嫌なことがあると、気になって眠れないという人は少なくないでしょう。たしかに、いろいろなことを考えてしまって、寝る気なんておこりませんよね。

 

イスラエル保健省のHagit Cohenやナイジェリア・アブジャ大学のOlusola T. Ephraim-Oluwanugaらの論文「The potential beneficial effect of sleep deprivation following traumatic events to preventing PTSD: Review of current insight regarding sleep, memory, and trauma resonating with ancient rituals—Àìsùn Oku (African) and Tsuya (Japanese)」を読んでみると、睡眠不足は記憶の統合を阻害することから、トラウマとなりうる出来事が起こった後に眠れず睡眠不足になるのは、長期的な心的外傷後ストレス(PTSD)を軽減するためではないかというんです。

 

一体どういうことなのでしょうか。

日本のお通夜

家族や友人など、最愛の人が亡くなれば悲しいものです。一般的に日本では、お葬式の前夜に通夜というのがおこなわれます。

 

通夜とは、日本国語大辞典 によれば「葬儀の前夜、故人とかかわりの深い者が集まり、終夜遺体を守ること」とあります。もともとは、昔は人が本当になくなったのかを確認する技術がちゃんとしていなかったので、死んだともわれていた人が生き返る例が多かったといわれています。そこで亡くなったとされる人は本当になくなっているかを監視をする必要があり、それが通夜の儀式になっていくわけです。

 

とはいえ、一人で監視するのは怖いですよね。そこで、個人と親しかった家族や友人などが集まり、飲食をともない故人の話をしながら通夜をしたんです。

 

生き返るか生き返らないかを監視するものだった通夜が、宗教的な意味合いとしては故人を偲ぶという位置づけになっていきます。夜通し故人の話をしたりすることで故人の死を受け入れ、心が整理されるようになるとも考えることができるわけです。

死者のための祈り

ナイジェリア南西部のヨルバには伝統的な慣習として「死者のための祈り(Àìsùn Oku)」とよばれるものがあります。

 

これは、夫を亡くした未亡人を精神的にサポートするための特別な祈りとされています。通常、亡くなった日の夜か、訃報が伝えられた日の夜に、この祈りはおこなわれます。

 

訃報が伝えられると、遺族への哀悼と故人への愛情を示すために家族や隣人などが集まって、一晩中座り込んで祈祷をおこないます。ここで重要なことは、遺族が一晩中一睡もできないように眠らせないようにすることだというんです。

 

この儀式は、未亡人の年齢にもよりますが、2週間ほど続くことがあり、若い未亡人の方が長く続くといいます。眠ることで亡くなった人を夢でみてしまい、喪が長引くと考えているからです。

睡眠不足でPTSDを防ぐ

人が亡くなるなど、トラウマにもなりかねないほどの大きな精神的ショックを受けたときに眠れなくなるのは睡眠不足は記憶の統合を阻害するからだとお伝えしました。

 

逆にいえば睡眠には、起きているあいだの知覚体験を記憶として定着させる機能があるわけです。感覚情報などの外部からの入力が少ない睡眠時に、脳のなkでは、知覚記憶が定着すると考えられています。つまり、試験前に徹夜で勉強しても記憶に残らないのは睡眠不足だからなんです。覚えないといけないときほど、じつはちゃんと睡眠をとったほうがいいんです。

 

話を睡眠不足に戻しましょう。

 

日本の通夜にしても、ヨルバの死者のための祈りにしても、人が亡くなるというPTSDにもなりかねない出来事がおこったときに、悲しみに暮れている人を寝させないように儀式が発展してきました。それは、経験的に眠らないことで悲しい出来事が記憶に残らないということを知っていたからかもしれません。

まとめ

最近では、通夜や告別式をおこなわずに遺体を火葬場に送り、それを最期とする直葬が増えているともいわれています。故人をどのように送り出すかは時代や地域や宗教などによっていろいろな考え方があるでしょう。ですが、悲しみから立ち直るという意味でいえば、せめて一晩は寝ずに故人と向き合うという行動が必要かもしれません。