生成AI技術の急速な発展に伴い、ビジネスやクリエイティブの現場においてAIの利活用が進む一方で、
著作権侵害のリスクに対する関心や懸念が高まっています。
文化庁は2024年3月、文化審議会著作権分科会法制度小委員会において「AIと著作権に関する考え方について」を取りまとめ、公表しました。
さらに同年7月には、具体的なリスク低減策などを整理した「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」も公表されています。
本記事では、これらの近時のガイドラインの内容を踏まえ、生成AIと著作権法に関する重要なポイントを分かりやすく解説します。
1. 生成AIと著作権を整理する「2つの段階」と「3つの観点」
生成AIと著作権の問題を理解するうえでは、AIの開発から利用に至るプロセスを段階ごとに分けて整理することが不可欠です。
文化庁のガイドラインにおいても、「①AI開発・学習段階」と「②生成・利用段階」では、行われている著作物の利用行為や関係する著作権法の条文が異なるため、分けて考える必要があると示されています。
これらに「③AI生成物の著作物性(AIが作ったコンテンツが著作権で保護されるか)」を加えた3つの観点から検討を行うことが実務上の基本的なフレームワークとなります。
2. AIの「開発・学習段階」における著作権法上のルール
AI開発・学習段階では、大量の画像や文章などの著作物を収集・複製して学習データセットを作成し、モデルの学習が行われます。
この段階における著作物の利用については、著作権法第30条の4が重要な役割を果たします。
著作権法第30条の4は「著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」と定めています。
同条第2号の「情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。)」などの非享受目的利用に該当する場合、原則として著作権者の許諾なく著作物を学習データとして利用することが可能です。
A I開発や学習を行う事業者は、自らの利用行為が著作権法第30条の4の要件を満たすかどうかを個別に確認する必要があります。
もっとも、すべてのAI学習が無条件に許諾不要となるわけではありません。
「享受目的」が併存する場合の例外
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」では、「意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習を行うため、著作物の複製等を行う場合」など、非享受目的と併存して「享受目的」があると評価される場合には、著作権法第30条の4は適用されないと整理されています。
例えば、特定のクリエイターの作風を超えて、創作的表現そのものを再現・出力させることを目的としたファインチューニングや意図的な過学習を行うケースがこれに該当します。
但書(著作権者の利益を不当に害することとなる場合)
情報解析用に販売されているデータベースの著作物をAI学習目的で複製する場合や、クローリング防止等の技術的措置を回避して収集する場合などは、著作権法第30条の4但書に該当し、権利制限の対象外(許諾が必要)となると考えられています。
3. AIの「生成・利用段階」における著作権侵害の判断基準
生成AIを利用して画像や文章を出力し、これをウェブサイトに掲載したり販売したりする「生成・利用段階」における著作権侵害の有無は、人がAIを使わずに手作業で作品を制作した場合と同様の基準で判断されます。
既存の著作権を侵害したといえるためには、判例上、既存の著作物との「類似性」および「依拠性」の両方が認められる必要があります。
生成AIの利用にあたっては、生成・利用行為がこれらの侵害要件を満たしていないか個別に検討することが重要です。
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類似性の判断:
類似性とは、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できることを指します。単なる「作風」や「画風」、「アイデア」が共通しているにとどまる場合は類似性は否定され、具体的な「創作的表現」が共通している場合にのみ類似性が認められます。
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依拠性の判断:
利用者が既存の著作物を認識したうえでプロンプトに入力した場合(Image to Image等)には依拠性が認められます。利用者が既存の著作物を知らなかった場合であっても、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物が学習データに含まれていたときは、客観的なアクセスがあったものとして依拠性が推認され得るとされています。
ただし、学習データに含まれていたとしても、生成・利用段階において当該著作物の創作的表現が出力されないような技術的措置(フィルタリング等)が講じられている場合には、依拠性が否定される余地があると示されています。
なお、著作権侵害が発生した場合、直接の利用者だけでなく、侵害物が高頻度で生成される仕様になっているAIサービスを提供している事業者なども、規範的な行為主体として責任を問われる可能性がある点に留意が必要です。
4. AI生成物自体に「著作物性」は認められるか?
「AIが生成したコンテンツ(AI生成物)自体が著作物として著作権法で保護されるか」という点も重要です。
著作権法第2条第1項第1号は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義し、同項第2号は著作者を「著作物を創作する者をいう」と定義しています。
文化庁のガイドラインによれば、「AIは法的な人格を有しないことから、この『創作する者』には該当し得ない」とされており、AIが自律的に出力した生成物そのものには著作物性は認められません。
もっとも、人間がAIを「道具」として利用し、人間に「創作意図」と「創作的寄与」が認められる場合には、その人間が著作者として著作権を取得することができます。
創作的寄与の有無については、単なる短い指示や複数の生成物からの選択のみでは認められにくく、プロンプトの具体性・分量(創作的表現を示す指示か)、試行錯誤の回数、人間による加筆・修正の程度などを総合的に考慮して判断されます。
5. 実務上の対応とガイドラインの活用
企業の法務担当者やクリエイター、事業者においては、以下のような実務的対応が求められます。
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事業者・利用者の対応:
社内ガイドラインの策定、入力するプロンプトや素材の著作権確認、出力された生成物の既存著作物との類似性チェック、プロンプト等の生成過程の記録保持などが推奨されています。 -
権利者側の対応:
無断でのAI学習を防ぐための「robots.txt」等によるクローリング拒否の設定や、無断学習・侵害生成物に対する証拠保全・権利主張の準備が挙げられます。
生成AIを取り巻く法解釈やガイドラインは日々進化しており、実務上の運用にあたっては常に最新の動向を注視することが重要です。
AI利活用や著作権に関する個別具体的な判断や契約対応については、専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。