2023年7月3日付けで厚生労働省医政局医事課は、医政医発0703第4号及び第5号を各都道府県衛生主管部に対し通達しました。なんのことか、さっぱりですよね。じつはこれ、「針先に色素」をつけて「眉毛を描く行為」や「アイラインを描く行為」を「医師免許を有さない者がこれを業として行うのであれば、医師法第17条に違反するものと思料する」ということが、厚生労働省から正式に発表されたことを意味します。

 

つまり、いわゆる「アートメイク」は医師免許をもたない人間がおこなうと医師法違反になるということです。

 

 

 

 

 

アートメイクとは

そもそもアートメイクとは、なんなのでしょうか。

 

朝日新聞出版の「知恵蔵mini」には、「皮膚に針で色素を注入し、眉やアイライン、唇などを描く美顔術。水に濡れたり汗をかいたりしても落ちることなく数年間持続し、化粧の手間が省けることから、女性の人気を集めている。」と記載されています。簡単にいえば、文身・刺青・入れ墨・イレズミ・タトゥ—と同じです。ただ、一般的なイメージとしては通常のメイクとは違い汗や水でも「落ちないメイク」といったところでしょうか。

 

アートメイクとタトゥ—の違いは、厳密には区別づらいものです。企業や人によっては、アートメイクとタトゥ—では、皮膚に対して針の刺す深さが違うとか、顔かカラダか施術する部分が違うとか、様々に言われています。厚生労働省によれば、タトゥーは「歴史的に、長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情がある」「すなわち、タトゥーの担い手は歴史的に医療の外に置かれてきたものであり、そのこと自体が、タトゥーの社会的な位置づけを示すものとして理解されうる」(医政医発0703第5号)とされます。

アートメーク被害

アートメイク被害は、10年ほど前から言われるようになりました。

 

国民生活センターなどによると、アートメークは「化粧の手間が省ける」と女性に人気の一方で、被害相談は統計がある2006~11年に全国で約120件に上る。「目を痛めた」「肌の腫れが引かない」など、重症化したケースもある。 

 

針で体を傷つけるのは医療行為で、エステでの施術は医師法違反にあたる。警察庁のデータによると、10年から4年間に各地の警察が同法違反容疑で摘発したエステ経営者らは38人。10年の4人に対し、昨年は18人と毎年増加しており、警察幹部は「機器の使い方がおぼつかないような者が施術をしているケースもある。摘発は氷山の一角だ」と指摘する。 

 

埼玉県警は5月、熊本県の無許可の機器販売業者を薬事法違反容疑で逮捕した。インターネットを使い、全国の74人に売りさばいていたといい、機器販売業者の立件は過去3例目だった。警察幹部は「利用者も危険性を認識してほしい」と警鐘を鳴らし、国民生活センターは「どうしても施術を受けたい人は医療機関へ」と呼び掛けている。 

 

日本経済新聞、2014年8月3日

 

国民生活センターが発表しているアートメイクに相談事例をみておきましょう。

 

【事例1】施術部位が化膿

友人の口コミで、知った店で、眉のアートメイクを受けた。3回で1コース。1回目の施術は問題なかったが、2回目の施術後化膿した。皮膚科の診察を受けて、針や色素に問題がある可能性があるといわれた。いわゆる刺青と同じなので本来は医療行為だとは知っているが、医院で行うと倍の費用がかかる。顔が腫れたので仕事もキャンセルした。

(危害発生年月: 2011 年6 月、東京都・30 歳代・女性)

 

【事例2】角膜に傷がついた

フリーペーパーの広告に載っていたエステサロンでアイラインのアートメイクをした。施術中に痛みがあり、痛いと言ったにもかかわらずそのまま施術された。終了後、軟膏のようなものを塗られ、視野が曇っていると言ったら軟膏のせいだと言われ帰宅した。しかし、痛みと涙が止まらないので救急で眼科に行ったところ、角膜が傷ついていることがわかった。

