Corri uomo corri (1968)

「クチーヨ」の異名をもつメキシカンのマヌエル・サンチェスが、時にコミカルに時にダイナミックに活躍するメキシコ革命を舞台にしたマカロニウエスタン。

 

本邦では劇場公開されておらず、

DVD発売に際して「続・復讐のガンマン」

と題されております。

 

1967年の「復讐のガンマン」(原題 La resa dei conti 英語タイトル The Big Gundown)において、名優リー・ヴァン・クリーフ氏とともに主演を分け合ったのが、こちらも名優トーマス・ミリアン氏が演ずるマヌエル "クチーヨ" サンチェスでした。

 

このクチーヨをメインに据えた「続編」

というかスピンオフ作品が本作であります。

英語圏では "The Big Gundown 2" と称されることも

 

 

「復讐のガンマン」のクチーヨ

 

本作のクチーヨ

 

original trailer

 

正直、前作「復讐のガンマン」より面白いかも

と思わせるくらいに充実した内容の映画です。

 

巧妙に入り組みつつも解りやすくメリハリのあるストーリー。ときにコミカル、ときに感傷的、ときにダイナミックな演出。なんといってもキャスティングが素晴らしい(もちろん役者さんたちの演技も)。

 

監督はセルジオ・ソリーマ氏

Sergio Sollima (1921-2015)

法学を志した若者は大戦中にレジスタンスとして実戦に参加、その後演劇分野に活路を見いだし批評家や劇作家として業界に関わりはじめ、脚本や演出など行いつつ41歳で監督デビュー。マカロニウエスタンとしては本作と「復讐のガンマン」「血斗のジャンゴ」の三作を残しましたがいずれも傑作の呼び声が高く、氏の監督の手腕の素晴らしさを物語っております。マカロニ・ブーム後も様々な作品を撮り続け、本国では大人気を博したTVドラマ "Sandokan" の監督として有名なのだそうです(Sandokan はメガヒットだったらしく、当時の新生児の名前に Sandokan がとっても多いのだとか)

 

主人公クチーヨを演じたのは前作同様トーマス・ミリアン氏

メキシコ国境付近を彷徨く、しがないコソ泥

のはずが…

Tomas Millian (1933-2017)

キューバで体制側の将軍の息子として生まれるが、クーデターによる父親の非業の死を目撃したのをきっかけに米国に移住、市民権を得てマイアミの演劇学校を経て、NYアクターズスタジオで演技を学び、ブロードウェイやTVシリーズで活躍したのちイタリアに移り、文学的作品から娯楽映画まで幅広く活躍(1969年にはイタリアに帰化)、マカロニウエスタンでも数多くの作品で個性的な役柄を演じていますが、一般的には70年代の探偵ものでの活躍が印象深いようです。またミュージカルやバンドなど音楽分野でも精力的に活動しました。80年代以降は米国その他国際的な舞台で晩年まで活躍されました。

 

職務質問から逃げた(まあ実際小銭を盗んではいた)ために投獄されたクチーヨは、同室の男から100ドルで脱獄を手伝うよう頼まれる。

明日恩赦なのに脱獄を願う、その囚人は革命の指導者ラミレス。

演じたのはホセ・トーレス氏

José Torres (1925-)

以前のブログにも書きましたが故国ベネズエラの俳優の草分けで、演劇に映画にTVにと大活躍。マカロニウエスタンでは悪役が多いのですが、ここでは知性的な革命指導者を見事に演じておられます!

 

脱獄に成功したものの、ラミレスが隠し持つ革命資金を狙ってクセ強な面々が目を光らせております。

 

まずは

革命家と謳ってラミレスに近づくものの、実はカネだけが目当ての山賊リザ。

演ずるはご存じネロ・パッツァフィーニ氏

Nello Pazzafini (1934-1997)

マカロニウエスタンでは悪役でお馴染み。元サッカー選手でフェンシングの達人、イタリア初のスタントマン養成学校の出身。イタリア国内外で数え切れないほどの映画に出演してます。

 

メキシコ政府も革命群の資金を狙い腕利きの傭兵ミシェル・セヴィニ大佐とジャン=ポールを送り込みました。

 

セヴィ大佐を演ずるのはマルコ・グリエルミ氏

Marco Guglielmi(1928-2005)

大学で経済学を学ぶ傍らで演技を始め、在学時から舞台演劇やフォトノベルで活躍、その後映画俳優や小説家および脚本家としても活躍した多彩な方。1950年代初頭から約80本の映画に出演しマカロニウエスタンでは「バンディドス」などへの出演で知られております。

 

ジャン=ポールを演じたのはエドワード・ロスことご存じルチアーノ・ロッシ氏

Luciano Rossi (1934-2005)

輸出入の会社員として働いていましたが演劇への渇望を捨てきれず脱サラして舞台演劇の学校へ、そして映画俳優へとなってマカロニウエスタンではお馴染みの顔に。まあまあサイコパスな役どころも多い方ですが、今回はスマートなフランス人傭兵を演じております。

 

有能な保安官として鳴らした男ナサニエル・キャシディも軍資金を狙う男の一人。

かつては革命軍と共に戦ったこともある凄腕ガンマンを演じたのはドナルド・オブライエン氏。

本作での彼はとにかくカッコイイの一言に尽きます。

Donald O'Brien (1930-2003)

