Perché uccidete ancora (1965 伊・西)

直訳すると「なぜお前は殺しを続けるのか?」

 

日本公開は1967年

邦題「嵐を呼ぶプロ・ファイター」

 

マカロニウエスタン最多出演記録保持者である、アンソニー・ステファン氏の初主演作です。

(同年12月公開の「荒野の棺桶」が初主演という説もあるようです。撮影時期の前後はあれど、最初にお目見えしたという意味でやはり本作なのでしょう)

Anthony Steffen (1930-2004)

当時は「イタリアのイーストウッド」の異名をとる人気者だったようで、マカロニウエスタンを代表する役者さんといっていい存在ですね。残酷で荒々しいマカロニワールドにあって、伯爵家出身、父マヌエル・デ・テフェはブラジル大使でもありF1パイロット、母も貴族階級という超エリートの血筋を時に感じさせる温厚さ、優しさ、控えめなところもまた彼の魅力と思っております。

 

色々な方がレビューしてますが、おおむね…

「いつものようにステファン兄がしょぼい」とか「展開に矛盾」「ラスボスが意外なひとで不自然」「ラストの決着がかっこ悪い」等々

まあ、とにかく批判というか「小馬鹿にしたような」論調が多く、ちょっと閉口してしまいます。

 

なんだかね、ステファン兄いの主演作は

どれだけバカにしてもいいサンドバッグみたいな風になってるフシがあるけど

 

いや百歩譲って、当時リアルタイムで観た方々がそう仰るのは、同時代ならではの空気や諸々を尊重して許そう。

しかしながら

当時の空気や撮影状況等々を知り得ない「後追い世代」が、

先達の真似というか受け売りでステファン兄さんの批判をしている輩も多いように見受けられました。

 

ちゃんと観てる?

ほんとに

 

ちなみに僕は本作、とっても出来の良い映画だと思っています。当時のレベルというだけでなく今でも通用する、と。

 

まず、構図が素敵。

「いかにも」なカメラワークではありますが。

ちょっとセルジオ・レオーネ氏を意識してるんじゃないかと思える画がけっこう出てきます。

 

「荒野の用心棒」かと思っちゃいますよね

 

こちらは「続・荒野の用心棒」っぽいな、とか

 

この、逆光浴びながらファニングするステファン兄貴、びっくりするくらいカッコいい。

 

何気ないシーンも、構図がやたらいいので、とにかくカッコよく見える!

 

人物の位置、岩の形や配置の妙、計算されたものじゃないか、と。

 

こんな素敵な構図で撮った監督は

ホセ・アントニオ・デ・ラ・ローマ氏

José Antonio de la Loma (1924-2004)

バルセロナ生まれ、スペインの映画監督および脚本家。1950年代後半から1996年までに30本の映画を撮り、そのいずれもが成功作なのだそうです。とくに本国では「シネ・クインキ」と呼ばれる一連のクライム系映画の創始者としてリスペクトされているそうです。そういえばつい先日ブログにあげた "Nevada" もこの方が監督でしたね。あの作品も映像美に優れていました。

 

オープニングではデ・ラ・ローマ氏のみのクレジットでしたが資料ではエドワード・G・ミューラー氏も監督として名を連ねております。

Edoardo Mulargia as Edward G Muller (1925-2005)

マカロニウエスタン隆盛期の後半に数多く作品を残した方です、Wジャンゴやチャマンゴ、シャンゴ、待つなジャンゴ等々…

 

主演のアンソニー・ステファン兄貴が演ずるのは、復讐のために脱走兵となった男、スティーヴン・マクドゥガル

 

復讐の相手は父を惨殺したギャングのボス、ロペス。

演じたのはご存じホセ・カルボ氏

José Calvo (1916-19080)

スペインの俳優さんですが1950年代にコメディ役者としてイタリアでブレイク、そして「荒野の用心棒」での "権爺" 役で世界的に名の知られた存在になり、マカロニウエスタンはじめ様々な映画で晩年まで活躍されました。

 

