"La morte non conta i dollari" 1967
"死者はドルを数えない"
本譜では劇場未公開ですが、TV放映およびメディアリリースがなされています。
タイトルは「オーウェルロックの血戦」
英語版の "Death at Owell Rock" から作成された邦題なのでしょう。
なかなかの良作、というか傑作です!
マカロニウエスタン定番の復讐劇ではありますが
アクションも構成も緻密で、ハッとさせるトリックもあり、かつ、そこかしこにヒューマニズムが溢れていて
見終えた後、なんともいえない満足感と感動に包まれる一本であります。
(実は劇伴がいい仕事してたりするおかげだったりもしますが…)
監督はリカルド・フレーダ氏
(クレジットはジョージ・リンカーンという、なんだかちょっと悪ノリっぽい英語名になってます…徳川秀吉、みたいな感じですかね?)
Riccardo Freda (1909-1999)
エジプト生まれ、イタリアに移住し若い頃から映画畑で働きペプラム映画で名を馳せ、文芸的な映画も撮っていますが、エクスプロイテーショものやホラー作品も手がけています。
「アクション、感情、緊張、スピード」こそ映画の命、と語っていたそうで、マカロニウエスタンにはピッタリじゃん!と思うのですが、このジャンルでは本作のみが唯一の仕事であります。
オーウェルロックの町に帰省したローレンス・ホワイトが、父を殺し牧場を乗っ取り町を牛耳るようになった ならず者レスター一家に妹のジェーンとともに立ち向かう、というプロットですが
帰省の馬車に居合わせた賞金稼ぎハリー・ボイドや闇落ち保安官に闇落ち医者、腰抜け判事ウォーレンや悲劇のヒロインリスベット、さらにメキシコのギャング・ロドリゲスなど濃い面々が生き生きとテンポよく演技しておりまして、アクションもロマンスも謎解きも、冗長にならず飽きることなくストーリーが展開する、まさに監督のモットーが具現化された映画になってます。
主演はおなじみマーク・ダモン氏
Mark Damon (1933-)
米国、欧州で映画とTVを股にかけての大活躍ののち、ハリウッドでプロデューサーとして大成功。「Uボート」「ネバーエンディングストーリー」「モンスター」「ローンサバイバー」「2 ガンズ」等々ヒット作を次々世に送り出しています(オスカーノミネート作が10個もあるそうです!)。
たまたま居合わせた賞金稼ぎハリー・ボイド。
と、思いきや…実は彼こそが死したホワイト氏の遺児、本作の主人公だったという設定は物語の半ばで明らかになり、観ている者を「えええっ!」と唸らせるわけですが
その瞬間までローレンス・ホワイト氏を文字通り「演じて」いたのがスティーヴン・フォーサイス氏
Steve Forsyth (Stephen Forsyth)
カナダ出身の多彩なアーティストで、経済学を学んだ後にフランスやイタリアで音楽活動ののちイタリアで俳優として活躍。本作や「情無用のコルト」が知られていますが、スパイ者や政治劇、コメディまで幅広いジャンルに出演されたようです。同時期にフォト・ジャーナリストとしての活動も開始、その後俳優活動を潔く辞してNYに渡り、アート系の仕事を行い、ダンスの振り付けもしながら、主に写真家として活躍。
さらに音楽家として作編曲、演奏などでアルバムをリリースしています。
「007ネヴァーセイ・ネヴァ・アゲイン」の幻の主題歌の作曲者はまさに彼。
スコア(劇伴)を担当したミシェル・ルグラン氏が「映画で使われる曲は全て自分のものじゃないと許さない」ということでお蔵入りになったそうですが…いい曲。個人的にはルグラン氏のやつよりこっちのが好き。大人の事情とはいえ、もったいない。
悪の親玉レスター父さんを演じたのは
スパルタコ・コンベルシ氏
Spartaco Conversi (1916-1989)
彼もマカロニウエスタンではお馴染みの役者さん。
「殺しが静かにやって来る」「群盗荒野を裂く」「俺はサルタナ 銃と棺桶の交換」「西部悪人伝」等々…
