🗽NY日記 vol.2

 

—深夜のタクシー、ブロードウェイの灯—

 

JFK空港に降り立った瞬間、肌に触れる空気が変わる。

湿度が少し軽くて、どこか乾いたような、でも…温度の奥に“ざわつき”がある。

それが、ニューヨークの匂いだ。

 

入国審査を抜け、スーツケースを引きながら、

何度も通ってきたこの空港の、相変わらず雑然とした天井を見上げる。

「帰ってきた」とはまだ言えない。

でも、「また会ったね」と心の中でつぶやいた。

 

 

タクシーに乗る。

窓を開けたくなるけれど、深夜の街はまだ少し冷たい。

マンハッタンの灯りが、遠くで瞬きながら近づいてくる。

 

ブロードウェイの灯は、街の鼓動みたいだ。

 

赤と金のネオンが脈打つように瞬いていて、

眠れない都市が「さあ、こっちだ」と手招きしてくる。

 

何も言ってないのに、

「あなたの場所は、ちゃんと空いてるよ」と告げられている気がした。

 

 

運転手は静かな人だった。

ラジオも音楽もつけない。

その沈黙の中で、自分の呼吸と鼓動の音がよく聴こえた。

 

この瞬間が好きだ。

言葉もなく、誰も急かさず、ただ街に迎え入れられる時間。

目的地に向かって走る車のなかで、私の中の何かが静かに整っていく。

 

 

ホテルに着いた。

部屋に入り、窓のカーテンをそっと開ける。

眼下にブロードウェイ。

人の声、遠くのクラクション、誰かが笑ってる。

 

ああ、私はいま、またこの街の一部になっている。

 

深夜の部屋で、ひとり光に包まれながら、

ただそのことに、少し泣きたくなった。