「ある大女優との出会い」 | 泳ぐ写真家龍之介

「ある大女優との出会い」



10年前、ある日の午前中に、

突然、某女性誌の編集者から電話がかかってきました。

「急な撮影で申し訳ないけど、本日の午後空いている?」

たまたま、空いていたので、

「誰撮るの?」

と返すと、

携帯の雑音のせいで、その名前が聞き取れませんでした。

とにかく、場所と時間を確認して出かけていくと、

都心のホテルの一室に、

初老の欧米人の女性が、にこにこしてソファに座っていました。

どこかで見た顔だな。と記憶をたどりながら、撮影の準備をしていると、

通訳の女性が、

たしかに、「クラウディア・カルディナーレさん」と言ったのです。

まさか?あの大女優が。と思い、

映画好きだったころの記憶を総動員して彼女の顔を見てみると、

そこに座っていたのは、まぎれもなく

往年の大女優、クラウディア・カルディナーレでした。

彼女には全盛期の面影はありませんでしたが、

その情熱的な目は健在でした。

敬愛するビスコンティ監督のこと、

現在でも仲の良いソフィア・ローレンのことを、

ヨーロッパ映画の生き証人のような彼女が、語ってくれました。


「ソフィア・ローレンは、気さくで陽気で、そのへんのおばさんと同じよ。」

「カトリーヌ・ドヌーブは、性格的に冷たく、好きになれなかったわ」

と語っていたのが印象的でした。

彼女はイタリア人ですが、生まれ育ちは北アフリカ。

北アフリカから南欧に吹く熱風をジブリ(宮崎駿のスタジオジブリはこのジブリから来ている。イタリア語の発音はギブリ)といいますが、

このジブリが大好きな彼女は、自分のことをジブリに例えていました。

確かに、若い頃の情熱的でセクシーな彼女はまさに、このジブリそのものでした。

中学時代に、当時セクシー女優の代名詞だった彼女のファンだった私を、

母は心配したものです。

彼女は、無名時代のジョルジョ・アルマーニの服を好んで着たそうです。

「大女優が着ているあの服は誰がデザインしたのだ?」

と、アルマーニは評判になり、一躍有名になったとか。

確かに、アルマーニは彼女のことを

「ミューズ」(女神)だといまだに讃えています。

撮影の前後に、英語が話せる彼女と、二言三言話をしましたが、

その体験は、この写真と供に、私の宝です。