雪山のマカロニウエスタンといえば
「殺しが静かにやって来る」がよく話題に上りますが
先日ご紹介した "El más fabuloso golpe del Far West -Nevada" と並び素晴らしい出来映えなのが
本邦では未公開の
"Quanto costa Morire" 1968
本作公開は1968年9月
「殺しが~」は1968年の11月なので、実は "Quanto costa morire" の方が先、ということになりますね。
クエンティン・タランティーノ監督の「ジャンゴ 繋がれざる者」(2012)や「ヘイトフル・エイト」(2015) の劇中に出てくる雪山のシーンに関して
多くの方は「殺しが静かにやって来る」へのオマージュだ、と意見を述べていますが
僕は個人的に「ジャンゴ 繋がれざる者」の雪山特訓シーンは、本作 "Quanto costa morire" の特訓シーンとの関与じゃないかと思ってますし
雪だるま撃つとこなんか一緒。
「ヘイトフル・エイト」の雪中疑心暗鬼大会は
"El más fabuloso golpe del Far West -Nevada" との関与じゃないかと思ってます。
閉ざされた雪深い山中、次々起こる惨殺、仲間内の誰かが犯人というサスペンス…共通点が多いなと思います。
物語は、キャトルドライブを襲撃して多数の牛を手に入れたギャング団が、大雪に伴う道路封鎖によって行き場を失ったことから始まります。
彼らは身を寄せたコロラド山中の小さな町を力で支配、
当初は言われるがままに奴隷と化した町民だったが
立ち向かった老保安官の死にもかかわらず
頑なに抗う若者に勇気づけられ、やがて目を覚ましギャングを一掃する
ザックリこんなお話。
このなかに色々な因縁を散りばめて、とても見応えのある作品となっております。
かつてギャングに父を殺された孤児…保安官に育てられた若者トニー
演ずるはアンドレア・ジョルダーナ
Andrea Giordana (1946-)
映画のみならずイタリアTV界や演劇界で数多くの足跡を残しています。1983年にはサンレモ音楽祭の司会を担当。マカロニウエスタンでは本作の他「ジョニー・ハムレット」や「デスペラード」で主演。
トニーの無謀とも思える必死な戦いぶりが、町の人々を目覚めさせる展開はなかなかに胸熱。
侵略者に対して「命がけの徹底抗戦か、侵略者の慈悲にすがって早期降伏か」という議論がありますが
本作では前者こそが救いの道、と謳っているように思えます。
彼の育ての父であり、誇り高き保安官ビル・ランサム。
不利を承知でプライドを賭けて戦い、散った。
演じたのはレイモンド・ペルグラン氏
Raymond Pellegrin (1925-2007)
フランスの俳優さん。仏国内ならず米国やイタリアの映画出演も多いようです。120本以上の映画やTV、舞台など幅広く活躍されました。
過去の経験から、侵略者の恐ろしさを知っている彼。
旧知の仲であるギャング団の一員ダン・エルから降伏を勧められるが頑として聞かず。己の死を以て無条件降伏の無残さを知らしめる結果となりました。
冷酷非情、ギャング団の絶対的なボス、スカイフ。
男は奴隷、女は慰み者、逆らう者には容赦ない死。雪に閉ざされた町を恐怖による支配が待っている。
演じたのはブルーノ・コラッツァリ氏
Bruno Corazzari (1940-2021)
マカロニウエスタンから現代劇、悪役から善人まで幅広い演技でイタリアの映画界、TV界で活躍されました。一部で「イタリアのクラウス・キンスキー」と称されたりするそうで、確かに狂気じみた悪党っぷりは近いものがありますね!マカロニウエスタンには本作以外にも多数出演しております。「殺しが静かに~」での「チキンの食べ方が汚いやつ」とか「サルタナ/導火線に火を付けて」での連邦捜査官とか「荒野の処刑」の無免許ドクターとか。
スカイフ・ギャングのナンバーツーがダン・エル
もちろん悪党ではあるけれど
当地の保安官ビルとは旧知の仲。実はトニーの父親。
スカイフに楯突くトニーを案じて仲裁を試みるも両者の対立は決定的にエスカレート。
正体を隠して息子の側につき、最期は非業の死を遂げることに…
演じたのはジョン・アイアランド
John Ireland (1914-1992)
カナダに生まれNY育ち、遊園地のウォーターショーで水泳パフォーマーとしてキャリアを開始、その後ブロードウェイで経験を積み1945年に映画デビュー。タフガイ役としてハリウッド西部劇の常連となり(スタージェス監督の「OK牧場の決闘」ではジョン・リンゴを好演)、さらには社会派の「オール・ザ・キングスメン」でオスカー助演男優賞にノミネートされるなど第一線で活躍。その後イタリアはじめ各国の映画に出演、ホラーからコメディ、戦争物や社会派ドラマなどジャンルを問わず映画にTVに数え切れないほどの出演を果たし、1992年白血病で逝去する直前まで銀幕で演技を続けたそうです。
この父子~再会と、打ち明けぬままの愛情、悲しいラスト~が本作を特別なものにしていると感じます。
雪中の特訓シーンは、観ているこちらも
つい笑顔がこぼれてしまう微笑ましさ。
語らう親子。男同士の絆、ここにあり。
悲しい最期ではあるけれど、親父は確かに
その逞しい生き様を息子の胸に刻んだことでしょう。
スカイフ軍団のナンバースリーに相当するのが
とにかく憎々しい悪役のロビン。
そもそもトラブルの発端を作ったのも彼
演ずるはクラウディオ・スカルチリ氏
Claudio Scarchilli (1924-1992)
ローマ生まれ、ペプラム時代からマカロニウエスタン、イタリア娯楽映画全盛期を駆け抜けた俳優さん。主に悪役のバイプレイヤーですが「夕陽のガンマン」「バンディドス」「黄金の棺」「ガンマン大連合」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト」「続・夕陽のガンマン」等々、有名どころに必ず顔を連ねております。
この悪党ロビンが手出ししようとしたのが保安官の娘、グラディス嬢。トニーとは相思相愛の仲だったため、いきなり地元民 vs ギャング団の対立構造が完成してしまうのです。
演じたのはベッツィー・ベル嬢
Betsy Bell (1943-)
ドイツ・ハンブルグ生まれで美人コンテストを経て芸能界へ。モデル活動しつつ歌手(シンガーソングライター)、そして女優。英語、ドイツ語に加えてイタリア語、フランス語、スペイン語に堪能なマルチリンガル。
史劇やクライムアクション、戦争ものなど本作含めて7作品に出演が確認されております。
この「隠れた名作」を監督したのは
セルジオ・メローレ氏
(写真を入手できませんでした…)
Sergio Merolle (1926-??)
