Mi chiamavano Requiescat... ma avevano sbagliato
(1973)
このRequiescatという単語には「休息」や「安寧」「睡眠」そして「弔いのために祈る者」という意味があるそうです。
英語圏では
"Fasthand" あるいは "Fadsthand is still my name"
日本では残念ながら未公開。
1973年と言ったらマカロニウエスタンとしてはもう晩期。
とくに日本では本邦劇場公開はたったの2作品「ガンマン無頼・地獄人別帖」と「ロス・アミーゴス」のみだったようです。
なにしろこの年は「スーパーフライ」や「燃えよドラゴン」など新しい時代を告げるアクション傑作が登場しまして、本邦でも「仁義なき戦い」シリーズがスタート。かの007も新鋭ロジャー・ムーア氏を主演にリスタート「死ぬのは奴らだ」の年。
もはやマカロニウエスタンは死に体になりつつあった時代なのでしょう。ゆえに安易なウケを狙ったようなコメディ作品が数多く作られたのかもしれませんが、それは却って本質を見紛わせ、衰退を決定的なものにする遠因になったのかもしれませんね(必殺シリーズもこの轍を踏んだと思われ)。
コメディ全盛のマカロニウエスタン界隈にあって
ちょっと異彩を放つ作品が本作。
南北戦争直後、元南軍兵士官マチェド率いる極悪ギャングたちと、南軍残党狩りに精を出す北軍マディソン大尉の対決を描いたものですが
当時としては珍しく、笑い要素がほとんど(全く)ないシリアス一辺倒な作風…というか、シリアスなどという言葉では生ぬるい残酷描写や胸糞描写がまあまあ盛り込まれています。
「ミスター・ノーボディ」「進撃0号作戦」プロヴィデンツァの2作目なんかとは比べ物にならない「重たさ」です。
監督はフランク・ブロンストンことマリオ・ビアンキ氏
Mario Bianchi (1939-2022)
1971年にクレイグ・ヒルを主演に "In nome del padre, del figlio e della Colt" でデビュー、続いてロバート・ウッズ主演で "Hai sbagliato... dovevi uccidermi subito!"そして本作、とマカロニウエスタンを立て続けに撮りますが、その後は(というかマカロニウエスタンというジャンル自体が衰退していたからでしょう)クライムアクションやホラー、さらにはポルノの分野で活躍。ついに80年代にはイタリアポルノ映画の第一人者といえるスペシャリストになったとのこと。
主人公ジェフ・マディソン大尉は腕利きの北軍士官。
各地で無法を繰り返す南軍残党を殲滅する特別部隊を率いる男。
演じたのはアラン・スティール氏
Alan Steel (1935-2015)
本名は Sergio Ciani イタリア出身で元ボディビルダー。
1950年代後半からのペプラム映画ブームのさなか、鍛え上げられた体を生かしジャンルの第一人者であるスティーブ・リーブスのスタントダブルを務めて名を馳せたそうです。
その後独り立ちして「ヘラクレスもの」などで大活躍。ペプラムブームの後はいくつかのマカロニウエスタンやクライムアクション映画に出演されました。
南軍狩りで有名なマディソン大尉、これに対して
悪逆非道で有名な南軍ギャングの親玉がマチェド。
多くの手下を抱え、狡猾で冷徹。
演じたのはウィリアム・バーガー氏
William Berger (1928-1993)
様々な個性的なキャラクターを演じて名を馳せ、70年代になっても精力的に西部劇に出演をつづけ、最晩期の作品といえる「TEX」でジェンマ氏と、「ジャンゴ2」でフランコ・ネロ氏と共演、本ジャンルへの愛の深さと信じております。
本作では他に見られないほどの極悪キャラを演じていますが、なんというか愛され悪役というか。
ラスト近くの「うろたえるウィリアムバーガー」はもはや定番といった趣
捕らえたマディソン大尉に強烈なリンチを食らわせる、マチェド軍団の副官はクインシー。その短気さをボスに窘められるほどの暴力性。
演じているのはスペインの俳優さんフランク・ブラナ
Frank Braña (1934-2012)
ブラーニャと読む方が近いのかな。なんと生涯で200本以上の映画に出演したマスタークラスのバイプレイヤー。
ドル三部作やその他のレオーネ作品、サルタナシリーズ、ホラーやお色気もの、ペプラムにクライムアクション…イタリアの娯楽映画を観たら彼がそこにいる、くらいの感覚でしょうか。生前に自伝を出版なさっているそうで、いつか読んでみたいです。
マチェド軍団に於いてクインシーに次ぐ立ち位置にいるのがラウル。こちらは狡猾さが持ち味。
演じたのはギル・ローランドことジルベルト・ガリンデルティ氏
Gilberto Galimberti (1933-2017)
彼もまたイタリア娯楽映画の生き証人みたいな方で、ペプラムの時代から「続・荒野の用心棒」はじめマカロニウエスタン、その後のアクション系などなど、1990年代まで前線で活躍されました。
軍団No.3の位置にいるのがディエゴ。もっぱら体力的な部分で貢献している様子。マディソン大尉が仕掛けた隠し金の罠にはまって悲惨な最期を遂げた。
演じたのはフェルナンド・ビルバオ氏
Fernando Bilbao
彼も60年代から70年代にかけて、マカロニウエスタンやアクション娯楽映画のバイプレイヤーとして活躍しました。80年代以降は出演歴が少ないものの2002年スペインのコメディ映画に出演なさっております。
マチェド軍団のわりと下っ端で強奪した金の輸送用霊柩車の御者を担っていた男。演じたのはご存じロレンツォ・ロブレド氏
Lorenzo Robledo (1918-2006)
スペイン出身の俳優さんで、生涯150本の出演歴を誇るこちらも名バイプレイヤーですが、我らマカロニファンにとっては、ドル三部作における割と可哀そうな役柄で、その他でもまあまあ痛い目に遭う確率が高い方じゃないかと。
敵ばかりじゃない。ジョー・スマートはその名の通り賢くて手先も器用、勇気もある味方。
演じたのはフランシスコ "パコ" サンズ氏
Francisco 'Paco' Sanz (1921-200?)
