赤ちゃんのお世話をしながら、ついスマホを手に取ってしまう。そんな瞬間は、どんなお父さんやお母さんにもありますよね。 「少しだけなら大丈夫かな」と思いつつ、「本当はよくないのかな」と、どこかで気になっている方も多いと思います。 今回は、乳児とスマートフォンに関する海外の実験研究をもとに、赤ちゃんの前でスマホを使うとき、何が起きているのか、そしてどう付き合っていけばよいのかを、一緒に考えていきます。

1.テクノファレンスって何?スマホが親子の時間に入り込むとき
まずは、研究で使われている「テクノファレンス」という言葉と、乳児期の親子のやりとりがなぜ大切なのかを整理してみましょう。
(1)テクノファレンス=親子時間への技術の割り込み
「テクノファレンス(technoference)」とは、スマホやタブレット、テレビなどのデジタル機器によって、家族の会話やふれあいが途中でさえぎられてしまうことを指す言葉です。 たとえば、赤ちゃんと遊んでいる最中に通知音が鳴り、ついスマホをチェックして、その間だけ赤ちゃんへの返事が止まってしまう。 赤ちゃんから見ると、目の前にお父さんやお母さんはいるのに、急に「心ここにあらず」になる時間が、何度も細切れで入り込んでくる状態です。
(2)乳児にとって「見つめ合う」「声をかけ合う」時間の意味
生まれて間もない赤ちゃんは、言葉ではなく、目と目を合わせることや、声のトーン、表情などを通して「今、お母さんは自分に向き合ってくれている」と感じ取ります。 こうしたやりとりが積み重なることで、赤ちゃんは「泣いたら誰かが応えてくれる」「嬉しいことは一緒に喜んでもらえる」という経験をし、自分の気持ちを落ち着かせたり、表現したりする力を少しずつ身につけていくと考えられています。 この「やりとりの土台」がつくられるのが、まさに乳児期なのです。
(3)スマホは便利さとリスクを同時に運んでくる
とはいえ、スマホは情報収集や家族・友人との連絡、育児の相談にも役立つ、大切な道具です。 問題は「使うこと」そのものではなく、「親子のやりとりをどれくらい中断しているか」という点にあります。 これまでの研究では、子どもと過ごす時間中にスマホを見る頻度が高い親ほど、子どもへの反応が遅れがちになる傾向が報告されていますが、一方で、長期的な発達への影響については、まだ因果関係がはっきり証明されたわけではありません。 大事なのは、「スマホ=悪」と決めつけるのではなく、親子の時間とのバランスを意識して使えるかどうかなのだと思います。

