4月4日は作曲家エルマー・バーンスタイン氏のお誕生日でした。
エルマー、といえば
思わず囚人服みたいなドラゴンを思い出しますが…
ちなみにこちらのエルマー、初版は1948年、
タイトル"My Father's Dragon" なのです。
いえいえ、映画好きなら決して忘れちゃいけない
「ハリウッド隆盛の立役者」の一人である
エルマー・バーンスタイン氏であります。
1922年(大正11年)、NY生まれ。
お父さんはウクライナ人、お母さんはハンガリー人。
優しいおじさまっぽいですが、天才です。
幼少期からダンサー、子役として活躍しブロードウェイに出演するほどで、かつ絵画も得意でいくつかの賞を獲り、もちろん音楽も秀でてかの有名なジュリアード音楽院へ。後年には小説家になろうと志しその道のプロの手ほどきを受けたといいます。
凄いやつってのはいるもんだ…
時代の流れで徴兵されると、彼は空軍ラジオのための作曲家として活動。このときはじめてラジオドラマ用の劇伴を書いたといいます。
そして戦後ピアニストとして生活するも1951年コロムビア映画 "Saturday's Hero" を担当し映画音楽の作曲家としてブレイク。
ふむ。
イントロなんか、すでに「らしい」感じですね。
「天才は世に出た瞬間、すでに完成している」
ってことでしょうか。
翌年 "Battles of Chief Pontiac"
これが映画音楽担当2作目。
アクセントの入れ方、緩急のつけ方やアクションシーンでの音の使い方なんか、まんま既に「荒野の七人」ですね~
それにしても当時の映画、普通に面白い^^
同年、映画音楽家として3作目の "Sudden Fear"
フィルムノワール調のスリラーなんだそうですが
ええ、音楽だけ聴くと西部劇かと思ってしまうくらいのエルマー・バーンスタイン節だなあ、と。
さらに同年 "Robot Monster"
いわゆる「サイテー映画」の東の横綱と言われる作品だそうで
(西の横綱は、かの有名な "Plan 9 from Outer Space")
超低予算、監督の自宅やドジャースタジアムで撮影され、ロボットの着ぐるみに予算が足りず、知人が持ってたゴリラスーツにヘルメットを被せて「ゴリラ型宇宙人」という設定にした、最終的にぜんぶ夢オチという映画で、ストーリーの大半が他社の映画のパクリ、特撮部分の多くが既存映画からの流用という。それでいて当時最新の3D技術を駆使したりしてる、という素晴らしいエピソードに事欠かない映画。
そしてさらに同年 "Cat women of the Moon" こちらもかなり個性的な作品のようです。
木製宇宙船で200万年前に絶滅した「ネコ宇宙人」の探索のため月に向かうというお話で、というかネコ宇宙人は普通にきれいな白人女性が蜂の巣型のカツラをかぶって、ショーガールさながらに踊ったりタバコを吸ったり銃をぶっ放したりしながら地球制服をたくらんで宇宙船の操縦を覚えたり…
そんなサイテー映画のサントラですが、エルマーさんいい仕事しております。
"Robot Monster" のタイトル曲なんて「カルベラのテーマ」を彷彿させますよね~
素晴らしい才能がありながら、米マッカーシズムのさ中、かつて左翼的な動きをしていた知人のために曲を書いたことがある、との理由で「グレーリスト」入りしてしまい、いわば「干された」状態だったエルマーさんですが、こういったB級C級なんならZ級映画の劇伴仕事も楽しくこなしていた、とのこと。
転機は1955年、エルマーさん33歳。
フランク・シナトラ主演映画 "The man with the golden arm"
ジャンキーでドラマーでギャンブラーな男を描いたノワールな作品だそうで、エルマーさんは当時としては画期的な「ジャズ」でサントラを構成。
これがビルボード2位まで売れ、一躍「時の人」に。
「ここまで徹底してジャズを取り入れた映画は初めてだと思う」とはエルマーさん本人談。
この作品でエルマーさん、オスカー初受賞(喜劇音楽賞)!
そして翌1956年。
病気で降板した作曲家(ビクターヤング!)
にかわって担当した映画が「十戒」。
世界的な大ヒットに伴いエルマーさんは「超一流」仲間入り。
勇壮で、ちょっとエキゾチックなメインテーマをはじめ、かなり魅惑的な劇伴にあふれています。
本作をエルマーバーンスタインの最高傑作に挙げる人も。
その4年後。エルマー・バーンスタイン氏による楽曲の中でおそらく一番知名度が高いであろう「荒野の七人」
僕も大好きです!
