松岡・十一・宇野によれば、若者がファッションに強いこだわりをもつのはファッションを心のよりどころとし、仲間との親密性を重視し、独自の価値観を作り上げ、それを身近に表現できるからであり、自己愛人格傾向が関連している。
小塩によれば、自己愛人格傾向とは自分自身への関心の集中と自信や優越感などの自分自身に対する肯定的感覚、さらにその感覚を維持したいという欲求によって特徴づけられる性格特性のことである。なお、若者が強いこだわりをもつファッションには衣服だけではなく、化粧も含まれる。
鳥居・鳥居は、自己愛人格傾向の高い女性は自分の存在感をだすためにアイラインやマニキュアを使用する傾向があることを報告している。また、鳥居・鳥居は自己愛人格傾向が高い女性は、化粧に高い関心があり、素顔にほどほどの自己評価をもつことも報告している。
男性におけるみだしなみ行動と自己愛人格傾向との関連では、鳥居はみだしなみに積極的な男性ほど自己愛人格傾向が高いこと、また外見に高い関心があり素顔を見られることに抵抗がない男性は、自己愛人格傾向が高く、自己主張性が高いことを報告している。
平松は具体的な化粧行動と自己愛人格傾向との関連について男女を比較検討し、男性の化粧行動は『自己愛人格傾向』に規定され、下位尺度では『主導性』と部分的ではあるが『自己賞賛』『注目欲求』に規定されること、女性の化粧行動は『自己愛人格傾向』に規定され、下位尺度では部分的ではあるが『自己賞賛』『主導性』『自己確信』『注目欲求』に規定されることを報告している。
このように、化粧行動と自己愛人格傾向との関連については、いくつかの先行研究であきらかとなっている。
ところで、ひとは生きるなかで集団の成員としてふさわしい生活様式、行動、価値などを身につける。それは化粧も同様である。それゆえに、ひとは状況に応じて一定の方法で化粧をおこなう。そこには、化粧基準ともいうべき行動のよりどころがあり、それに照らし合わせて実際の行動を決定している。
平松によれば、化粧行動には『個性』『社会的調和』『他者同調』という自己顕示的
な基準と社会同化的な基準が存在するという。また、平松は青年男女の化粧基準と化粧行動について日本人とタイ人を比較して検討をおこない、日本人とタイ人および男女に共通して化粧基準(『調和』『個性』『同調』)と化粧行動(『スキンケア』『メイクアップ』『クレンジング』『フレグランス』)の構造をあきらかにし、日本人男性の化粧行動は化粧基準の『個性』『同調』が規定し、日本人女性の化粧行動は化粧基準の『個性』が規定していることをあきらかにしている。
このように、これまで化粧行動と自己愛人格傾向の関連性は検討されてきたが、化粧基準と自己愛人格傾向との関連性を検討した研究はみあたらない。
だが、化粧行動が自己愛人格傾向に規定されるのと同様に、化粧基準もまた自己愛人格傾向に規定されると仮説でき、人々の化粧に関する行動を詳細に検討していくためには、化粧基準と自己愛人格傾向の関連性について検討することも重要である。
なお、平松により自己愛人格傾向以外の個人差要因として男性の化粧基準は公的自意
識、私的自意識、外的他者意識が規定し、女性の化粧基準は公的自意識、私的自意識、内的他者意識、外的他者意識、空想的他者意識が規定することがあきらかとなっている。
そこで本研究は、男女を比較して自己愛人格傾向の違いが化粧基準にどのように影響をおよぼしているのかについて検討する。
なお、相良によれば自己愛人格傾向は、中学生・高校生・大学生において大学生が最も高いとされている。そのため本研究では、男女大学生を調査対象に用いた。
【原著論文】