https://linktr.ee/RaveGirls

 

8月13日に大阪で開催された音楽フェス「MUSIC CIRCUS」に出演した韓国の人気DJであるDJ SODAが観客から痴漢を受けたという事件は、音楽フェスに興味がない人々にも大いに知れ渡った事件となりました。8月21日時点で、フェスの主催者が容疑者不詳のまま不同意わいせつと暴行の容疑で大阪府警に刑事告発したと発表。同日、加害者を名乗る男性2人が、顔出しで謝罪しています。

 

この事件に関して、ウェブやテレビでは色々な意見が飛び交っています。ですが一つ気になるのは触られてもしょうがない服装をしているから痴漢されたのだというものです。

痴漢と肌の露出

触られてもしょうがない服装とは、肌を露出している服装を指していることはわかるとおもいます。露出度が高い服装だから性欲を喚起し、痴漢をさせてしまう。だから悪いのは、痴漢をした人間ではなく、露出度の高い服装をした人間だという主張です。

 

ですが、本当にそうでしょうか。犯罪心理学などの研究を概観してみると、電車内に限っていえば露出度が高い派手な女性よりも控えめで大人しそうな女性の方が狙われやすいということがわかっています。つまり、痴漢をする人間は露出度に関係なく痴漢をするわけです。そして、ポイントとなるのは声を上げて被害を訴えないような相手を痴漢のターゲットに選んでいるということです。

 

曹陽と高木修が「女性の服装は痴漢被害の原因になるか」という研究をおこなっています。この研究では、人は女性の服装が電車内での痴漢被害の原因になる可能性があると認知するのかを探索的に検討しています。その結果、痴漢被害経験のない女性においては、ミニスカートを含めて女性の服装が痴漢被害の原因にならないと認知していたこと、痴漢被害経験のない男性においては、ミニスカートを含めて女性の服装が痴漢被害の原因になると認知していたことがわかりました。

 

つまり、男性は女性の服装が痴漢の原因になると考えていることがあきらかとなっており、「触られてもしょうがない服装をしているから痴漢された」という主張は正しいということになってしまいます。

 

ちなみに、「Effects of solicitor sex and attractiveness on receptivity to sexual offers: A field study」という研究によれば、おなじ女性が肌の露出度を変えてバーにいるという実験をおこなった結果、露出度の低い女性に男性が声をかける(ナンパする)時間は17.7秒だったのに対し、露出度の高い服装の時は4.5秒だったといいます。そしてさらに男性たちを調査すると、相手の女性の露出度の高い服装のときほどデートへの誘いを承諾する可能性が高いとか、セックスできる可能性が高いと考えていたことがわかったんです。

 

つまり、男性たちは露出度の高いファッションをしている女性に対して、不道徳でセックスに寛容だという印象を形成していることがわかります。

肌の露出と印象形成

これまで衣服に関する心理学の研究では、肌の露出と印象に関する調査などがおこなわれてきました。それらをまとめると、肌を露出することは性的な意味合いがあると認知され、不道徳・不謹慎・挑発的・品位がないといった印象を形成させてしまうということがあきらかになっています。また、「Clothing as a nonverbal communicator or sexual attitudes and behavior」という研究によれば、女性の裾の部分が切り落とされた印象を与えるカットオフパンツや腹部を露出したファッションは性的態度の手がかりになると指摘されています。

 

つまり、肌を露出することが他者の性的な関心を喚起してしまうという指摘があるわけです、これが正しいとすると、「触られてもしょうがない服装をしているから痴漢された」という主張が正しいものとなってしまいます。

 

なお、女子大学生の肌の露出とそこから想起される性格に関する研究によれば、露出が多い服装は、積極的な性格や外向的な性格の印象と関係することがあきらかになっています。そのほかにも、新しい物好き、流行に敏感、刺激を求めている、目立ちたがり屋、派手、挑発的といった印象と関係することがわかっています。

ファッションと性的魅力

ファッションがどれくらい性的な魅力を増減させるかということも、これまでいろいろ研究されてきました。そのなかで「Note on males' and females' preferences for opposite-sex body parts, bust sizes, and bust-revealing clothing」という研究では、男性にとって最も好まれる(性的な魅力を感じる)女性のファッションは、バスト(おっぱい)をみせるノーブラや透き通ったブラウスを着るファッションだと指摘しています。一方で、「Sexually Attractive Clothing: Attitudes and Usage」という研究では、女性自身はミドリフトップ(腹部をみせるいわゆるヘソだしルック)、ニットのボディ・シャツ、ショートスカート、ホルタースタイル、胸元がみえそうなネックライン、カラダがみえるスリット、カラダにぴたっとフィットしているニットなどのファッションが男性は性的な魅力を感じていると考えているとあきらかにしました。また、女性はブラジャーをしなかったり、生地の薄い服を着る、シャツのボタンを留めないことは、さほど男性に性的魅力を抱かせないファッションとして考えていることもあきらかになっています。

 

つまり、男性自身が性的な魅力を感じているファッションと女性が考える男性が性的な魅力感じるファッションにはズレがあるわけです。一般的に、ファッションは男性ウケや同性ウケを想定していると考えられていますが、じつはそうではないわけです。女性からすれば、むしろ性的な魅力を感じさせないように選んだ服で男性は性的魅力を感じてしまっているんです。

露出度の高いファッションは罪なのか?

Effect of dress, cosmetics, sex of subject, and causal inference on attribution of victim responsibility」という研究によれば、タイトなミニスカートを着用している女性が性犯罪にあうと、挑発的(誘惑的)なファッションをしていたから被害にあったんだと被害者への責任を追及する可能性を指摘しています。まさに今回のDJ SODAが痴漢にあったのは、そんな露出するファッションをしているからだという指摘です。

 

ここまで読むと、なんだやっぱり研究でも露出しているひとが悪いということになるんじゃないかということになります。たしかに露出しているファッションが他者に与える印象はあまり好ましくないものが多いのかも知れません。ですが、だからといって、痴漢という行動が正当化されるわけではないという根本的なことを忘れてはいけません。DJ SODA自身が言うように「露出の多い服を着ているからといって、性被害を受けて当然という理由にはならない」わけです。

まとめ

ところで、露出度が高いファッションをしている女性に接することで男性の性欲が喚起され、痴漢しようという気持ちになってしまうとします。ですが、露出度の高いファッションの女性は騒がれたり抵抗されたりする危険性があるため、電車内の痴漢と同じように露出度の低いおとなしそうな女性に対して痴漢をする(代償行動)可能性もあるという指摘(「着装における肌の露出と印象形成」)もあります。だとすると、やはり痴漢をされるかどうかは肌の露出そのものとはまったく関係がないということになるのではないでしょうか。

 

DJ SODAが、「私は自分が着たい服を着る自由があるし、誰も服装で人を判断できない。私の体は自分のものであって、他人のものじゃない。私は露出した服を着るのが好きで、これからもずっと着ていくつもりです。だからみんな服装に干渉する人たちの顔色を伺わず、着たい服を思う存分着ながら生きよう!!」というコメントをしています。もちろん、誰もが着た衣服を着ればいいわけです。ですが、ファッションはなんらかの情報を伝達し、社会的相互作用(コミュニケーション)を促進・抑制する働きをもっています。それは止めることができません。自由にファッションを楽しむ一方で、ファッションのもつ働きを改めて考えておきたいと思います。