デビューは早くて1941年。そして数多くのマカロニウエスタンへの出演歴があります。印象的な役柄も多い彼、個人的には「情無用のジャンゴ」の守銭奴の最期がインパクト大でした。
マディソンを献身的に助ける先住民女性スワン。
(僕が見たやつでは語られなかった、絶体絶命の大尉をスワンさんが助けるシーン、本来は存在するのでしょうね)
演じたのはセリーヌ・ベッシーさん
Celine Bessy
本作含む3本の映画出演以外に記録がないようで、詳細不明です…(誰か知ってる方がいたら教えてくださいませ)
凄惨な彼らの闘いに添える音楽は…これが意外にジャズというかソウルというか、しかも前衛的というか。
作曲はジャンニ・フェリオ氏
Gianni Ferrio (1924-2013)
ポップな曲から壮大なオーケストラ、ファンキーなロックから前衛的な音楽まで、まさにオールラウンダー!
本作でもその狂気の片鱗というか。
一聴すると典型的なブルーズ・ナンバーかと思うのですが
不協和音バリッバリのハーモニーに翻弄される後半。ピアニカ(?)のソロフレーズもかなり際どく攻めてます。
そして主題歌は気だるいR&B(心地よい)
歌っているのはアン・コリンさん
Ann Collin (1943-2016)
とってもセクシーかつドスの効いたパワフルな歌唱でもある本作の "That man" てっきり黒人シンガーさんだと思ってましたよ!
ええ、「キングと呼ばれた男」の主題歌も彼女ですね。
NY出身でロバータ・フラックさんなどと仕事しつつ第一子誕生後の1963年にイタリアに移住、マカロニウエスタンのサントラをはじめ数多くの仕事をこなし、サウジアラビアやポーランドでも活動、最終的にイリノイ州の大学で教鞭をとるため米国に戻り2014年の引退まで精力的に働いたとのことです。
実在の南軍ギャング、ヤンガーギャング団やジェシー・ジェームズなんかはこんな感じだったのでしょうか。
(もっともっと恐ろしかったという証言も…)
そして本作では何かと印象的な足元アップ。
トゲいっぱいのスパーがマチェドの残虐性を表しているようです。
うろたえるウィリアム・バーガー氏…
ビビッてうろたえる姿が一番似合うマカロニ俳優じゃないか、と思ってます。
右手が不自由になったマディソンの秘密兵器!
これぞ「ファストハンド、今でもそれが俺の名前」
やはりラストは別れが待っていた…
結ばれる系のハッピーエンドはジェンマ様の作品がよく似合う(その他一部マーク・ダモンさん)けれど、大概は孤独な道を征くガンマン…
70年代とは思えぬ残酷描写バリバリの
復讐する漢のマカロニウエスタン。
しかし音楽はアバンギャルドな70年代ソウル~ブルーズ風味
という
なかなかレアな組み合わせの本作
主題歌や劇中曲をカバーしました、お聴きいただければ幸いですm(_ _)m
ちなみに、ジャンニ・フェッリオ氏の作品といえば
以前にカバーした "Sentenza di morte" (1968) も
なかなか凝ったサウンド(凝ったというか思いっきりぶっ飛んだ)です。
こちらも頑張ってカバーしましたので、お楽しみいただければ幸いです。
ジャンニ・フェッリオおそるべし!
まさに底なし、のマカロニ&マカトラ沼
まだまだ探ってみたいと思っています。
アディオス、アミーゴ!
(^-^)