"Requiem per un gringo" 1968

イタリア・スペイン合作のマカロニウエスタン映画

 

イタリア版の予告編

 

ちなみに

ドイツでは「ジャンゴの鎮魂歌」に改題されてます

(ドイツ人ほんとジャンゴ好き)

 

英語圏では "Requiem for a Gringo" ですが

一部では

"Duel in the Eclipse" とも呼ばれています。

 

ハリウッド西部劇の名作「白昼の決闘」

"Duel in the sun" にちなんだ可能性もありますが

 

 その名の通り

"Requiem per un gringo" は日食の混乱の中で最終決戦が行われるという意味で、ホントに "Duel in the eclipse" なのです。

 

ヒョウ柄のポンチョに身を包んだ主人公ロス・ローガン

彼は1867年4月17日に起こる出来事を知っていました。

それが日食。

 

牧場を荒らし、弟を惨殺したならず者ギャング団カランザ一味を壊滅させる戦いをこの日に選び

日食の混乱に乗じて悪漢たちを皆殺しにする、そんなクライマックスが待っている映画です。

 

ちなみに1867年の4月17日に日食が起きたという記録は残っていないようです。

1867年に観られた日食は3月6日

欧州~アフリカなので北米では観測できなかったようです

また同年8月29日には南米で金環食が観察されています。

 

というわけで、本作の日食は歴史的事実ではないようですが

こういった天文現象をドラマのクライマックスに持ってきて盛り上げるというあたり、なかなか目の付け所がいいなあ、と感じます。

なぜか怯えるサンチョ大将。

実は、このシーンの前に

有能な部下の一人が「黒猫が前を横切る」ジンクスの後に殺害されたというエピソードがあったりするので、浮くも沈むも運任せなギャング稼業ならでは、ゲン担ぎは大事という描写にも思えます。

また、本作は「老いたライオンのボス」に形容される、この

カランザと愛人、部下たちとの絡みというか心理描写も、他のマカロニウエスタンにはない興味深い演出が成されています。

 

ちょっとクセ強なマカロニウエスタンではありますが、骨太でさまざまな趣向を凝らした作品。

監督はホセ・ルイス・メリノ氏

José Luis Merino (1927-2019)

マドリッド生まれ、スペインの映画監督(脚本家、俳優さんでもあり)で、娯楽作品を中心に90年代に至るまで、30本以上の作品を世に残したそうです。

マカロニウエスタンとしては "Kitosch, l'uomo che veniva dal nord" (1967)、"Ancora dollari per i MacGregor" (1970) などで監督を務め、"Quel caldo maledetto giorno di fuoco"「脱獄の用心棒」の脚本を書き、"7 cabalgan hacía la muerte" では脚本のみならず俳優として出演もしてるそうです。

 

そしてノンクレジットですが、共同で監督を務めたのが

エウヘニオ・マルティン氏

Eugenio Martín (1925-2023)

彼もスペインの映画監督さん。マカロニウエスタン作品としては、"El precio de un hombre"「ガンクレイジー」(1967) や "El hombre de Río Malo" 「無頼プロフェッショナル」(1971) が挙げられます。

ミュージカルやジャッロ映画も手がけ、彼も1990年代まで活躍したとのこと。
 
そして主演は、ラング・ジェフリーズ氏
Lang Jeffries (1930-1987)
カナダ出身の彼は当初米国のTVなどで活躍してましたが、1960年以降イタリアの史劇やスパイ映画で名を残しているそうです。マカロニウエスタンへの参加は本作だけのようです。
 
ヒョウ柄をまとってラバに乗る、インパクトある主人公。
ロス・ローガン(ドイツではジャンゴ)
帰郷した彼を待っていたのは、自身の牧場を占拠し弟をなぶり殺しにした盗賊一味。
 
その盗賊のボスが、ポルフィリオ・カランザ
演ずるはご存じフェルナンド・サンチョ親分
Fernando Sancho (1916-1990)
説明不要のマカロニウエスタン御用達役者さんですが、スペイン生まれのスペイン人。スペイン内戦 (1936-1939)では反乱軍の一員として勇猛に戦い、数々の負傷をモノともせず、中尉にまでのし上がったそうです…あの風格はやっぱりタダモノじゃない!
亡くなる直前まで俳優業を続け、出演作は数え切れないほどですが、かの大作「アラビアのロレンス」にも出演なさっているそうです。
 
カランザは非情なギャング団の無敵のボス…というわけではなく。
かつての勢いに陰りが見え始め、側近から「老いたライオンのボス」に例えられたり。
つまり、若くて強いチャレンジャーがいつ襲いかかって王座を奪うかも知れない、という緊張感。自身が弱体化したことを自覚しているカランザ本人は、しかし以前に増して老獪に「力だけでは生き延びられない」を体現して見せたり。
このあたりの、悪役の中でもいろいろな葛藤を抱えているあたりが本作の深みであります。
 
そんなボスの座を狙うのは三人の副将、いずれも凄腕。
 
一人目はチャーリー。
演ずるのはアルド・サンブレル氏
Aldo Sambrell (1931-2010)
いやまさかの長髪。最初観たとき気づかなかった…
黒猫のジンクスに怯える様がとってもチャーミングです。
実はサンブレル氏、かつてサッカー選手として大活躍したそうです。
メキシコのプエブラFCやモンテレイ、その後スペインにもどってバジェカーノ、アルコヤノなどでプレイしたそうで、一時期レアルに在籍したこともある、という情報も…
そんなサッカー界のスターが、俳優業に転身(じつはその前には歌手を目指したらしい)し悪役を演じるというのは、当時のご時世なら相当な苦労があったのではないかと察します。しかし、一流の悪役として欧州のみならず「風とライオン」や「ドクトルジバゴ」といった超メジャー作品にも名を連ねる俳優の仲間入りをしたサンブレル氏、さすがです。
 