ちょっと個人的な話になりますが。
小3のときにこの曲に出会って、毎日カセットテープで(ひどい音質だったけど!)聴いてました。
うちは裕福じゃなかったのでオーディオ機器がほとんどなくって(モノラルラジカセと簡易型のレコード再生装置のみ…)、ラジオから気に入った音楽をカセットに録って聴いてました。
当時のお気に入りはこの「荒野の七人」と「ロッキーのテーマ」そして「死亡遊戯」あたり。
その後、大のプロレスファンになり聴く音楽はほとんどプロレスラーのテーマ曲という状態になったのですが、中1の担任が音楽の先生で、めっちゃ気難しくってコワイ方だったのですが音楽の話をするときだけ柔和で(笑)
たまたま僕が映画音楽好きって話をしたら(たしか掃除の時間)、その先生、僕のために映画音楽ベストセレクションみたいなカセットを作ってくれたのです(90分テープ2本分も!)。
「ちょっと音楽室に来い」みたいに言われて、ああ~なんか怒られる…とビビりまくって行ったら「お前、この曲好きなんだろ?」と、据え置きの豪華なオーディオで「荒野の七人」を流してもらいました。
その時の興奮ったら!!!!
そのテープ、今でも大事にとってあります(もうカセット再生する機器はないけれど)。
「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」「駅馬車」「大いなる西部」「華麗なる賭け」「ある愛の詩」「スターウォーズ」「炎のランナー」「黒いジャガー」、007シリーズの各主題歌などなど…
パアッと、目の前に広い世界が、華やかな世界が広がったように感じてウットリ…今の僕にまっすぐつながる原体験です。
その先生のご厚意になんとか報いよう、と思って夏休みの自由研究は「時代劇の音楽」を調べました。
ああ、これも今に繋がってます。
なんだ、僕いまだに中二病どころか中一病から抜け出てないんじゃん…
あれから長い時を経て、僕も挑戦してみましたよ「荒野の七人」!
実は大学生の時も、とあるバンドでこの曲をアレンジしまくって、ほかの曲とミックスしたりした「塩田マルボロ」っていう曲がレパートリーにありました。どっかに映像(VHSテープ)あるはずだけど探せない…
TVで流れるちょっとニッチな曲とかをぶっ飛んだアレンジにして演奏するかなりマニアックなバンドでした。時事ネタが多いので今聴くと失笑してしまう内容に違いないのですが(汗)
CMで流れてたんですよね「荒野の七人」。
ゆえにエルマーさんの楽曲の中では一番知名度が高いんじゃないか、と。
てなわけで僕の映画音楽愛のアクセルを思いっきり踏んでくれて、音楽への夢、映画~いや片田舎の少年にとって世界の夢をみさせてくれた恩師。高卒後すっかり地元と疎遠になってしまったけれど、いちどお会いしてじっくりお話したかったなあ…もうこの世にはいらっしゃらないのですが、今も敬愛しております。
閑話休題。
1960年「荒野の七人」大ヒットを受けて西部劇の大作を次々に引き受けてます、エルマーさん。
「エルダー兄弟」は、プロレスラー、ボブ・オートン Jr. のテーマ曲としても有名です(ほんまかいな)
「荒野の七人」を同じ文脈で作られているのがよくわかります。
ちなみに「コマンチェロ」も同様。エルマーさんスタイルが堪能できます。
「勇気ある追跡」は勇壮、豪華なだけでなくやや憂いを含んだアレンジが秀逸かと。
1976年、ジョン・ウェイン氏自らのレクイエム的映画「ラスト・シューティスト」もエルマーさんの作。
晩年のジョン・ウェインを音楽面で支えた一人、と言えるかと。
エルマーさん自身「西部劇が大好き」と公言しております。彼らしく、実に楽し気にお仕事されたことでしょう。
しかし
もちろん西部劇音楽だけではありません。映画史に燦然と輝く音楽を次々に生み出しております。
ゴージャスなフルサイズオーケストラの劇伴が大半を占める当時のハリウッドで、あえて小編成で物憂げなテーマ。
結果エルマーさんにとって初のアカデミー作曲賞をもたらした「アラバマ物語」
じっくり、しっとり盛り上がって、後半に至るころにはつい涙腺が…という名曲です。
勇壮な曲ならまかせとけ!とばかりの「大脱走」1963年。
この曲もあちらこちらで聴かれる超有名曲。
エルマーさん自身のタクトで。
ジョン・ウェイン、スタージェス監督と組んだ「マックQ」
都市伝説かも知れないのですが「ダーティハリー」のオファーを断って大魚を逃がした感のあるウェイン氏が、それに対抗するかのように…なんて映画なわけですが、エルマーさんの音楽も、それっぽいニュアンスで攻めてますね^^;
えっ、こんなジャズロックがエルマー・バーンスタイン?
