「鷹の谷のサルタナ」

 

スタジオジブリの「風の谷のナウシカ」は、本作をヒントに作られたかもしれませんね(絶対ない)

 

Sartana nella valle degli avvoltoi (1970)

 

英語圏では "Sartana in hte Valley of Death"
死の谷のサルタナ

 

日本では未公開のマカロニウエスタン映画です。

 

予告編こちら(英語バージョン)

 

1970年は「サルタナの年」

なんと5本の「サルタナ映画」が公開されました。

(本家2本、準本家2本と本作)

 

しかしながら本作は、劇中いちども「サルタナ」と呼ばれるシーンはありません

というか "リー・キャロウェイ" という名がちゃんと描かれています。なぜ「サルタナ」なのか、まあ色々大人の事情なのでしょうね

($10.000の賞金首リー・キャロウェイを追ってやってきた賞金稼ぎ…ほどなくキャロウェイの銃弾に沈むことになる)

 

自分で賞金額を書き換える(増額する)、という

ウエスタン映画にあるあるなシーンももちろんイカす。

 

そんなイカす男、キャロウェイ(あるいはサルタナ)

演じたのは当然、イカす男。

 

ウィリアム・バーガー氏

William Berger (1928-1993)

マカロニウエスタンを代表する俳優の一人と言って過言ではないでしょう。クセ強めでカッコよく、印象に残るキャラクターをよく演じました。

「西部悪人伝」のバンジョーや「十字架の長い列」のマードック、「血斗のジャンゴ」のチャーリー・シリンゴは有名ですが、その後1976年の「ケオマ・ザ・リベンジャー」や、1985年のジェンマ氏が演じたアニメ西部劇実写化の「テックスと深淵の王」、さらに1987年の「ジャンゴ / 灼熱の戦場」にも出演。

マカロニウエスタンの生き証人として最晩期まで関わり続けた方でもあります。

ところが、実は主演作は多くはありません。

"El Cisco" と並んで、W・バーガー氏のイカすっぷりを存分に楽しめるのが、本作「鷹の谷のサルタナ」でございます。

 

リー・キャロウェイは凄腕でキレ者。

 

でも、W・バーガー氏の演ずるキャラにありがちな

「けっこうやらかす」お茶目な部分もしっかり。

「え?」っていう失敗やらかしたときの

「あ、しまったー」的な表情が実にいいんですバーガー氏

 

駆け抜けるバーガー氏、絵になる男。

 

いきなり賞金稼ぎを返り討ちにし

銀行で大暴れ(かつて因縁の悪徳銀行家から回収する、ということで決して強盗ではないようす)

ちなみにヤられる銀行家はお馴染みフランコ・レッセル氏が演じております。

Franco Ressel (1925-1985)

 

返り討ちにしようと策を弄すも、やっぱり殺られちゃうフランコ・レッセルさん。

待ち構えていた自警団がキャロウェイを取り囲みますが、あらかじめ(いつの間に!)仕込んであったダイナマイトで撃退に成功、

逃亡の道中でキャロウェイは、政府筋から極秘のミッションを与えられます。その内容は、ダグラス兄弟が盗んで隠した政府の大金と重要書類の奪還。

 

ダグラス兄弟はくせ者ぞろい。リーダー格はアンソニー(たぶん長男)

演じたのはウェイド・プレストン

Wayde Preston (1929-1992)

米国でTVや映画で活躍ののち、イタリアでも数多くの作品に出演、いくつかのマカロニウエスタンでも活躍しました。

最後の出演作は1990年版の「キャプテン・アメリカ」だそうです。

 

宝の五分山分けでディールしたはずのキャロウェイを騙して殺害しようと試みるなど非道な男。

でも最期は不測にもサソリの毒によってジ・エンド…

銃撃戦のさなか「ちょ、ちょっとタンマ…刺されたのよサソリに」とジタバタするも、時すでに遅し。

「こんなラストってある?」とも言いたげなキャロウェイの表情も印象的です。

 

 

ダグラス兄弟ナンバーツーはジョージ

演じたのはアルド・ベルティ氏

Aldo Berti (1936-2010)

もとは性格俳優として知られていましたが、マカロニウエスタンの曲者キャラとして欠かせない存在に。セルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト」をはじめ数多くの作品で個性豊かな演技を披露しております。

兄貴以上に残虐で挑発的。ラストの銃撃戦でキャロウェイに撃たれて絶命。

 

ちょっと気弱な三男はピーター

演じたのはフランコ・デ・ローザ氏

Franco De Rosa (1944-)

1960年代後半から80年代までイタリアの映画やTVで活躍。マカロニウエスタンの出演は本作以外に「リンゴ・キッド」や「パソ・ブラボーの流れ者」など

野営中キャロウェイの襲撃に遭った際、身を挺して兄貴たちを守り絶命、これが原因でアンソニーがキャロウェイへの復讐を誓うことに。

 

この対立軸だけではなく、豪華で個性的なキャスティングが本作の楽しみであります。

 

