「笑うキッシンジャー」
最近では世界の表舞台にでてきませんが、
かつては中国の周恩来や
ソ連のグロムイコと並び賞された
ヘンリー・キッシンジャーは、
20世紀を代表する政治家の一人です。
1989年に彼を撮る機会があって、
ミッドタウンの彼の事務所まで助手と出かけました。
彼はもともと不愛想で有名ですが、
特にカメラの前では絶対に笑わないと言われています。
アメリカ人のカメラマンから、
笑ってるところを撮ったらなんでも奢ってやるよ。
と言われたことを頭の片隅に入れて撮影に臨みました。
当時彼は腰を悪くしていて、
ポーズをとるのもいたいたしいほどでした。
このカットは、最後の1カットだけ切らずに、
彼に、「どうもありがとうございました。撮影終了です。」
とお礼を言った時の瞬間です。
その一瞬、彼が笑ったのです。
私はその時知らん振りしてシャッターを押しました。
彼の顔が真っ赤になったので、まずいとは思ったのですが、
「カメラの調子がおかしいな。」
などとぶつぶつ言いながら、
その場を切り抜けました。
しかし、後でプリントしてよく見てみると、
目が笑っていません。
思い出深い一枚です。