2.スマホ版スティルフェイス課題:赤ちゃんはどう反応したのか
次に、アメリカの研究チームが行った「Infants’ response to a mobile phone modified still-face paradigm: Links to maternal behaviors and beliefs regarding technoference」という実験を紹介します。 乳児とその母親227組に協力をお願いし、母親がスマホに気を取られているとき、赤ちゃんの表情やしぐさがどのように変化するのかが詳しく調べられました。
(1)227組の母子に協力してもらった実験
この研究では、まず母親と赤ちゃんが向かい合い、ふだん通りに笑いかけたり、おもちゃで遊んだりする「遊びの時間」から始まります。 次に、母親はスマホを取り出し、画面に集中して、赤ちゃんからの視線や声かけにほとんど反応しない時間が設けられました。 その後、スマホをしまい、再び赤ちゃんとやりとりを再開する「再開の時間」が続きます。 研究者たちはそれぞれの場面で、赤ちゃんの表情(うれしそうか、不機嫌そうか)、お母さんとおもちゃのどちらを見ているか、自分をなだめるようなしぐさ、逃げるようなしぐさなどを細かく記録しました。
(2)ママがスマホを見ると赤ちゃんの表情はどう変わる?
母親がスマホに気を取られて、赤ちゃんにほとんど反応しなくなる場面では、多くの赤ちゃんで「典型的な変化」がみられました。 それは、うれしそうな笑顔や声を出して楽しむ様子(ポジティブな感情)が減り、眉をひそめる、泣き出すなどの不機嫌さ(ネガティブな感情)が増えるというものです。 同時に、お母さんの顔ではなくおもちゃや周囲ばかりを見る時間が長くなり、自分の体をさわるなど、自分で自分を落ち着かせようとする行動や、その場から視線や体をそらそうとする行動も増えることが報告されています。
(3)スマホをやめたあとも、すぐには元の笑顔に戻れない
興味深いのは、母親がスマホをしまい、再び赤ちゃんに向き合い始めた「再開」の場面でも、多くの赤ちゃんが完全には元の状態に戻らなかった、という点です。 実験の最初の遊びの時間と比べると、笑顔や落ち着いた様子がなかなか回復せず、不機嫌さや不安定さが残りやすい赤ちゃんが少なくありませんでした。 つまり、数分間の「スマホに夢中な時間」であっても、赤ちゃんにとってはちょっとしたショックとして残り、その後の気持ちの立て直しにも時間がかかる可能性があると示唆されています。
(4)9か月を過ぎた赤ちゃんほど、強く反応する傾向も
この研究では、月齢の違いにも目が向けられました。 その結果、9か月以上の赤ちゃんは、9か月未満の赤ちゃんに比べて、どの場面でも不機嫌な表情などのネガティブな感情を示しやすい傾向が見られました。 生後半年を過ぎるころから、赤ちゃんは「相手が自分に向き合ってくれているかどうか」をより敏感に感じ取り始めるといわれています。 それだけに、楽しくやりとりしていたお母さんが急にスマホに集中してしまうことは、月齢が高い赤ちゃんほど「いつもと違う」「さびしい」という体験として受け止めやすいのかもしれません。 ただし、こうした解釈については、今後さらに研究が必要だとされています。

3.ふだんのスマホ習慣と赤ちゃんの反応にはどんな関係がある?
この実験では、母親が日常生活のなかでどれくらいスマホによって親子の時間が中断されていると感じているか(テクノファレンスの頻度)についても質問が行われました。 その回答と、先ほどの実験場面での赤ちゃんの様子を比べることで、「ふだんの習慣」と「その場の反応」の関係が探られています。
(1)テクノファレンスが多いと、赤ちゃんは逃げるような行動が増える?
まず、まだ月齢の低い赤ちゃんでは、母親が「ふだん、スマホで子どもとの時間が中断されることが多い」と答えているほど、実験中のスマホ場面で、逃げるような行動(視線をそらす、体をそむけるなど)が多くみられる傾向がありました。 お母さんがスマホに集中してしまう状況に、赤ちゃんが慣れてしまっているのか、あるいは「呼びかけても反応が返ってこない」と感じて諦めるような反応なのかは、この研究だけでは断定できません。 ただ、赤ちゃんがその状況から気持ちを切り離そうとするような動きが増える可能性が示されていることは、心に留めておきたいポイントです。
(2)モノに注意が向きやすくなる=親子のまなざしがズレやすくなる
同じく、母親のテクノファレンスが多いほど、月齢の低い赤ちゃんでは、お母さんではなく周囲のモノに注意を向ける時間が増えるという結果も報告されています。 別の研究でも、親のスマホ利用が多い家庭の乳幼児ほど、スマホに気を取られている場面での探索行動やポジティブな表情が少なくなり、やりとりを再開したあともなかなか元の笑顔に戻りにくいことが示されています。 こうした結果だけでは、すぐに「発達に悪影響」とまで言い切ることはできませんが、親子が同じものを見て、同じ出来事を共有するチャンスが減りやすいことは確かだろうと考えられています。
(3)「悪い父親」「悪い母親」という話ではなく、仕組みを知っておくための研究
ここで大切なのは、これらの研究が「スマホを見るお父さん/お母さんはダメ」と責めるためのものではない、ということです。 実際、多くの総説論文では、スマホ利用と子どもの行動問題との関連は指摘しつつも、「今あるデータだけでは、スマホ利用そのものが直接の原因だとまでは言えない」と、非常に慎重な結論が示されています。 スマホがなければ孤立感が強まり、かえって親子ともにストレスが増す場合もあります。 だからこそ、「できるだけ親子のやりとりを大事にしつつ、スマホも上手に使うにはどうしたらいいか」を一緒に考えることが、現実的でやさしいアプローチだといえます。

