すべて由依ちゃん視点です。
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家に帰りたくない。
あんな家、もううんざり。
だけど行くあてなんかないし、帰らないと後が怖い。
だけど全身を支配する恐怖と拒絶が私の体を硬直させる。
そのままその場にへたり込む。
誰かにこんな姿を見られたら…そんな思いから体を最大限縮こまらせるように体育座りをする。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
顔を膝に埋め、ただ時間が過ぎるのを感じていた。誰かに話しかけられるかもしれない恐怖と共に。
そんなとき、1つの足音が私の前でその音を止めた。
足を若干引きずりながら歩くような気怠そうな音だった。
「君、家出?」
「家来る?」
片手はポケットに突っ込まれ、もう片方の手は電灯に照らされて凄く明るく見える短い茶髪をいじっている。
グレーのパーカーに黒い長ズボンを着た若そうな女の人が気怠そうに声をかけてきた。
「…いい、です…」
「はぁ…」
何度も聞いたため息。
その後に続くはずのいつもの言葉と親の声が脳内で暴れ回る。
そんな苦痛に顔を歪めていると突然を腕をぐいっと引っ張られる。
殴られる…
反射的にぎゅっと目を閉じる。
そんな私に降ってきたのは拳ではなく
「子供の癖に一丁前に強がんな」
という言葉だった。
私の手を引いて歩くその人はもうかなり寒く感じられる夜なのに「あーあっつ」と言いながら、私の方をほとんど見ずに着ていたパーカーを投げてきた。
「えっ、」
「邪魔だから着といて」
言われるがまま着たそれは暖かくて心地良かった。
家に着くとその人はやっぱり私の方は見ずにスタスタと家の中に入っていく。
私は…突っ立っていた。
どうしていいかわからなくて。
すると家の奥へと入っていったはずのその人が帰って来て無言で頭を撫でてきた。
そしてお風呂に入れてくれた。
身体中にあった傷の手当てもしてくれた。
座らされたソファーでぼーっとしていると肩を優しく叩かれる。
そして今度はダイニングテーブルに座らされる。
しばらくすると目の前に美味しそうなカレーが置かれる。
「ん」
「…食べていいんですか、?」
脳内で再生される光景。
美味しそうなご飯が置かれたテーブル。
ヒートアップしていく口論。
その横で黙って俯く自分。
冷めていくご飯。
テーブルと共にひっくり返されるご飯。
それを片付ける自分。
そして飛んでくる拳…
「いいに決まってる」
「君に食べさせるために作った」
「君のためのご飯」
「食べていいよ」
自分でも感じるほどすごい勢いで食べる私を頬杖をつきながら見るその人の目はどこか寂しそうだった。
だけどそんなことよりも私は"私のための"ご飯に夢中だった。
「ねぇ、」
口にパンパンにカレーを詰め込んだまま顔を上げるとその人はふっと笑う。
「やっぱなんでもないわ」
「美味しい!」
久しぶりに心から笑った気がした。
「ありがとう!えっと…その…」
「理佐」
「え、?」
「名前、理佐」
「ありがとう!理佐!」
「呼び捨てかよ」
困ったように笑う理佐の笑顔は今まで触れてきたどんなものよりも優しかった。
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謎作品ですね。
久しぶりということでお許しください🙇🏻♀️