ネグレクト(neglect)は、「無視する、怠る、疎かにする」という意味ですが、一般的には育児放棄など児童虐待に関する話題で耳にする言葉です。ですが、「無視する」相手は必ずしも子どもに限らず、恋人などのパートナーの場合もあれば、年老いた両親などの高齢者の場合もあります。加えて最近では、自分自身に対する「セルフ・ネグレクト」も問題視されています。

 

 

 

 

 

(1)セルフネグレクトとは

セルフ・ネグレクトとは、日本語でいいえば「自己放任」とか「自己放棄」のことです。アメリカでは「自分自身の健康や安全を脅かすことになる、自分自身に対する不適切なまたは怠慢の行動」などと定義されていたりしますが、日本ではまだまだ研究が進んでおらず、専門的な定義は確立していません。

 

ただいろいろな考え方があるものの、概ね共通して次のような状態だとセルフ・ネグレクトだといわれています。

 

  1. お風呂に入っていない、顔を洗っていないなど、カラダの清潔を保つことを長期間していない。
  2. 爪を切っていない、髪の毛やひげが伸び放題など、通常の人ならおこなう身だしなみを整えていない。
  3. 何かしらの病気なのに、治療をしないもしくは中断したり、服薬をしない。
  4. 健康を害するような不適切な食事をする。
  5. ゴミを捨てない(捨てられない)
  6. 部屋に食べ物やゴミが放置する、その結果ネズミやゴキブリなどの害虫が発生している。
  7. 動物の世話や管理をしないのに「多頭飼育」している。
  8. 窓ガラスが割れていたり、壁に穴が開いていたりしても、修理をせずに放っておく。

 

このほかにも、セルフ・ネグレクトと思われる行動はいくつかあります。ですが、いったいどうしてセルフ・ネグレクトの状態に陥ってしまうのでしょうか。

 

 

(2)セルフ・ネグレクトになってしまう要因

セルフ・ネグレクトになってしまう要因には色々ありますが、いくつか紹介します。

精神的・心理的な問題

認知症、統合失調症、妄想性障害、依存症、不安障害、恐怖症、強迫性障害、パーソナリティ障害など、なんらかの精神的・心理的な問題(疾患)があることでセルフ・ネグレクトになってしまう場合があります。周囲が精神的・心理的な問題(疾患)を抱えていることに気づかなければ、社会から適切な支援を受けることができず、セルフ・ネグレクトになってしまうんです。

ストレス

パートナーや両親もしくは子どもなど大切な家族が病気になったり亡くなったりすること、仕事をリストラ(レイオフ)されてしまうなど大きなストレスを受けることで、セルフ・ネグレクトになってしまう場合があります。特に、家族の死は生きる意欲が失われ、セルフ・ネグレクトに陥りやすいといわれています。

プライドが高い

プライドが高いと困っていても素直に助けを求めることができません。また、人の世話になるのは申し訳ないと遠慮したり気がねしがちな人も、なかなか助けを求められずにいます。「大丈夫だから」という人ほど、じつは大丈夫ではない可能性が高いんです。

友達がいない

学生など若い頃に比べ、大人になると結婚したり転勤したりして、だんだんと仲がいい友達と疎遠になってしまうことも珍しくありません。そうなると、助けを求めたくても、知り合い程度の人間関係だとなかなか難しいものです。

経済的な問題

お金に困っていると、病院に行きたくても行けませんよね。ですが、お金に困っていることを人に知られるのは恥ずかしいことと考える人はめずらしくなく、社会的なサポートを受けられずにセルフ・ネグレクトになってしまう場合があります。

セルフ・ネグレクトになっている人にはどうするべきか

では、セルフ・ネグレクトになっている人には、どう支援をしたらいいのでしょうか。

尊重する

まずは、どんなにセルフ・ネグレクトになっているとしても一人の人間として尊重する態度で接することは忘れてはいけません。言い換えると、自己決定を大事にするということです。かといって、求められていないからと放っておいていいわけではなく、価値観を尊重しその人ができないことに手を差し伸べることが必要です。

選択肢を示す

たとえば、ものが捨てられないセルフ・ネグレクトになっているとしても、「全部捨てましょう」と一方的に手を差し伸べるのではなく、その人に何を残して何を捨てるかといった本人の意志を尊重することが大事です。病気であるにもかかわらず薬を飲まない人には「飲みなさい」ではなく、なぜ服用したくない のかをまず聞くことが必要です。

専門家に相談する

ご近所さんだからと安易に手を差し伸べるより、専門家に相談することもときには必要です。支援のつながりが絶たないように、チームで対応することもときには必要だからです。

まとめ

セルフ・ネグレクト自体、まだまだ一般的ではないかもしれません。社会性がないとか、変な人というように考えてしまいがちな場合すらあります。セルフ・ネグレクトになっている人には適切なサポートが必要です。周囲で見かけた場合には、行政など適切な専門家に相談してあげるようにしてください。