逆走は、もはや“狂気(凶器)の沙汰”と言うしかない。それらの“元”をただせば“認知症の疑い”が濃いと言われている。

 

国立長寿医療研究センターの発表によると「65歳以上の高齢ドライバーの6割以上が中等度の認知障害を抱えている。日常的にはなかなか分からないが、何かのきっかけで突然、発症することがある。それが自動車運転時では重大事故に繋がる恐れがある」とのこと。2017年3月に改正された道路交通法に基づいて、高齢者の運転免許更新講習が2つのパターンで行なわれるようになったことはご承知の通り。つまり70歳~74歳までは従来通りの“高齢者講習メニュー”。75歳以上から(高齢者講習の前に)“認知機能検査“が行なわれるようになった。この”認知機能検査“で規定点以下の場合は専門医の診断を受けなければならないし、その診断によって”認知症“と認定されれば、免許更新は出来なくなる。

その制度は大いにけっこうだが、(前述の)「65歳以上の高齢ドライバーの6割以上が中等度の認知障害を抱えている」のであれば、この“認知機能検査”は65歳以上の高齢者から行なうようにしたらいいではないか、と翁は思うのだが・・・

 

『相次ぐ高齢者運転の自動車事故』に対して、警視庁では次のような注意を促している。

「“信号無視”は重大な人身事故を招く」、「“横断禁止“の場所でも、幼児や高齢者は横断することがあるので前方注意でスピードを落とす」、「”一時停止“場所での車同士・自転車・歩行者との衝突事故が多いので標識に従うことは勿論、信号機や標識の無い交差点・曲がり角では周辺への安全確認を怠らないように」、「慣れた道でも油断は禁物。高齢者の交通事故は自宅周辺でも多発」、「体調が悪い時や夜間の運転は控えよう」。そして「ご家族と相談してお早めに免許証の自主返納を」と呼びかけている。

 

さて、翁、“転ばぬ先の杖”を考えて愛車を手放してから1年半が過ぎた。だが、未練はいまだに消えない。新車のCMを視ると「あんな車が欲しい」という欲求にかられる。ドライブする夢はしょっちゅうだ。でも、悲惨な高齢者運転の自動車事故のニュースを視たり聴いたりするたびに「あんな目に遭わずに済む。愛車との別れは“勇気ある決断”だった」と己れを慰める。そう言えば翁は最近“うっかり”や“物忘れ”が多い。間違いなく老化現象が著しくなったのだ。“物忘れ”がひどくなったのなら、いっそのこと“車への未練”も早く捨てて(忘れて)しまわなければ・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』。