家に帰り、昨日のようにのんびりと過ごす。
昨日までの居心地の悪さはかなり薄れて快適に過ごしていた。
そんなときインターホンが鳴った。
ピーンポーン
「なんだろ…宅配かな?」
「あ、私出るよ」
「あ、本当ですか?ありがとうございます!」
何気なくドアを開ける。
…それが間違いだった。
「はーい」
「え…」
ドアの向こうにいたのは由依だった。
「なんで…?」
「なんでって今日の理佐とひかる見てて、きっとひかるの家に居候でもしてるんだろうなって、そう思ったから」
上手くやり過ごせたと思っていた。
でもよくよく考えればあんなヒントだらけの状況で勘のいい由依が気づかないわけがなかった。
「理佐さーん、なんでしたか…あ、」
ひかるちゃんも由依の姿に驚きが隠せずにいた。
「あ、ひかる」
「ごめんね?理佐が居候なんて…」
「…全然大丈夫です」
ひかるちゃんは敵対心剥き出しだった。
それは由依も同じだった。
「理佐邪魔だろうから、こっちで引き取るよ?」
「迷惑かけてごめんね」
そう笑う由依の目は1ミリも笑っていない。
「いえ、全然大丈夫ですよ?」
「私、理佐さんのことが好きなので」
「邪魔とか迷惑とか思ったこと一度もないです」
「それに、由依さんなんかに渡せるわけないじゃないですか。なんでわざわざ好きな人を傷つけた人に渡さなきゃいけないんですか?」
由依はひかるちゃんの予想外の発言に言葉を失った後、さっきまで顔を貼り付けていた笑顔を消して
「ひかる、ひかるは理佐のこと何も知らない」
「だからやめときな」
「確かに由依さんほどは理佐さんのこと知らないかも知れません。でも確実に由依さんより理佐さんのこと愛してます。」
「…昨日、理佐さんとキスしました。もちろんその先のことも。」
「ちょっ、ひかるちゃん何言って…」
ひかるちゃんは当たり前かのように嘘をついた。それにさっきまで客観的に見ていた私もさすがに焦ってしまう。
弁解しなきゃと思っても頭が上手く回らない。
次に口を開いたのは由依だった。
「…理佐」
「私、やっぱり理佐が好きで好きでしょうがない」
「私のところに来てほしい…」
「わがままでごめん、」
そう言った由依の目はさっきまでの敵対心剥き出しの睨みつけるような目ではなく、自信なさげで少し潤んだ目だった。
「理佐さん」
「私は理佐さんといたいです」
「行かないでください…」
「好きなんです、」
ひかるちゃんも由依と同じような目をしている。
恋愛ドラマとかでありがちな展開に私は戸惑いが隠せなかった。
私に冷たく当たってきた由依。
私を好きだと言って優しくしてくれたひかるちゃん。
普通、この2人を天秤にかけたら簡単に答えなんて出るんだと思う。
でも、私の心の中にずっと居座ってるんだよ。嫌いなはずなのにその姿を見るだけでどんなに冷たくされたってなんでか心に温かいものが触れるんだよ。
なんでこんな人好きになっちゃったんだろって思うけど…
「私は、由依が好き」
「ひかるちゃん、ごめん…」
「たくさん優しくしてくれてありがとう、」
「…わかってました…」
「ごめんなさい、困らせちゃって…」
何度も何度も謝って何度も何度も感謝を告げてひかるちゃんの家を出る。
そして久しぶりに我が家へ帰る。
家に帰るなり由依が深々と頭を下げて、何度も何度も謝ってきた。
「もういいよ」
別に許したわけじゃない。
けど、私がこんな由依のことを好きになっちゃったんだから仕方ない。
もっと小さな喧嘩で済んだけど前にもこんなことがあった。
仲直りしたとき、由依は私にベタベタだった。
なのに今度はベタベタどころかすごく距離を置かれる。
やっぱり嫌われてるのかと思って由依の方に目をやるとチラチラずっとこっちを見てきてるのに気がついた。
その姿にさすがに笑えてきて、まだシュンとしているチワワに声をかける。
「由依、もういいって。ほら、おいで?」
そう言って両腕を広げてあげると由依は目をキラキラと輝かせて私の胸に飛び込んできた。
私の首あたりに顔を埋めてスーッと大きく息を吸い込んだかと思うと、由依は不機嫌そうな顔をして私を見てくる。
「ん?どうした?」
「…ひかるの匂いする…」
「そりゃそうでしょ、ひかるちゃんの家にいたんだから」
由依は一瞬諦めたような表情をしたけど、すぐにまたさっきよりも更に不機嫌そうな顔をした。
「…ひかるとシたの?」
「あ、それか…」
本当のことを言おうかと思ったけど、今までの怒りもあって少し意地悪をしたくなった。
「それか…じゃなくて!シたの?って聞いてるの!」
「んー、どうだろ…」
「でも…ひかるちゃん可愛かった」
そう言うと由依はさらにむっとする。
「キス!」
「は?」
「キスして!今すぐ!」
「え、嫌だ」
「てか、今由依に命令する権利ないよ?」
その言葉を聞いて由依が口を突き出していじけ出す。
仕方ないから助け舟を出してあげる。
「そんなにしたいなら由依がすれば?」
「は?」
「無理に決まってんじゃん!」
「そう」
「じゃあもう寝よー」
本当はこのまま寝る気なんてさらさらないけど寝室に行くふりをすると、由依が突然私の腕を引っ張ってきて無理矢理キスをしてきた。
とは言え、唇が触れたのは一瞬。
なのに由依は耳まで真っ赤にしている。
そんな由依をもうめちゃくちゃにしたくて今度は私が由依の顔を掴んで無理矢理キスをする。
でも触れるだけのじゃない。
深くゆっくり味わうように。
すると由依の目がとろんとしてくる。
これ以上はまずいと思い、ぱっと顔を離して今度こそもう寝ようとすると由依が私の服の袖を掴んできた。
「…なに?」
「続き…してもらえませんか…?」
その言葉に私は無意識に由依を持ち上げベッドに押し倒していた。
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これで『もういいかなって。』は完結になります!
感想などくださるとすごく喜びますので気が向いたらぜひ…