夏の夜空を彩る花火。浴衣を着て、屋台をのぞきながら、大切な人と花火を見上げる時間は、やっぱり特別ですよね。

 

ところが京都では、「京都って花火大会が少ないよね」と感じたことがある人もいるのではないでしょうか。もちろん、京都府内に花火大会がないわけではありません。ですが、京都市の中心部で大きな花火大会が定着しているかというと、たしかに多くはありません。その理由としてよく語られるのが、1954年に京都御所で起きた「小御所火災」です。

1.京都には本当に花火大会がないのでしょうか

まず大切なのは、「京都」とひとことで言っても、京都府全体の話なのか、京都市の中心部の話なのかを分けて考えることです。

(1)京都府内では花火大会が開かれている

「京都には花火大会がない」といわれることがありますが、これは正確には言いすぎです。京都府内では、舞鶴市や宮津市、京丹後市、綾部市などで花火を楽しめる行事があります。たとえば、京都府観光連盟の公式サイトでは、2026年の「みなと舞鶴ちゃった花火大会2026」が紹介されています。

(2)京都市内でも花火大会がまったくないわけではない

さらに、京都市内で花火がまったく打ち上げられていないわけでもありません。京都市公式観光サイト「京都観光Navi」では、2026年6月3日に京都市伏見区のJRA京都競馬場で開催された「京都芸術花火2026」が紹介されています。ですので、いまは「京都市内に花火大会がない」というより、「京都市中心部では大規模な花火大会が少ない」と考えるのがよさそうです。

(3)京都市中心部には特別な事情が

京都市中心部には、京都御所、二条城、寺社、町家など、歴史的な建物や文化財が多くあります。道幅が広くない場所も多く、人が集まれば交通や安全の問題も大きくなります。花火大会はきれいなだけではなく、火を扱い、大勢の人が一度に集まる行事です。そのため、京都のまちなかでは、ほかの地域よりも慎重に考えられてきた面があるといえるでしょう。

2.1954年、京都御所で起きた小御所火災

京都市中心部で大きな花火大会が少ない理由として、よく知られているのが「京都御所御苑内小御所炎上」です。

(1)五山の送り火の日に花火大会があった

1954年8月16日、京都では五山の送り火の日に、鴨川河川敷で新聞社主催の花火大会が開かれていました。京都市消防局の記録では、この花火大会で打ち上げられた落下傘型の花火の残火が、京都御所内にある小御所の檜皮葺の屋根に落下し、出火したとされています。

(2)火は小御所を全焼させた

その日、鴨川の河原で午後7時から読売新聞社主催の花火大会が開かれ、打ち上げ花火の落下傘が二十数個も京都御所内に風で飛ばされたとされています。その一部が小御所の檜皮葺の屋根に落ち、燃え残りの火が燃え移りました。市内の消防車が消火にあたりましたが、小御所は全焼してしまいました。

(3)小御所は歴史的に重要な建物でした

小御所は、幕末の政治史を考えるうえでも大切な場所です。慶応3年12月9日、王政復古の大号令を受けて開かれた「小御所会議」の舞台として知られています。

3.なぜ京都市中心部では花火が難しいのか

小御所火災だけで、京都市中心部の花火大会がすべてなくなったと断定することはできません。けれども、この火災が京都の人びとに大きな衝撃を与えたことは想像できます。

(1)文化財が多いまちだからこそ火災の重みが違う

京都は、街そのものが文化財のように感じられる場所です。古い建物や寺社が、日常の暮らしのすぐそばにあります。花火の残火が文化財に飛び、歴史的な建物を失うという出来事は、単なる火事ではすみません。

(2)檜皮葺の屋根は火に弱い面があります

小御所の屋根は檜皮葺でした。檜皮葺とは、ヒノキの樹皮を使ってふく伝統的な屋根です。見た目はとても美しく、日本の伝統建築らしい趣がありますが、乾燥した時期には火がまわりやすい面もあります。

(3)人の流れと交通の問題もあります

花火大会では、火災だけでなく、人が一気に集まることによる混雑や交通の問題も起こります。花火大会は美しい行事ですが、安全に行うには、かなり大きな準備が必要なのです。

4.「小御所火災で京都の花火が消えた」と言い切れるのか

ここで注意したいのは、歴史の出来事をわかりやすく語ることと、事実として断定することは違うという点です。

(1)確認できるのは「花火が原因で小御所が焼失したこと」

京都市消防局や東京文化財研究所の資料から確認できるのは、1954年8月16日に、鴨川河川敷で行われた花火大会の火が原因となり、京都御所内の小御所が焼失したということです。一方で、「この火災をきっかけに、京都市中心部の花火大会が正式に全面禁止された」と明記する公的資料は、現時点で確認できる信頼性のある情報としては見つかりません。

(2)それでも京都の記憶に残った出来事です

ただし、文化財を失った記憶が、京都で花火大会を考えるときの大きな背景になった可能性はあります。花火は楽しいものですが、火災のリスクを完全になくすことはできません。とくに京都市中心部のように、歴史的な建物が多く、観光客も住民も多い場所では、「見たい」だけではなく、「守る」ことも同時に考えなければならないのです。

(3)京都らしい夏の楽しみ方があります

京都の夏には、花火とは違う静かな美しさがあります。五山の送り火、祇園祭、川床、夕暮れの鴨川、寺社の夜間拝観など、火を大きく打ち上げるのではなく、街の空気や歴史と一緒に味わう夏があります。花火大会が少ないことは、少しさびしく感じられるかもしれません。けれども、それは京都が長い時間をかけて大切なものを守ってきた結果でもあるのかもしれません。

まとめ

京都に花火大会がまったくないわけではありません。京都府内では今も花火大会が開かれていますし、京都市内でも京都競馬場のように花火イベントが行われることがあります。

 

ただ、京都市中心部で大規模な花火大会が少ない背景には、1954年に起きた京都御所の小御所火災が大きく関係して語られてきました。鴨川の花火大会で打ち上げられた落下傘型花火の残火が小御所の檜皮葺屋根に落ち、歴史的な建物が全焼したという出来事は、京都にとって忘れがたい火災だったはずです。

 

花火は、夏の夜を明るくしてくれる楽しいものです。けれども京都では、その美しさのすぐそばに、文化財を守るという大切な課題があります。京都市中心部に大きな花火大会が少ない理由を知ると、花火がない夜空にも、京都らしい意味が見えてくるのではないでしょうか。