Testa o croce (1969)
直訳すると「表か裏か」
確かに、主人公がコイントスする場面が幾度か見られます。
とはいえ、ストーリー的にコイントスが重要な意味を持ってるわけではありません。
マカロニウエスタンといったら銃撃戦か復讐劇か黄金探しの娯楽作、という型を壊しに行った作品の一つである本作は
推理もの的なプロットをサスペンス仕立てにしながら、欲望と倒錯が織りなす人間模様を描き出したという
一種独特なテイストを持っていて、ある意味「情無用のジャンゴ」あたりに通ずる背徳感を感じてしまう、そんな一本です。
絵本が開かれるように映画は開幕します。
むかしむかしあるところに…
ではなく、1892年、テキサスで…と
謎めいた殺人事件から始まった物語。
富豪の死、隣にはサルーンの美人歌手がいた。
ふしだらな女性を集団リンチする「常識派」女性団体
(クエーカー教徒?)
半死半生の女子たちを見て逸に入るおば様方。
昨今の「フェミニスト」を連想しちゃいますね
そのリンチを目前に恍惚に浸る貴婦人…
救出されたはずの美人歌手、保安官らによって輪姦…
さらに砂漠に裸で放置…救ったのは無法の限りを尽くしてきたお尋ね者。
レイプ犯の一人は木こりの巨漢。羊の生き血を飲む野蛮な輩
その姿を目撃して吐き気を催しつつも、
この野蛮な巨漢に身をゆだねる貴婦人…
レイプ犯の去勢を執拗に狙う女…
狂ったものたちの饗宴の中で
凛として美しい純愛は、汚れ墜ちた女と凶状持ちの悪党。
そして悲劇的な結末へ…
ここで物語は閉幕。
1897年、アリゾナで…と、絵本は閉じられます。
マカロニウエスタンの魅力の一つである銃撃戦はほとんど見られず、ケレンミたっぷりの対決シーンや、趣向を凝らした必殺武器も登場しません。
監督はピエロ・ピエロッティ氏
Piero Pierotti (1912-1970)
もともとジャーナリストとして活動、その後脚本家、演出家あるいはドキュメンタリー作家を経、その後長編映画の監督として冒険映画やペプラム映画を中心に12本の作品(マカロニウエスタンは本作のみ)を遺したそうです。
主人公のならず者ブラック・タリスマンの異名を持つウィリアム・ヒューストンを演じたのはジョン・エリクソン氏
John Ericson (1926-2020)
ドイツ出身、渡米しNY芸術アカデミーに学び25歳でブロードウェイ・デビュー。米国の銀幕で活躍しその後TVやイタリア映画でも活躍。2000年代まで第一線で活躍されたそうです。
本作では、ニヒルだけれど真面目で男気あるお尋ね者をヒューストン味わい深く演じています。今ならペドロ・パスカルさんあたりに演じさせたい感じ。
悲劇のヒロイン、シャンダ・リーを演じたのはシュペラ・ロジーン嬢。
Špela Rozin (1943-)
スロベニア(当時ユーゴスラヴィア)出身、本国のドラマで大人気を博したのちイタリアのペプラム映画などでも活躍、マカロニウエスタンへの出演は本作以外に "Joko - Invoca Dio... e muori" (1968) でのヒロイン役が挙げられます。キュートだけど無邪気な表情から怖いくらいの大人の女性の表情まで、実に幅広い演技を見せてくれます。そして実は8か国語に堪能な才女。
本作では男性よりも女性陣が個性的で印象深いです。
結果的にラスボスであった資産家の妻にしていろいろフェチなキャラ、シビル・バートンを演じたのはダニエラ・スリナ女史
Daniela Surina (1942-)
イタリア出身、歌手やTVパーソナリティを経て映画女優へ。当初はコメディ、のちに社会派映画や野心的作品で活躍されました。マカロニウエスタンへの出演は本作のみ。
気位の高い未亡人から無邪気な女子、性的倒錯癖をもつ曲者女、そして犯罪も辞さぬ強欲…彼女も実にさまざまな顔を見せてくれます。女優さんってホントすごい。
リンチを受けたり、レイプ犯に去勢を迫る気丈な女性マヌエラを演じたのは若き日のエドウィジュ・フェネシュ女史
Edwige Fenech (1948-)
アルジェリア生まれのフランス系イタリア人で、女優として活躍し70年代にはセクシー系映画のトップランカーに上り詰めた方。その後TVのパーソナリティとして、また映画製作者として活躍。一時期、車好きなら知ってるモンテゼモロ氏(エンツォ・フェラーリ御大の死後フェラーリを立て直した方)と婚約していたそうで、息子さんはフェラーリジャパンの社長さんを務めていたそうですよ。
くせ者の多いキャストの中、唯一常識人が保安官。
演じたのはフランコ・ランティエリ氏
Franco Lantieri (1928-1991)
フランク・リストンの名でクレジットされることもあるイタリアの俳優さん。60-70年代の娯楽映画に数多く出演歴があり、マカロニウエスタンでは「皆殺し無頼」や「暁のガンマン」などなど。主人公ヒューストンとの熱いけれどドライな友情というか関係性が、不可解で倒錯の多い本作の中で光っております。
ラストでヒューストンの亡骸をぞんざいに扱おうとする葬儀屋を殴り倒すシーン、グッときます。
サントラを担当したのはご存じカルロ・サヴィーナ氏
Carlo Savina (1919-2002)
クラシック畑出身ですがポップス系にも精通したイタリアにおけるサントラ界のゴッドファザーじゃないでしょうか、実際のところ。若き日のニーノ・ロータやエンニオ・モリコーネ、スタンリー・マイヤーズなどに仕事を斡旋したり、自身も200を超えるサントラ製作を行うなど、少なくともイタリアに於いて映画音楽の父と言っていい存在。
マカロニウエスタンのサントラと言ったら、エンニオ・モリコーネ師やルイス・バカロフ氏を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実際マカロニを支えたのは前半カルロ・サヴィナ氏、後半ブルーノ・ニコライ氏ではないかという気がしてなりません。
クラシックからジャズ、ポップスからロック、前衛にいたるまでまさにオールラウンドなサヴィナ氏
本作ではストリングスを多用せずシンプルなメロディをシンプルなアレンジで表現している印象が強いです。
その分、主題歌である "Arizona is waiting" が、もの悲しい響きで胸に刺さります。
例によって僕の師匠、保田氏のチャンネルからOP~主題歌をご紹介。
ぜひチャンネル登録を!
この物憂げな主題歌、歌うはお馴染みラオール氏なのですが
作詞がなんとドン・ポウエル氏なんです。自らもマカロニ歌手第一人者でありつつ、ライバル(?) のためにこんな素敵な詞を書くなんて。
ラオール氏とドン・ポウエル氏、マカロニウエスタンの歌手二大巨匠といって差し支えないかと思われます。
Raoul Lovecchio (1939-)
代表的なマカロニソングは「南から来た用心棒」「荒野のお尋ね者」「七人の特命隊」あたりでしょうか。
Don Powell (1936-1995)
こちらの代表作は「ガンマン無頼」「黄金の三兄弟」「荒野の10万ドル」あたり、ですかね。
今回の "Testa o croce" 派手な曲や、アゲアゲの曲はなくって、全体にシンプルですが物憂げでディープな感情を呼び起こす劇中曲も多く、カバーしがいのある作品でした。
よかったらお聴きいただけると幸いです。
m(_ _)m
いよいよ春間近。
アディオス、アミーゴ!
(^-^)