ロペス・ギャングの実質ナンバーツーであり、ロペスの長男マヌエルがスティーヴンの前に立ちはだかります。

演じたのはウーゴ・ブランコ氏

Hugo Blanco (1937-)

アルゼンチン出身、5歳で演劇を始め本国で若くして有名になり1961年代にスペインに移ってからも数多くの出演を誇り、1990年代まで第一線で活躍されました。

 

しかし、マヌエルはスティーヴンとの決闘に敗れ地に這う結果に。すると当然ながら今度はロペスが怒り心頭。

「息子の仇を!」と

そもそも、ロペスがスティーヴンの父を殺したのも復讐だった(理由は語られていないが、かつてロペスを半身不随に追い込んだのがスティーヴンの父だったらしい)

憎しみと復讐の連鎖~本作のタイトル "Perché Uccidi Ancora" が想起されます~は空虚なこと。こんな不毛な意地の張り合いを続けるバカな男たちを止めさせようとするのはいつも女性。

 

スティーヴンの妹、ジュディ・マクドゥガル。

演じたのは名女優イダ・ガリさん(イヴリン・スチュワートの名でクレジットされていることが多いです)

Ida Galli (1939-)

教師になるためローマに上京した彼女でしたが、20歳のときスカウトされて映画出演、以後数々の出演作に恵まれました。マカロニウエスタンでもお馴染みですね、ちなみに旦那さんはサッカー選手、娘さんも息子さんもショービズで活躍されたそうです。

 

兄の身を案ずるのは、妹のジュディともう一人

ロペスの娘でありながらスティーヴンと恋仲のピラール・ロペス。

演じたのはジェンマ・クエルボ女史

Gemma Cuervo (1936-)

スペインの女優さん、18歳で映画デビューし数多くの映画、TVに出演し1969年には同業の夫フェルナンド・ギレンとともに劇団を設立、2000年代まで一線で活動されました。

 

ちょっとしたロミオとジュリエット的な立ち位置や、女同士のちょっと緊張感のある関係性など、サブプロットも充実していて面白いですね。

 

マヌエルを殺害されたロペスが雇った腕利きの殺し屋

エル・グリンゴ

演じたのはアルド・ベルティ氏(クレジットはリチャード・マクムーア)

Aldo Berti (1936-2010)

20歳で銀幕デビュー、おもにバイプレイヤーとして数々の映画で活躍しました。マカロニウエスタンでは悪役でお馴染みですね。

 

グリンゴが従えるロペス・ギャングの面々もグリンゴと共にスティーヴンを追い詰めます。

実質ナンバーツーはホセ・トーレスが演じるポンチョのガンマン。実に憎たらしい演技で盛り上げます。

José Torres (1925-)

実は彼、ベネズエラでは初の俳優さんということで本国では相当なリスペクトを受ける方なのだそうです。1941年から活動開始し1953年に渡欧、各地で映画やオペラで活躍、マカロニウエスタンでも様々な役で存在感を示しています。1970年代以降は母国での活動が中心となり、1995年にはベネズエラの国民的ヒットTV番組にレギュラー出演し若い世代にも知られる存在なのだそうです。2010年代になっても現場で活躍し、2024/06月には99歳になるそうです!

 

ナンバースリーの立場にあるのはロホ。しかしロペス一家の残忍なやり方には辟易している様子。

演じたのはイグナツィオ・スパラ氏

Ignazio Spalla (1924-1995)

イタリア出身の俳優さんですがマカロニウエスタンではよくメキシコ系の役柄が多い印象で、一見悪役顔ですが案外気のいい奴だったり主人公を助ける立場だったり、コメディ的演技も光る名優です。1970年代後半には引退されたようです。

 

 

エル・グリンゴは暴走し雇い主のロペスを殺害し

大金を奪って逃走

 

抵抗しようとしたピラールも凶弾に倒れ…

(これもいい構図ですね)

 

この危機的状況を伝えたのは町の棺桶屋

演じたのはご存じフランコ・ペッシェ氏
Franco Pesce (1890-1975)