銀歯もチャーミングさに拍車をかけるチャーリーですが、黒猫の呪いにペースを乱される中、ローガンに狙撃され絶命してしまいます。
 
第二の副将はテッド・コービン
演じたのはカルロ・ガディ氏
Carlo Gaddi (1936-1977)
もともとの職業は、ローマ教皇を乗せて運ぶ椅子の責任者とのこと(そんな仕事があるんだ!)。
俳優デビューは「虐殺砦の群盗」(1967)、以後端正な顔立ちと実は抜群の運動神経を生かして、主に悪役として俳優業に精を出し、41歳で急逝するまで活躍を続けられたそうです。マカロニウエスタンでは「俺はサルタナ~銃と棺桶の交換」や「ジャンゴ・ザ・バスタード」などに出演しております。
 
なかなかにイカしたヴィラン。ダンディで銃の腕前も抜きん出てて…ちょっと意地悪いところもあるけど。
しかし、そのプライドが禍して死の谷に落ちゆくことに
 
 
そして第三の副将がトム・レザー
演じたのはルーベン・ロホ氏
Rubén Rojo (1922-1993)
スペイン出身の俳優さんで1930年代~彼が10代半ばの頃~から俳優活動をスタート、1991年まで現役で活躍されました。マカロニウエスタンへの出演は "Per mille dollari al giorno" くらいで、主にユーロクライムや戦争ものなどの娯楽作で活躍したようです。
 
ギャング団のほぼナンバー2でありながら
カランザに引退を迫ってみたり、カランザの実力の衰えを皆に知らしめようとしたり
カランザの愛人を寝取ったり…
彼もまたローガンによってあの世送り。
 
彼が手にしていたエメラルドをローガンが持ち帰ったことによりカランザ激おこ。
愛人アルマはお仕置きされてしまいました。
 
アルマを演じたのはフェミ・ベヌッシ女史
Femi Benussi (1945-)
キレイな女優さんですね~。クロアチア(当時はイタリア共和国内)生まれ、舞台でデビューののち、活躍の舞台を映画に移し、やがてB級セクシー映画のアイコンとして君臨したそうです。
 
カランザの愛人でありながら、世代交代を見越してのことか、実力ナンバー2のトムを誘惑するなどなかなかのクセ者っぷりを発揮しするが、無残な最期を迎える羽目に
 
もう一人のヒロインは対称的。
つつましやかな所作のニーナちゃん
演じたのはマリサ・パレデス女史
Marisa Paredes (1946)
ティーンアイドルとして16歳で映画デビュー、スペイン中を虜にし、その後本格的女優としてスペインを代表する女優さんに。スペイン映画芸術アカデミーの会長を務められたそうです。
 
ニーナちゃん可愛い。アルマちゃんと、どちらのタイプが好みか、分れるところでしょうね。
 
ちなみに、本作の演出の一部は1962年の日本映画「切腹」のオマージュと言われてます。
確かに、重要人物3人が肝心の現場に現れないところ
そしてその原因は、主人公が既に3人へのお仕置きを終えていたからで。
さらに3人それぞれの身につけたものを持ってきて投げ捨てるあたりは「切腹」の髷にインスパイアされたものなのでしょう。
僕ら日本人は、偉大な先達がこうやって世界中に影響を与える作品を生み出したのということをとても誇らしく感じます。僕らも頑張らねば…
 
さて
脚本もキャストも、ひとくせふたくせある本作。
そんな画面を彩る音楽は巨匠ラヴァニーノ氏によるもの
Angelo Francesco Lavagnino (1909-1987)
ジェノバ生まれの音楽家で1950年から映画音楽作家として第一線で活躍されました。
趣味のカメラの腕前も相当だとか。
以前紹介したコルブッチ監督の「スペシャリスト」はじめ多くのマカロニウエスタンも手がけたマエストロです。かのモリコーネ師も著作の中で素晴らしい音楽家としてその名を挙げていました。
 
日食の神秘性を際立たせるような、オルガンの重厚かつアグレッシブな響きに呼応するように、ときに勇壮にときに妖しげに耳に届くコーラスは
イ・カントリ・モデルニ・ディ・アレッサンドローニによるものです。
I Cantori Moderni di Alessandroni
口笛やギターはじめ多才で知られるアレッサンドロ・アレッサンドローニ氏が1962年に結成、イタリアで無数の仕事をこなした超絶ボーカル(コーラス)職人集団で2017年まで活動
、近年ではノラ・ジョーンズやジャック・ホワイトともコラボしているそうです。
 
映像と相まってインパクトの強いオープニングです。

僕のマカロニ道の先輩である、"YASS"保田氏のチャンネルです、是非登録を!

 

あたくしのカバーはこちらです。

おどろおどろしい雰囲気を、ファンキーでロックな感じに持っていったつもりです。OP以外の劇中曲もいろいろカバーしてますので、お楽しみいただけたら幸いです!

 

 
アディオス、アミーゴ!
(^-^)