龍翁余話(577)「上州・沼田へ日帰りバスツアー」

 

数年ぶりに來日したハワイからの客人に“日本の初夏の味”を楽しんで貰おうと某ツアー会社の『サクランボ&イチゴ狩り~日帰りバス旅行』に参加した。行き先は(NHK大河ドラマ『真田丸』の主人公・真田氏ゆかりの)群馬県沼田市。正直なところ翁自身はサクランボやイチゴ狩りより(プログラムの中の1つ)『吹割(ふきわれ)の滝』が見たくて、このツアーを選んだ。

 

      

 

 関越自動車道の沼田ICから40分ほどの所にあるH農園の『サクランボ狩り』(30分の食べ放題)から始まる。「標高400mの高地に育ったサクランボは高品質でとても甘い」と宣伝文句に謳われているが、それも時期による。6月上旬は少しタイミングが早かったのだろう、赤みも甘味もいま1つ。ここで栽培されているサクランボの種類は高砂・正光錦・佐藤錦・紅秀峰・ナポレオンの5種類だそうだが、どれがどれだか分からない。酸っぱいのが苦手な翁はもっぱら写真を撮るだけ。他の参加者(35人)はそれぞれに「甘い」、「酸っぱ い」、「美味しい」を発しながら盛んにほおばっていた。翁の客人は(初めて見るハウスの中に植わっているサクランボの木に驚いたのか)「How exciting!(とてもエキサイティング!)」と楽しそうにサクランボの木の下を歩き回りスマホカメラで撮影していた。

 

 

H農園の近くに『老神温泉』がある。伝説によれば、昔々、赤城山の神(大蛇)と日光の

二荒山(男体山)の神(大ムカデ)が争った際、矢傷を負った大蛇はこの地に辿り着き、

体に刺さっていた矢を抜いて地面に刺したところ突然、温泉が湧き出し、その湯に浸かっ

た大蛇はたちまち傷が癒えて男体山の大ムカデを追い返した、そこからこの地は“追い神”

と呼ばれ、その後“老神”に転じた、と伝えられている。その伝説に因んで老神温泉では

毎年5月上旬に『大蛇祭り』を開催しているそうだが、全長108mの巨大大蛇を担ぐのに約

300人が必要とのこと。2013年にはギネスブックに“世界一”と認定されている。翁(展

示館に展示されている)その巨大大蛇(の頭から途中まで)をカメラに収めたものの、少々

気持ち悪くて掲載を控える。大蛇に替わるのが(上段の)“真っ赤な絨毯”『ポピー畑』だ。

約7,000㎡(約2,121坪)の中に50万本ものアイスランドポピーやオリエンタルポピーが

咲き競う。「思いやり」「慰め」などの花言葉が観る人の心を優しくしてくれるようだ。

 

  

 

H農園のイチゴ(やよいひめ」は美味かった。大粒で上品な薄紅色、果肉もしっかりして

いて中まで赤く、程よく甘味と酸味のバランスがとれていて実に美味い。「ヘタの方から食

べるのがコツ」と係りのお姉さんに言われた通りに手当たり次第に食べまくったが、その

手が止まらないことに我ながら呆れ返った。翁の客人も「So juicy and sweet(とてもみず

みずしくて、甘い)」と盛んに口に放り込んでいた。

 

  

 

さて、翁期待の『吹割の滝』。“滝”と言えば、数10mの高い所から豪快に落下する水飛沫

が定番だが、ここは(観る人の)目線より下、つまり、凝灰岩や花崗岩の河床の上を流れ

る清流が1万年以上もの長い年月をかけて岩質の柔らかい部分を浸食して割れ目を生み、

その割れ目の中に大きな音を立てて落下、舞い上がる水飛沫が、まるで“岩が吹き割れて

いるかのように見える”ことから『吹割の滝』と命名されたとか。落差7m、滝幅30m。

 

“滝”には、さまざまな伝説が付きものだが、ここ『吹割の滝』にも“竜宮伝説”がある。

『吹割の滝』の“滝つぼ”は竜宮城へ繋がっているとされて来た。天候不良で不作が続い

たある日のこと、1人の若者が滝の傍で「久しぶりにお迎えする客人へのお膳さえ作れ

ない」と嘆いていた。それを聞いた乙姫様は竜宮城にある幾つかの立派なお膳を若者の所

に届けさせた。おかげでその青年は(集まった客人たちに)褒め讃えられた。そしていざ、

そのお膳を竜宮城へお返しする日、青年は“1つくらいいいだろう”とネコババしてしまっ

た。そのことを怒った乙姫様は、竜宮城へ繋がる滝つぼを塞いでしまい人間界との縁を絶

った、と言う伝説。そこから「借り物を我が物とせず、受けた恩を倍返しせよ」との教訓が

生まれたそうだ。毎年、翁のハワイ旅行のたびにお世話になっている客人に“倍返しのお礼“

が出来たかどうか分からないが「Today was a wonderful day(今日は素晴らしい日だった)」

と喜んでくれたことは何よりだった・・・っと、そこで結ぶか『龍翁余話』