お父様も俳優で、幼少期は歌手を目指していたそうです。それにしても1980年生まれということは、実際に西部劇の時代に生まれていたということですね!カメラマン、撮影監督を経て俳優としての地位を確立、マカロニウエスタンでもすっかりお馴染みの顔に。死の直前まで演技者として過ごしたようで、いくつかの作品は彼の死後に公開されました。

 

まさかの展開。慌ててスティーヴンが駆けつけたが彼女を救うことかなわず

 

怒りに燃えるスティーヴンはグリンゴたちを追跡

大迫力の追走&銃撃戦へ

 

次々に敵を倒すスティーヴン、ついにグリンゴを追い詰めた…と思いきやグリンゴは卑怯にもジュディを盾にスティーヴンを武装解除。

 

善の心に導かれスティーヴンを助けようとしたロホも撃たれ

絶体絶命。

 

しかし、恐怖を乗り越えジュディは震える手で…

 

グリンゴを見事討ち取ったスティーヴンですが、駆けつけた騎兵隊によって逮捕され(脱走兵ですから)、おとなしく服役へ。

「生きてりゃ、またいい日が来るさ」と棺桶屋の明るい声が響く中、兄妹は再び長い別れへ

 "Blue Summer" の美しいメロディがとっても印象的です。

 

映画全編通じて流れる素晴らしい楽曲を提供したのは

フェリーチェ・ディ・ステファノ氏

(残念ながらご本人の写真は渉猟し得ませんでした…)

Felice Di Stefano (1915-1994)

イタリアの作曲家さんで、おもに映画音楽のフィールドで活躍、とくにマカロニウエスタンでは数多くの名曲を遺した方として知られています。
が、その音源はことごとく行方知れずのようで(権利問題とか?紛失とか?)

現時点で残っているのはマカロニウエスタンに関しては本作のシングル盤と「荒野の復讐鬼」のシングル盤だけのようです。

(他にあったら教えてください!)

 

 

ほんと、マカロニウエスタンのツボを押さえた素晴らしい楽曲を作る方です。エンニオ・モリコーネ師が先鞭を津つけたマカロニ・サントラの世界を、デ・マージ氏やブルーノ・ニコライ氏と同様「いちジャンル」として確立させた功労者の一人だと思っています。

 

そして本作の主題曲では「荒野の用心棒」以降、マカロニ・トランペットの第一人者として揺るぎない地位を確立したミケーレ・ラチェレンザ氏が素晴らしい音色を聴かせてくれます。

 

Michele Lacerenza (1922-1989)

イタリアの音楽一家に生まれ(父親もトランペット奏者のマエストロ)、音楽教師として生計を立てつつ自身もサンタ・チェシリア音楽院に学び(モリコーネ師とここで知り合い友人に)卒後に作曲家として活動を始めました。同じくイタリアの素晴らしいトランペッターであるニニ・ロッソ氏を推すセルジオ・レオーネを説得し「荒野の用心棒」サントラを半ば強引に演奏させたのがモリコーネ師(レオーネ氏は不本意に思っていて不機嫌だったので怖くて泣きながら演奏したというエピソードも残っています)。これによってマカロニ・サウンドの確立に彼がとてつもなく重要な役目を果たしたと思っています。

 

 

偉大な作曲家、偉大な演奏家。

僕なんぞは足下2万マイルにも及ばぬと承知しておりますが「好き」は誰にも止められない。

今回も頑張ってカバ-しました。

ぜひお聞きいただければ幸いですm(_ _)m

 

ゴールデンウィーク、いかがお過ごしでしょうか。

ちなみに「ゴールデンウィーク」という言葉は1951年に映画会社の大映が、観客動員増加のための宣伝効果を狙って生み出した言葉だそうですよ。

 

大映配給といえば

先日の「荒野の10万ドル」や、本作と同じアンソニーステファン氏の「荒野の棺桶」を配給していました。

こちらのカバーもお楽しみいただければ幸いです。

 

 

僕はもちろん、マカロニウエスタン漬けのGWですよ!

 

アディオス、アミーゴ!

(^-^)