愛犬…というよりも家族。って千穂は言ってた。

ハル。黒パグの女の子。
2010年11月23日生まれ。

千穂は、その年ハルがまだこの世界に生まれる前に乳ガンが発病。

病名の告知とともに医師から言われた言葉は、もう子供が埋める身体ではないということだった。
ガンだからじゃない。抗がん剤を投与するから。
妊娠するとなると、抗がん剤治療は出来なくなり、母体の命は危うくなるから。

そして抗がん剤治療が始まり、数ヵ月で一時的に病状は良くなり、手術が出来るまでになった。
入院し、術後、リハビリを経て退院。
術後も抗がん剤治療は続き、看護師の職は一年間の休職。

ガン治療において、身体的な苦しさは当然ある。
それにともない、精神的にもかなりの苦しさがある。

そんな時のに2010年12月29日。
世間は年末モード一色。
うちも千穂と二人で大掃除をしていた。
当時アパートに住んでいた俺達の部屋は、広くもなく、大掃除も1日とかからなかった。
そしてパソコンを触り、見ていると一つのパグのブリーダーのホームページへと繋がった。

その少し前から、千穂は犬を飼いたいって言い出してた。
でも、千穂には大人になって就職し、独り暮らしの寂しさから、チワワを飼った事があった。
だが結果、実家へと預け、その内に実家の犬となった実績があった。

その実績から俺はダメだと言った。
「また実家行きになるやろ?」
「いいえ。絶対に面倒見ます!」
「嘘。」
「お願いします!お願いします!犬飼って下さいよ~。」
そんなやりとりをしてたけど、俺は心の中では、犬を飼って、千穂の生きる励みになるならいいかな?って思ってた。
そして、俺は言った。
「じゃあ、パグなら良いよ」って。
それは、ただ俺がパグの面倒をみたことがあって好きだったから。

千穂は大声で喜んだ。
そこからはパグ探しの日々。色は黒。
なかなか近くに黒パグはいないもの。

そのパグのブリーダーのホームページで、山口県の周南市に生まれたばかりの黒パグがいると書いてあった。
書いてあった番号に電話をしてみた。
「一度、見にこられます?」ブリーダーの人が言った。
「あーはい。いつなら大丈夫ですか?」
「いつでも大丈夫ですよ。」
「分かりました。じゃあ、妻と相談して決めます。また、連絡しますので」
そう言うと俺は電話を切った。

「千穂。いつでも良いってよ。どうする?」
「う~ん。明日は30日で何もないから明日!」
「はい?年末でブリーダーの人も忙しいやろ」
「聞くだけお願いします!!」
ゴリ押しで千穂に頼まれ、もう一度電話すると、「全然大丈夫ですよ」って。
「いいのかーい」って俺。
千穂は遊園地に遊びに行く子供の様に大喜び。
そして12月30日。
車で片道二時間半ほどで到着。
会うなり千穂は完全に欲しい欲しいモード。

分かってたけど、一応聴いた。
「どうする?」
「お願いします!」
千穂即答。

そして、うちにパグがやって来ることになった。
但し、生後に打つワクチンがまだ全部終わってないので、3週間後にまた迎えに来ることになった。
「その間に名前は決めておいてください。血統書を作るのに要るので」
帰り道。千穂は3週間のスケジュールをびっしりと決めていた。
うちに迎える準備やら何やら。

だけど、名前だけはなかなか決めきらなかった。
千穂は俺に一緒に決めようと良い、ずっと考えてた。

そして年は明け2011年1月。
迎えに行く前日の土曜。名前はまだ決まっていなかった。
「千穂。思いついた名前言ってみて」
「うーんとねー。ラッキー」
「は?マジか?パグやぞ。ラッキーはないやろ」
「んーと、じゃあ。ポチ。タマ。」
「それ、絶対ネコやん!!」
散々考えてその結果だった。

「じゃあ龍ちゃんは?」
「俺はねー。一個だけある。…ハル」
「何でハル?」
「千穂と俺に春が来ます様にってさ」
「なかなかいいやん」
まさかの千穂の賛同を得て、黒パグの名前は「ハル」になった。

翌日、ハルを迎えに行き、それからはずっと、3人で暮らしてた。
千穂はハルの面倒を見るために、頑張って治療した。
家にいると、ハルに癒されるって何度も言ってた。
アニマルセラピーってホントにあるんだなって思った。
一年、二年とハルとともに日々を過ごした。

だけど、2013年2月9日。千穂はハルと俺を残していってしまった。
遠い遠いところへ。
それから一年、残されたハルと俺は一緒に生きてきた。

でも、それはいきなりだった。
2月の終わりの頃からだった。
ハルの体調が色々と悪くなった。背中の湿疹や鼻や目の炎症。
そして投薬で調子を戻した先週末。
後ろ足の痙攣。
おかしいと思い、かかりつけの病院に行った。
血液検査にレントゲン。
原因が分からない状況だった。
ただ、少しずつハルは弱ってた。

そして一昨日、ハルを経過観察で入院させた。
一夜明けて、病院に連絡した。
ハルの様子を聞くと、あまりよくない様子だった。
病状は悪く進行してるって言われた。
先生と話して、福岡に一つだけMRIのある病院を急遽予約した。
そして、俺が先生に予約がとれた事を伝える為に電話した時だった。
「今、全身が激しく痙攣し出しました。今から来れますか?」

俺はすぐに向かった。

病院に着いた俺の目に見えたのは、いつもの元気で食欲旺盛なハルじゃなかった。

2014年3月26日12時40分

ハルは千穂のもとへ旅立って行ってしまった…。

ハル。何度、俺はハルと口がきけたらって思っただろう。
何度、ハルに感謝しただろう。
ハル。ハルがうちに来てくれたから、千穂と俺は辛い闘病生活を笑って生きてこれた。
ハルがいてくれたから、千穂はあの日まで生きることが出来た。

3年と少ししか一緒にいれなかったけど、たくさんたくさん、ありがとう。

まだ、千穂には会えていないかな?
まだいつになるかわからないけど、また必ず3人でいよう。
ハル。いつまでも大好きだよ。




不思議だな。
ハルがいなくなった昨日は雨。
そして、今日は晴れ。
去年の千穂の誕生日に植えた庭の桜の木。
今日、初めて蕾が咲いたよ。
ハル。春をありがとう。