ダグラス兄弟の四男は、ちょっと生真面目風なスリム。

彼は兄たちのギャング団には属していないようす。長兄アンソニーが拉致してきた女性ファニータに恋してしまい怒りを買ったり。

演じたのはカルロ・ジョルダーナ氏

Carlo Giordana (1945-2020)

有名俳優兼監督、女優さんの間に生まれた彼は、舞台や映画など数々の作品で活躍されました。

残念ながら2020年新型コロナウィルス感染でご逝去されたとのことです。

 

ダグラス・ギャングのもと仲間と思われる男、パコ。

(描かれてないけど)ファニータ誘拐や政府の金強奪に関わった男。オルゴール人形作りに精を出しひっそり隠居していたがダグラス兄弟にみつかって惨殺の憂き目に。

演じたのは、悲劇が似合うルチアーノ・ピゴッティ氏

Luciano Pigozzi (as Alan Collins 1927-2008)

1950年代から1989年に至るまで数多くの作品、様々なタイプの役を演じたイタリアの俳優さん。マカロニウエスタンの幾つかの作品でも重要な役どころを演じております。

 

そんなパコの娘、カルメンシータ。

父の死を嘆きつつも、とっさの判断でキャロウェイを救った恩人でもあります。

演じたのはジョジアーヌ・タンツィーリ女史

Josiane Marie Tanzilli (1950-)

歌手として、また舞台女優として活躍していた彼女は本作を皮切りに数々のイタリア映画に出演、またその後TVでも活躍されたそうです。

 

キャロウェイはカルメンシータに命を救われたものの

ダグラス兄弟に馬を奪われ、

一滴の水も持たないままに死の谷を彷徨う

 

この姿だけでも画になる、さすがバーガー氏

 

そんなキャロウェイを通りがかりの馬車が救う…

 

1万ドルの賞金首だと知った彼女は色仕掛けで彼を油断させますが…

 

間抜けなようでしっかしりてるキャロウェイ。

ピンチを切り抜けます(イイ表情)

この、なにやら素敵な未亡人エスター。

演じたのはご存じパメラ・チューダー女史。

Pamela Tudor 

「オーウェルロックの血戦」では清楚なお嬢様キャラだったのに、まあ。

数多くのイタリア映画で活躍された美人女優さんです。

 

そしてアンソニーが拉致した女性ファニータ

(残念ながら物語のこの部分を描いたと思しき部分が英語版ではカットされておりましたので詳細不明です…)

演じたのはヨランダ・モディオ女史

Joranda Modio 1960~1970年代のイタリアの映画やTVで活躍されました。マカロニウエスタンでは「血斗のジャンゴ」のマリア役でお馴染みですね

 

さて、いろいろあって一人勝ちのキャロウェイ

米軍は無事に書類を回収。ご褒美として金塊をもらって所払いで無罪放免。

 

 

まあ、複雑なプロットではないし

あちこち「?」な部分もありますが

なんたってバーガー氏の顔芸を散々楽しめて

なかなかに爽快感のある映画でございます。

 

監督はロベルト・マウリ氏

Roberto Mauri (1924-2017)

俳優としてもかなり活躍されており、

時には「ロバートジョンソン」なる名前も使っているとか…

伝説のブルーズマンと勘違いしそうですね笑

監督としては、ペプラム~ホラー~マカロニウエスタン

イタリア娯楽映画の王道を撮り続けた男。

本作以外には "His name was Holy Ghost" あたりが代表作でしょうか。

 

そして本作を盛り上げつつ、クールな印象に仕立てる

いかした音楽担当はアウグスト・マルテッリ氏

Augusto Martelli (1940-2014)

お父様もクラシック畑の音楽家。若い頃からイタリア音楽界とくに作編曲家として活躍。その分野はクラシックからロック、ジャズ・フュージョン問わず。自身も演奏家あるいは歌手として活動し1974年には自身のレーベルを立ち上げ、さらに宗教音楽家としても実績を上げているそうです。

マカロニウエスタンへの関与は本作以外には "Ancora dollari per i MacGregor" が知られています。

 

そして本作のクレジットをみると

マルテッリ氏の他に "Betsy Bell" とあります。

 

そうです。キャロウェイが滞在した寂れた宿場の一階

けだるそうに歌(じつは主題歌のアレンジ版)を歌っているのがベッツィー・ベルさんご本人。

 Betsy Bell (1943-)

ハンブルク生まれ、イタリアに移住しミスコンで優勝、モデル活動の傍らで音楽や演技でも活躍。生まれ故郷のドイツ語と移住先のイタリア語の他に英語、フランス語、スペイン語に堪能なマルチリンガルとのこと。天は二物も三物もあたえちゃうのね…

 

この二人が関与した主題歌 "A king for a day"

めちゃかっこいいですよね。

声の質とか雰囲気とか、バーガー氏の醸し出す空気感にピッタリで。

 

劇中の印象的な楽曲や、サントラ未収録の曲、ストーリー上重要なオルゴール曲など織り交ぜてカバーしました。

お楽しみいただければ幸いです!

 

まだまだマカロニは宝が無尽蔵に埋まってる宝島ですね

頑張ります!

 

アディオス、アミーゴ!

(^-^)