1950年代からイタリアの数多くの映画にクレジットされています(多くは "Manager"として「アルジェの戦い」「ケマダの戦い」など。珍しいところでは 1951年の "Il capitano Nero" では俳優として関与しております)が、監督は本作のみ。1979年のイタリアTVシリーズ "La promessa" が確認できる最後のお仕事。ちなみにこの作品には本作同様レイモンド・ペルグラン氏とブルーノ・コラッツアーリ氏が出演しています)
ところでマカロニウエスタンファンの間では監督のファーストネームに「セルジオ」が多いことから
「第○のセルジオ」なんて言い方があります。
まあ、知名度的に「第一の」にふさわしいのがセルジオ・レオーネ氏、これは間違いないですよね。
彼に続くセルジオ、といったら
レオーネ氏の友達でもある(なにせ「用心棒」一緒に観に行った仲らしい)セルジオ・コルブッチ氏
彼が「第二の」で間違いないですよね
さて、ここからが難しい…
一般的には(いやあくまでマカロニウエスタンのファンの間で、ではありますが)「復讐のガンマン」「血斗のジャンゴ」を撮ったセルジオ・ソリーマ氏が「第三の」と呼ばれることが多いと思われます。
(マカロニウエスタンではありませんが「狼の挽歌 (1970)」も彼がメガホンを取った作品です)
と、なると「第四の」は…
「ジャンゴ・ザ・バスタード」「十字架の長い列」のセルジオ・ガローネ氏でしょうか。
上記の他に "Uccidi Django... uccidi per primo!!! (1971)" や "Quel maledetto giorno della resa dei conti (1971)" を残しております。
さあここからが難しい。
"El Cisco (1966)" を撮ったセルジオ・ベルゴンゼッリ氏か
「アリゾナ無宿・レッドリバーの決闘」のセルジオ・マルティノ氏か
はたまた本作 "Quanto costa morire" のセルジオ・メローレ氏か。
ちなみに同時期には、スパイものやホラーを手がけたセルジオ・グリエコ監督や、クライム~ジャッロ映画を得意としたセルジオ・パストーレ監督もいましたから
彼らがマカロニウエスタンも撮っていたら大混乱間違いなかったことでしょう…(んなアホな
そして、どんな監督であれどんな映画であれ
毎度クオリティの高い素晴らしい音楽を提供してくれるのがフランチェスコ・デ・マージ氏
Francesco de Masi (1930-2005)
RAI交響楽団随一のホルン奏者として鳴らし、その後彼の師匠から勧められ映画音楽の道へ。モリコーネ・タイプではない、マカロニウエスタンの劇伴の「もう一つの主流」を生み出した張本人ではないか、と思っております。
そしてデ・マージ氏と組むことの多い(と、いうよりマカロニウエスタンの主題歌歌ってる率ナンバーワンじゃないでしょうか。あるいはドン・ポウエル氏か…)歌手
ラオール氏
Raoul Lovecchio (1961-2014)
比較的「力強い」と表現されるタイプの歌が多い彼ですが、本作の主題歌はやや繊細な、うっとりする歌唱を披露してくれています。
いつものように12弦ギターのリフ、切なく響くストリングスのカウンターメロディが縦横無尽、そしてここぞと切り込むホルン。
当時のデ・マージ楽団の本領発揮といったところです。
実はこの曲、前年公開の "Due croci a Danger Pass" 「デンジャーパスの2つの十字架」でも、主題歌メロディが全く一緒なのです(歌詞は異なりますが)。演奏もほとんど一緒じゃないだろうか(なんなら同じオケ)
(こちらもお馴染み、我が師 保田氏のチャンネルからです、是非にご登録を!)
こっちが公開は先なのですが
"Quanto costa morire" の方が、歌詞と曲調が合っている気がするし、なんといってもサントラ盤が発売されている…
サントラ盤に収録の劇伴インストは、主題歌のアレンジメロが多く、明らかに主題歌とリンクして製作されたと判ります。
可能性としては
①「デンジャーパス~」の時に主題歌だけ作られ、のちに "Quanto~" で主題歌流用&同メロディを活用して劇伴を録音した
②そもそも映画として "Quanto~" が先に製作され、もちろん主題歌や劇伴も作られたが、何らかの事情で、流用した「デンジャーパス~」が先に公開された
ううむ、普通に②だと思うけれど…
誰かご存じの方がいらっしゃいまっしたらご教示いただけると幸いです。
ま、出自はどうあれカッコいい音楽は不滅です!
そんなわけで今回も頑張ってカバーしてみました。
お聴きいただければ嬉しいです!
そのうち「デンジャーパスの2つの十字架」もカバーしましょう^^
アディオス、アミーゴ!
(^-^