相当な極悪人なんだけど、なんか「いい人感」がある悪役。わりとあっさり殺られちゃうし…
むしろメインのヴィランは息子のドク・レスター。
演ずるはこちらもお馴染みネロ・パッツァフィーニ氏
Nello Pazzafini (1934-1997)
191cmの長身、元スタントマンでフェンシングが得意とのことで様々な映画で殺陣師としても活躍されたそうです。
実はスタントマンの学校に入るまではサッカー選手として将来を嘱望されていたとのこと(ラフプレーが多くて時折問題になったそうですが笑)
現在セリエDのサンセポルクロに在籍中の写真。右端のひときわ大きな選手がネロさん。
その後の俳優としての活躍はご存じの通り、62歳の短い生涯を終えるまでに150本以上の映画に出演されました。
彼らの言うがままに悪事を見逃す「闇落ち判事」ウォーレンを演じたのはルチアーノ・ピゴッツィ氏(クレジットはアラン・コリンズ)
Luciano Pigozzi (1927-2008)
彼もまた悪役や脇役として大活躍した俳優さんで、100本以上の映画に出演されております。ゴシックホラーや探偵もの、戦争映画とともにマカロニウエスタンでの活躍も数知れず。(個人的には "Joko - Invoca Dio ...e muoi" のドミンゴ役が印象深いです)
強大な悪に屈し、不本意ながら「ダメ判事」として酒に逃げる日々を送っていたウォーレンが主人公の叱咤により覚醒し教会での懺悔を経て、勇気を振り絞って悪に立ち向かうさまは、本作の見所のひとつです!
主人公の妹ジェーンを演じたのはルチアナ・ギリ女史
Luciana Gilli (1944-)
9歳で銀幕デビューし、18歳で主演 "Lo sceicco rosso" その後も様々な役をこなした女優さん。マカロニウエスタンでは「荒野の棺桶」や「虐殺砦の群盗」に出演なさっております。
気が強く自立心の強そうな彼女に対して、もう一人のヒロインは、いかにもお嬢様といった風体のリスベット
演じたのはパメラ・チューダーさん
Pamela Tudor
もとはダンサーとして活躍されていたようです。映画やTVなど12年の活動期間中に20本以上の作品に名を連ねています。マカロニウエスタンでは「皆殺しの用心棒」や "Il tempo degli avvoltoi" "Sartana nella valle degli avvoltoi" などで彼女の活躍が見られます。
父の仇を討つローレンスと妹のジェーン、敏腕法律家のハリー・ボイド、そして薄幸のリスベット。
四人それぞれが幸せを掴むエンディングは本当に微笑ましく、マカロニウエスタンにしては珍しい爽快感というか「いいもん観た~」感が漂う素敵な映画です。
そうそう、映画にほどよいスパイスを与えてくれるのはメキシコのギャング団のボス、ロドリゲス。
イグナツィオ・スパラが好演しております。
Ignazio Spalla (1924-1995)
マカロニウエスタンではお馴染みの名優。主演作はありませんが悪役や主人公を支える役など、印象深いキャラクターを数多く演じました。
さて本作。
テンポよく、わかりやすく、アクションも謎解きもハッとさせる展開も程よく、なにより見終わったときの爽快感が素晴らしいのですが、実はその多くを素晴らしいサントラが担っているのではないか、と思っております。
時にスリリング、時にロマンティック、時にノスタルジックに場面場面に命をもたらしながら、全体としての統一感にあふれたスコア。
担当はノラ・オルランディ女史&ロビー・ポイテヴィン氏
ノラさんはマカロニファンならお馴染みの美人音楽家。
Nora Orlandi (1933-)
ジョアン・クリスチャンのペンネームでも活動なさっております。
幼少期からピアノとヴァイオリン、音楽学校で歌と作曲を学んだ彼女はRAIにヴァイオリニストとして雇われ、その後ピアノに作曲に歌にと才能を発揮、ヴォーカルグループの "Quartetto 2+2" を結成、やがて拡大版の "4+4" となり、アレッサンドローニ氏の "I Cantori Moderni di Alessandroni" と並ぶ引っ張りだこのコーラスグループに。