米軍士官だったアイルランド人の父親のもとフランスで生まれ、幼少期にアイルランドに戻り(国籍はアイルランド)戦後ダブリンの演劇学校を卒業、当地で舞台演劇などでキャリアをスタート。気に入った役に恵まれずフランスに移住し会社員として働く傍ら演技を続け、1966年 "Grand Prix" で存在感を認められその後数多くの欧州映画に出演、本作をきっかけにマカロニウエスタンの役者として大成、その後も娯楽作品を中心に活躍しましたが1980年に頭部外傷で大幅に運動能力を失い、1990年代半ばには股関節の障害が顕著となって第一線を退きました。

 

革命軍の闘志サンティリアーナも軍資金を探し求めています。演じたのはジョン・アイアランド氏

John Ireland (1914-1992)

カナダ生まれ、NY育ち。水中スタント(タコと戦うとかやってたらしい)で生計を立てつつ、やがてハリウッド西部劇への出演で名を上げ監督業もこなしつつ第一線で活躍、1960年代後半には欧州でも映画俳優として活動、いくつかのマカロニウエスタンに出演しております。

 

クチーヨを追いかけるのはカネ目当ての男たちだけではありません。

昔からの恋人ドロレスはクチーヨとの結婚を迫ります。愛するがゆえ、大金はむしろ二人にとって邪魔になると考えているフシがあり、そこがストーリーを複雑に(面白く)しています。

ドロレス嬢を演じたのはチェロ・アロンゾ女史

Chelo Alonso (1933-2019)

キューバ出身の彼女はダンサーとしてキャリアをスタート、本国で大人気となったのちパリでも成功を収め、女優としても欧州で大いに活躍(エキゾチックでセクシーなダンスが国際的に高評価だったようです)、「続・夕陽のガンマン」でクレジットされないながらも出演を果たし、本作で重要な役柄を演じ、その後「ガラガラ蛇の夜」でもドロレスという役で出演しております(本作のドロレスとは関係なさそうだけれど…)。1980年代にショービズを引退してからは猫のブリーダー(!)およびホテルの経営者として手腕を振るったとのこと。

 

クチーヨが偶然であった「救世軍」(なんだか怪しげな慈善活動団体みたいな感じ)のペニー・バニントン嬢も、いつしかクチーヨにゾッコンに…

演じたのはリンダ・ヴェラス嬢

Linda Veras (1939-)

1959年に女優デビュー、シリアスな役どころからセクシー系、コミカルな役までこなし、マカロニウエスタンでは「ブラバドスの黄金」のシャノン役や「西部悪人伝」のジェーン役が印象的。

 

クチーヨを巡る三角関係…二人の美女の争いもみどころではあります。

 

実はペニー嬢のお父様は、ラミレスが軍資金を隠したとされるバートンシティの市長、クリストファー・ベニントン。

この手の役どころではお馴染みのジャンニ・リッツォ氏が演じております。

Gianni Rizzo (1924-1992)

ローマ出身、1940年代から俳優として一線で活躍、映画TVを問わずシリアスな役からコミカルな役、悪役など多彩な演技で数多くの作品に出演されました。同じくソリーマ氏のメガホンによる「血斗のジャンゴ」やサバタシリーズ、サルタナシリーズなどマカロニウエスタンでもよく見かける顔です。今春日本初公開で話題の「ラ・カリファ」にも出演しているようです。

 

そして、物語の序盤であっさり退場してしまいますが、マカロニウエスタンではお馴染み(僕はイタリアの管貫太郎と呼んでます)リック・ボイドことフェデリコ・ボイド氏も出演しております。

Federico Boido (1938-2914)

26歳で俳優デビューしてから、数多くの娯楽映画に出演(マカロニウエスタンでもすっかりお馴染み)、2001年まで現役として活躍されました。

 

くせ強めな豪華キャスティングに、入り組みつつも明快なストーリ、ソリーマ監督の絶妙な演出とあっては面白くないわけが無い!

さらに場面を際立たせているのが巨匠ブルーノ・ニコライ氏の音楽。

Bruno Nicolai (1926-1991)

言わずと知れたイタリアの巨匠。エンニオ・モリコーネ師とのコラボで有名ですが、実はマカロニウエスタンのサントラメーカーとしてはモリコーネ師をしのぐ活躍ぶり。マカロニウエスタンというジャンルを支えた立役者の一人であります。

映画100本、TV40本のサントラ以外にも12音技法を駆使した現代音楽の巨匠として数多くの交響曲や室内楽曲を生み、ボローニャ音楽院の教授として、また現代音楽雑誌 "La Musica" の創刊と編集に携わりました。

 

本作では魅惑的なニコライ氏の音楽が堪能できますが、とくにオープニングの主題歌は主演のトーマス・ミリアン氏自らが歌う "Espanto en el corazon" が素敵。

 

わたくしも本作のサントラを、ロックやファンクを加味したアレンジでカバーしてみました。

是非お聞きいただければ幸いです!

 

ずいぶん暖かくなってきましたが、寒暖差には注意して

佳きマカロニウエスタン、ライフを!

 

アディオス、アミーゴ!

(^-^)