理佐side


それからというもの私と保乃の距離は瞬く間に縮まった。

お互いの家を行き来したり、空いてる楽屋で2人きりの時間を過ごしたり…

あの日もいつものように空いている楽屋に2人きりでいた。

 「りさぁぎゅー」

 「はいはい」

今日の保乃はいつもに増して甘えん坊だった。
ふわっと保乃を抱き締めると何とも言えない安心感が私を包み込む。

それが伝わっていたかのように保乃が喋る。

 「保乃な、理佐に抱き締められるとめっちゃ安心するねん」

 「私も」

 「でもな、落ち着かんねん」
 「ドキドキするねん」
 「…理佐はちゃうんやろうけど、」

 「…」

どこか寂しそうな保乃に心が痛む。
なんで私は同じだけの気持ちを返せないんだろう、

 「まだ忘れられへんのやろ…?」

わかってた。
原因はそれしかないって。
それでも気付かないふりをしていた。

 「その方がええって保乃は思っとるで?」
 「忘れられたら保乃は捨てられる運命やしな、笑」
 「せやけど…忘れて欲しいねんな、」

 「…ごめん」
 「ほんとにごめん」

保乃の乾いた笑いに耐え切れなくなった私は更にぎゅっと強く抱き締める。

 「保乃な、ほんまに好きやねん」

 「…うん」

抱きしめた腕を緩めて、じっと保乃の顔を見る。
複雑そうな、苦しそうな、そんな表情。
こんな顔をさせてしまっているのは私なんだ。

 「理佐、好き」

 「私も…好きだよ」

 「…名前、呼んでや…」

保乃の潤んだ瞳。
申し訳なさと自責の念が私の心を埋め尽くす。

 「…保乃、好き…」

保乃が諦めたような顔をする。
そんな顔させたくない。
保乃には、保乃だけには、笑っていて欲しい。
そんな私の我儘な思いと唇を共に保乃に押し付ける。

ほどなくして、私たちは舌を絡め始める。

 「んっ…」

静かな部屋にリップ音が響く。
もっと…でも…
そんな葛藤が頭をよぎった。

突然思いっきりドアが開く。
そこに立っていたのは私が今一番会いたくない人だった。
驚きのあまり私も保乃も硬直していた。

 「理佐、間違ってる…そんなの間違ってるよ、」
 「後輩にまで手出すの?」

一瞬困惑したけど、由依の目線から見たらそうかと納得する。
でも焦りは収まらない。

すると隣の保乃が焦ったように口を開く。

 「ゆ、由依さん、違うんです、これは…」

 「何が違うって言うの?」

保乃の言葉を遮ってそう言う由依の圧は凄かった。

 「これは、私から理佐さんにお願いしたことで…」
 「だから理佐さんは何も悪くないんです」

 「は…?」
 「なに?理佐はお願いされたら誰とでもこういうことするの?」
 「保乃も保乃だよ、なんで…「違う」

保乃が傷付けられる、そう思うと耐えられず由依の言葉を遮って否定した。

 「違うから」
 「保乃ちゃんは私のことを思って…」

当然の如く私の弁解は聞き入れてもらえなかった。

 「…2人とも最悪だよ」
 「プロ失格でしょ」

それだけ吐いて、由依は去って行った。
由依の言ったことは至極真っ当なものだった。

保乃との関係は終わりにしなければいけない。
そう思った。

そんなことがあってから、由依はグループでの仕事を休むようになり顔を合わせることはほとんどなくなった。