(ちなみに彼女の右側は妹のパオラさん)
その後「皆殺し無頼」や「二匹の流れ星」などサントラでの活躍はご存じの通り。
ロビー・ポイテヴィン氏は、フランス人なので実際は "ロビー・ポワテヴァン" でしょうか。
Robby Poitevin (1926-2003)
パリ生まれ、もともとヴィヴラフォン奏者としてジャズ界にデビュー。ディジー・ガレスピーやエディット・ピアフ、ベニー・グッドマンら錚々たるジャズ・ジャイアントと共演歴を持ち、イタリアに移住後は映画音楽に携わりました。
彼の作品は出自どおり、ジャズ系のものが多いようです。
もしかしたらご本人のヴィブラフォンでしょうか…
マカロニウエスタンでは「西部のリトル・リタ 踊る大銃撃戦」「.32口径の殺し屋」を手がけています。
ジャズだけでなく多彩な音楽性を発揮してますね。
この二人の才能が見事に花を咲かせたのが本作品のサントラなのです。
なんとフル・アルバムがYoutubeに上がってました。
壮大かつドラマティックなオープニングテーマから、気品あふれるバラード、疾走感に富んだアクションテーマ、これぞマカロニといった趣の劇伴などなど、音楽だけ聴いてもバラエティ豊かで飽きの来ない名作です。
そして白眉はエンディングで聴かれるヴォーカル曲
"Who can be happier than me"
僕の尊敬するマカロニ道の先達、"Yass" 保田氏のチャンネルからの動画で、4'21"あたりから流れる曲です。
ヴォーカルはご存じラオール氏
Ettore Raoul Lovecchio (1939-)
もとはキーボード奏者としてキャリアをスタート、1966年の「南から来た用心棒」をきっかけにマカロニウエスタンを代表する歌手になりました。また俳優としても活躍し、1972年の "Delirium" では主役を演じております。
余談ですが、ジャンフランコ・レベルベリ氏のサントラが妙にカッコいいですね笑
それにしてもウットリするような歌です。
In such a day full of sun, With a babe in my arms
Who can be happier than me?
I dropped asleep on the grass, With a cover of stars
Who can be happier than… than me?
I’ve been walking for a long time
Seeking for a land, a green bountiful land, This is the one.
In such a day I forget all the faults that I had
I want to begin from the top
It’s never late I decide to begin from this day
Who can be happier than… than me?
”陽の光に包まれ、あなたをこの腕に抱く
私ほど幸せな男がいるのだろうか"
”星空の下、草の上に寝転がって、なんて幸せなんだろう"
”緑豊かな大地を求めて長い間さまよってきた、やっとこkに辿り着いた”
”すべての過ちを忘れ、一からやり直すんだ。遅くはない、今から始めよう。私ほど幸せな者はいない”
二人の才人と最高のマカロニ歌手の作品の足下にも及ぶベクもありませんが、自分なりに「好きこそ…」のノリでカバーに挑んでみました。
お楽しみいただければ幸いです。
超有名作品とは言いがたいですが、全てに完成度が高く「傑作」と言っていいマカロニウエスタンだと思います。
タイトルから受ける印象では、男臭い戦いの物語ばかりに思えますが、硬軟併せ持ちとってもロマンティックな結末にいたる素晴らしい映画です。
機会があったらいちどご鑑賞してはいかがでしょうか
「オーウェルロックの血戦」
それではメリークリスマス
アディオス、アミーゴ!
(^-^)