「お近くですか?」



ありきたりの接客だったはず。



けれど、


夫婦の住む場所を聞いた猫はぴくっと耳をそばだてた。


「あ・・私その駅の反対側です。そこから自転車で来ているんです。」


きけば、

医師の勧めで体を動かさなくてはと、

一時間かけて自転車で通ってきているという話。


きっかけはそんなところだった。


以前の居住地を言えばそこの近くに猫の知人がいて、笑ってしまうほど良く街を知っている。


古書店に来た話から何を読むと猫が問うのに答えれば、


「あー、それ読む本同じです。」


と、

猫の尻尾が揺れる。



他の客が入ってもその客に出すハイボールを作りながらお構いなしで話し続ける猫も相当の書痴であろう。



ちょっとお茶をという軽さで入ったカフェなのに、気付けばバーで飲んだくらい時間がたっていた。







どうも妻は

猫を見つけるのが得意らしい。


いや、

猫にひきつけられる性質らしい。







「お前がそういわなかったら入らなかったと思う。」




夫が帰り道、楽しそうに笑った。




妻は溜息をつきながら



「良く女のヒトを猫にたとえることがありますけれど、それは違うと思います。

女は猫を装うだけ。

本当の猫はああいう男性ですよ。」



生まれついての自由人。



そう、

あなたもね・・・



という言葉は飲み込んで。