【一世の願い】
滞在1週間の予定を10日に伸ばし、演技指導に夢中になる日々の中で、ある日郊外にある移住当時の土地を訪れる機会があった。そこにはまだ、移住当時から引き続き農業を営む今帰仁村出身の家族が二世帯いた。そのなかで與那嶺さん宅を訪れたときに衝撃的な出会いがあった。
高齢になった與那嶺のお婆さんが突然訪れた私を抱きしめ、今帰仁の香りがすると涙を浮かべ頬ずりをしたのだった。
私は何も応えることができずに、太鼓を持ってこなかったことを悔やんだ。そして次回来訪するときは必ず沖縄のにおいがする太鼓を披露したいと強く思った。
そのような出来事があった中で、当時沖縄県人会の玉那覇会長さんや90周年祭の実行委員長の新里進一さんら、県人会役員の皆さんから90周年祭についての協力依頼を受けた。
「来年八月に開催される90周年祭に向けて、一大イベントを企画したい。それは私たち一世が中心になって開く最後の一大祭りとなるので、協力してほしい」
「後に続く二世、三世の代にウチナンチューとしての誇りを持たせたい」
「私たちを受け入れたアルゼンチン国に感謝の念を示したい」
との願いであった。
一世の母県沖縄に対する熱い思い、二世、三世に託すウチナーンチュとしての誇り等々一世の皆さんの発する言葉の一つ一つが、自分にウチナーンチュとしてアイデンティティーを呼び起こすものとなった。そして、90周年祭に全力を尽くして取組み、期待に最大限に応えたいとの想いが湧き出てきた。(つづく)
(文:與那嶺昭)