なんてびっくりしないでください。
なんたって、かつて「黄金の腕を持つ男」で当時斬新な全編ジャズ攻撃をやってのけた方なのですから。
なんならもっとビックリしてもらいましょう。
1978年、ジョン・ベルーシのべったべたなコメディ「アニマルハウス」
依頼があった当初、エルマーさんは「なんで俺に?」って思わず口走ったそうですが、あえてコメディライクな音楽にしなかったことが成功だった、と言われているようです。
音楽だけをとってみれば結構シリアスなのです。
あえて重厚な、メロディアスな音楽。そこにぶっ飛んだコメディ演技というのが意外な効果だった、ということでしょうか。
なんと80年代はエルマー・バーンスタイン氏、コメディ映画音楽の巨匠に。
1980「フライングハイ」
こちらも音楽だけ聴くと、どんなディザスター映画なんだ?と思ってしまうくらいシリアス。
その後も「パラダイスアーミー」「狼男アメリカン」などなどコメディサントラ連発。
「大逆転」なんかはまるで17世紀のクラシックかよ!っていうくらい美しい楽曲の数々。でもコメディ。
エルマーさんの懐の深さ、思い知らされます。
懐の深さ、というなら1981年カナダ映画「ヘビーメタル」
ブルーオイスターカルトの曲なんかに混じって、往年のハリウッド大作調のスコアをエルマーさんが担当。
ふつうにかっこいい映画音楽!です。
この雄大でスリリングなエルマーさんの音楽とは裏腹に(?)
映画は最高にぶっ飛んでます。
時空を操る悪の化身「ロック・ナー」が古いコルベットにのって宇宙からやってきて奇天烈なことが盛りだくさんなアダルト要素も強いアメコミ風のアニメ、という。
日常に飽きて刺激が欲しい方は必見です。
VHSでしかリリースされていませんが、今はYouTubeで観られます。Netflixでも配信あるようですので、もしかしたら日本語版あるのかな?まあ会話内容がわからなくても十分すぎるほど楽しめる映画ですが…
そして1984年。コメディ劇伴の巨匠としてのエルマー・バーンスタイン氏の頂点に位置すると思われるのが「ゴーストバスターズ」
あの、レイ・パーカー Jr. さんの歌はあまりにも有名ですが、映画本編にはエルマーさんの音楽が満ち溢れております。
まるで氏の音楽体験をすべてつぎ込んだかのような多様性、どれもクオリティが高い!
個人的には1986年の「サボテン・ブラザーズ」は、ひさびさのエルマーさん西部劇音楽(といってもメキシコ要素が多いけれど)が大暴れしていて大好きです。
なんたって「荒野の七人」のパロディっぽい部分もあり、「トロピックサンダー」の元になったともいわれる名作です。機会があったら是非ご鑑賞を!
1999年のコメディなSFウエスタン「ワイルド・ワイルド・ウエスト」は1960年代の米TV「0088/ワイルドウエスト」のリメイク的な作品。
もちろん、60年代のエルマーさんのテーマ曲がちゃんと使われております!
劇伴も素晴らしく、なんたって面白い映画なので、これも鑑賞お勧めです!
ウィル・スミスのラップ(スティービー・ワンダーの I Wish のサンプリングが効きまくり)もめちゃカッコよかった!
そして2002年「エデンより彼方に」がエルマーさんの最後の映画音楽になりました。
美しい映像、1950年代のあの頃に、あまりに美しく切ないメロディが見事にマッチしています。
2003年にこの映画でアカデミー作曲賞を受賞、その翌年にエルマーさんは天に召されました。
200を超えると言われるエルマーさんの映画音楽。
間違いなく映画史に残る巨匠であります。
ジョン・ウィリアムスさんやエンニオ・モリコーネ師匠、最近ではハンス・ジマー氏などが映画音楽の巨匠として誉れ高いわけですが、エルマー・バーンスタイン、まったく引けを取らぬレジェンドであります。
日本においてはやや認知度が高くない印象もありますが、これを機にぜひ知ってほしい、素晴らしい天才です。
アディオス、アミーゴ!
(^-^)