(危害発生年月: 2011 年5 月、東京都・30 歳代・女性)

 

【事例3】 痛みと腫れが続いている

1週間ほど前アートメイクをしているサロンで眉のアートメイクを受けた。業者の説明では多少は腫れるがすぐに治まるとのことであったので安心して受けた。しかし施術中から痛く、今も眉の回りが赤く腫れて痛みがある。恥ずかしくて外出もできない。

(危害発生年月: 2010 年11 月、石川県・40 歳代・女性)

 

【事例4】かさぶたが治らない上ラインがおかしい

アートメイクをしているサロンで眉とアイラインのアートメイクをした。以前にも眉のアートメイクをしたことがあるが、その時は1週間ほどでかさぶたが取れきれいになったのに、今回はかさぶたのままできれいにならない。しかも、右眼のアイラインは色が濃すぎて互い違いになっている。苦情を言うと除去液を使って修主すると言われたが、業者の技術が信用できない。

(危害発生年月2011 年7 月、兵庫県・30 歳代・女性)

 

【事例5】誤って眼の下に色が入ってしまった

エステサロンで上まぶたのアイラインのアートメイクをしてもらったが、痛かったので思わず眼をギュツと閉じてしまった。まぶたが動いた拍子に針が下まぶたに刺さり、眼のふちから5ミリくらいのところに色が入ってしまった。医師を紹介されたが、色素を抜く際にまつ毛が抜ける可能性があり色素が抜けきれるかも保証できないという。

(危害発生年月: 2010 年4 月、神奈川県・30 歳代・女性)

 

アートメイクの危害・危険に関する相談は2006年からの5年間で121件よせられているといいます。これを多いとみるか少ないとみるかは、アートメイクをどれくらいの人がやっているかによりますが、外見(美醜)や健康に関わることですので、1件でも相談があると不安ですよね。

医療アートメイクにおける医師法第17条の解釈について

福島県保健福祉部が、2023年年6月28日に「医師法第17条の解釈について」として厚生労働省医政局医事課長に照会をしました。その内容は「医師免許を有しない者が、針先に色素を付けながら皮膚の表面に墨等の色素を入れて、(1)眉毛を描く行為、(2)アイラインを描く行為、を業として行った場合、医師法 (昭和23年法律第201号)第17条違反と解してよろしいか伺います」というものです。それに対して、「御照会の行為は、医行為に該当し、医師免許を有さない者がこれを業として行うのであれば、医師法第17条に違反するものと思料する」と回答があったわけです。

 

医師法第17条とは「医師でなければ、医業をなしてはならない」という条文です。違反すると「3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされています。

 

さらに「令和2年9月16日最高裁判所決定(平成30年(あ)1790号医師法違反被告事件)において、当該決定におけるタトゥー施術行為は医行為でないと判示されたが、御照会の行為は、医療の一環として医師・看護師等の医療従事者が関与している実態があることから、医行為該当性が否定されるものではないと考えられる」と回答されました。つまり、ここで明確に厚生労働省として、「アートメイクは医療行為」と断言されたわけです。

 

美容室、エステ・サロン、ビューティ・サロンなど医師ではないものがアートメイクをするのは違法なんです。なお、保健師助産師看護師法第37条には「保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない」と規定されています。逆にいえば、看護師は医師の指示があれば、診療機械の使用や医薬品の授与をすることが認められているため、医師の指示のもとであれば看護師がアートメイクをおこなうことも化膿ではないかとする解釈をする人もいます。

 

この解釈はなかなか微妙なところと言わざるをえないのですが、少なくとも医師でもなく看護師でもない人がアートメイクをすることは違法であることは間違いありません。

まとめ

アートメイク自体は悪いことではありませんが、ちゃんと資格を持っている人から施術を受けることが必要です。お金がもったいないから、安いからと安易に無資格の人から施術を受けると、仕上がりの上手い下手以上に自分の健康を害することになります。結果的に治療が高額になったり、取り返しのつかないことになったりしますので、気をつけてくださいね。