「ガスバーナーの光」 | 泳ぐ写真家龍之介

「ガスバーナーの光」

大手出版社のNさんは、

女性誌黄金期に、数々の有名女性誌を立ち上げてきた名編集者です。

そのNさん、ある日、撮影が終わった後に、面白い話をしてくれました。

Fさんという有名な先生にモデル撮影をお願いしたときのこと、

Fさん、撮影スタジオで、

「僕の求める光が見つからないの!」と

ライティングのことで悩み始めたそうです。


そして、突然、


「ガスバーナーの光よっ!ぼくちゃんあれが欲しい!」

と言って、スタジオにガスバーナーを持ち込み、

スタジオマンが静止するのも無視して、火をつけたそうです。


そして、


「これよ!これ!」と、モデルさんの顔をバーナーの炎で照らし、

興奮しながらシャッターを切り始めたそうです。


Nさん、唖然としてその撮影の光景を眺めていると、

スタジオマン氏がうつろな眼でこう言ったそうです。

「ちょっと、まずいっすよ。酸素が少なくなっていませんか?」

編集者Nさんが、ふとわれに帰ると、

スタジオという密室で、バーナーを燃やしたせいで、

みな酸欠でうつろな眼をしていて、意識朦朧。

間一髪、スタジオマン氏が、ドアを開けて難を免れたそうです。


何事もなかったので笑える話ですが、

良いものを創ろうと、あれこれ何でもやっていた、

おおらかな時代を象徴するようなエピソードです。