4.今日からできる、スマホとのちょうどいい付き合い方
最後に、こうした研究結果をヒントにしながら、今日からできそうなスマホとの付き合い方の工夫をいくつかご提案します。 ここで挙げるのは「絶対こうしなければならない」というルールではなく、試してみて、自分の生活に合うものだけを取り入れてもらえれば十分です。
(1)「赤ちゃんのゴールデンタイム」だけはスマホを置いてみる
一日じゅうスマホを触らない、というのは現実的ではありません。 そこでおすすめなのが、自分なりに「赤ちゃんのゴールデンタイム」を決めて、その時間だけはスマホを手放す、という工夫です。 たとえば、授乳やミルクの時間、寝かしつけ、起きた直後のスキンシップ、寝る前のひとときなど、1回あたり10〜15分でも構いません。 その間はスマホを別の部屋に置く、通知を切る、腕時計で時間を見るようにするなど、物理的に手に取りにくい工夫をしてみると、赤ちゃんの表情の変化により気づきやすくなります。
(2)どうしてもスマホが必要なときの「ひと声」と「ひと工夫」
仕事の連絡や家族からの電話など、どうしてもスマホを見なければならない場面もあります。 そんなときは、いきなり黙って画面に集中するのではなく、「ちょっとだけお仕事のメッセージ見るね」「終わったらまた遊ぼうね」と、ひと声かけてからスマホを見るようにしてみてください。 また、スマホを見ている間も、時々赤ちゃんに微笑みかけたり、肩や背中に触れたりして、「完全にはいなくなっていないよ」というサインを送り続けることも助けになります。 実験研究でも、スマホを使う時間を短く保ちつつ、子どもへの声かけやふれあいを維持しているお母さんほど、子どもの不機嫌さが和らぎやすいことが示されています。
(3)自分を責めすぎず、「ほどよく」を目指す
「赤ちゃんの前でスマホを見てしまった」と感じるとき、多くのお母さんはすでに十分自分を責めているものです。 でも、研究が教えてくれるのは、「スマホを一度でも見たらアウト」という厳しいメッセージではありません。 赤ちゃんは、お母さんが完璧であることを求めているのではなく、「だいたいは応えてくれる」「ときどき途切れても、ちゃんと戻ってきてくれる」という経験を通して、安心感を育んでいきます。 スマホとの付き合い方も同じで、100点満点を目指すより、「昨日より少しだけ、赤ちゃんと向き合う時間を増やしてみよう」くらいの気持ちで続けていくことが、長い目で見ていちばん現実的でやさしい選択ではないでしょうか。

5.まとめ
スマホが生活の一部になった今、赤ちゃんの前でスマホを触ること自体を完全に避けるのは、ほとんど不可能です。 一方で、父親や母親がスマホに気を取られているとき、赤ちゃんの表情や行動に変化が生じ、短い時間であっても不機嫌さや自己なだめ行動が増えることが実験で確かめられています。 ただし、長期的な発達への影響については、現時点で因果関係を明確に示した信頼できるデータは十分ではありません。 だからこそ、「スマホは悪」と決めつけるのではなく、親子で向き合う時間とスマホの時間のバランスを意識し、自分たちの生活に合った「ほどよい距離感」を見つけていくことが大切です。
