2023年3月3日の参議院予算委員会において高市早苗経済安保担当相は、放送法をめぐる総務省作成とされる内部文書は捏造だと考えていると主張し、捏造でない場合大臣を辞職するか問われ「結構ですよ」と答えたとメディア各社が報道しました。

 

 

もちろん世間の注目は内部文書が本物か偽造かということになるのですが、今回注目したいのは「結構ですよ」という言葉です。各メディアはこれを「同意」と見なし、捏造でない場合は大臣・議員を辞職すると報道しました。ですが、はたして「結構ですよ」は同意なのでしょうか。じつは、そうではない可能性もあり、仮に内部文書が本物でも高市早苗経済安保担当相は「やめるなんていっていない」という主張が可能なんです。

 

いったいどういうことか、「結構ですよ」の意味をくわしく紹介します。

 

 

1 「結構ですよ」の意味

この言葉、国語辞書を調べるだけでも、かなりややこしいということがわかります。

(1)「結構です」ってどういう意味ですか?

なぜ、かなりややこしいかというと、「結構です」には多くの意味があるからです。「日本国語大辞典」に掲載されている意味を確認してみましょう。

 

  1. 物をつくり出すこと。多くの場合、善美を尽くしてつくること。また、そうして出来上がった物やその構造。
  2. 心の中で、ある考えを作りかまえること。
  3. 物事の準備をととのえること。用意。支度。
  4. 実現すること。執行すること。
  5. ぜいたくをすること。
  6. みょうが(茖荷)の異名。
  7. すぐれているさま。立派なさま。好ましいさま。
  8. ねんごろなさま。手厚いさま。
  9. 心がけがよいさま。気立のよいさま。好人物のさま。お人好し。
  10. 十分なさま。満足なさま。それでよいとみなされるさま。
  11. それ以上必要としないさま。丁寧に断る場合に用いる。

 

どうですか。「日本国語大辞典」には11もの意味が掲載されています。意外なところでは、植物のみょうが(茖荷)を「結構」というみたいですね。しかし、「結構」にはかなり多くの意味があることがわかると思います。

(2)「結構です」のもともとの意味

初出から考えていくと、平安時代の公卿藤原実資の日記「小右記」の長元4年(1031)2月11日のところに、「戌時中納言移徙北家。只結構西廊営渡云々」とあり、家屋などの構築物について使っています。また同じく平安時代後期の公卿だった源俊房による日記「水左記」の承暦4年(1080)2月4日には「八日於東北院可被修十種供養之由所被示給也是兼曰結構也」と、心の中で、ある考えを作りかまえることの意味で使っています。

 

どうやらもともとは、有形無形にかかわらずなにか形を作ることを「結構」といっていたのでしょうね。古代の甲骨文・金文から現代の常用漢字まで、漢字の体系を追究した白川静による漢和辞典「字通」にも「ものの構造。構成のしかた。」と紹介されています。

 

(3)「結構ですよ」の類語

「結構」にはかなり多くの意味が含まれているので、一言で類語といっても、これもまた多く存在します。小学館の「デジタル大辞泉」をみただけでも、1)良い・よろしい・好ましい・素晴らしい・申し分ない・立派・見事・上乗・何より・素敵・最高・絶妙・卓抜・秀逸・目覚ましい・輝かしい・妙なる・えも言われぬ・上手・巧み・うまい・巧妙・老巧・達者・器用・賢い・上出来・上上・物の見事・結構尽くめ・申し分が無い・言う事無し・天晴れ・ナイス・ワンダフル・目の覚めるよう・目に染みる・冴える・水際立つ/(2)満足・満悦・充足・飽満・自足・自得・会心・自己満足・本望・満ち足りる・心行く・堪能・満喫・安住・安んずる・甘んずる・十分・十全・嬉しい・楽しい・面白い・喜ばしい・喜び・愉快・痛快・喜悦・有頂天・納得・慊焉・三平二満・思わしい・上機嫌・ご機嫌・御の字・足りる・足る・舞い上がる・満たす・気を良くする・溜飲を下げる・言うことなし・気に入る・意に適う・うきうき・うはうは・わくわく・いそいそ・ぞくぞく/なかなか・かなり・存外・案外・思いの外・割に・割合・割り方・比較的・割と・割りかし・相当・大幅・随分・大分・だいぶん・大層・頗る・いやに・やけに・えらい・馬鹿に・余程・余っ程、が紹介されています。

2 「結構ですよ」は同意なのか

今回の高市早苗経済安保担当相が使ったとされる「結構ですよ」の意味は、実現することとか執行することという意味ですが、これは「醍醐寺雑事記」の元暦元年(1184)7月20日のところに「抑此度結構者、自去々年、天下騒動、而諸寺諸山、遇追捕追討、各不静」とでてきます。

 

ですが、「日本国語大辞典」に掲載された意味には「それ以上必要としないさま。丁寧に断る場合に用いる。」というのも紹介されています。つまり、不同意です。ちょうど私たちが、街中でキャッチされたり、電話でセールスの営業を受けたりしたときに「結構ですので」といったりしますが、まさにその意味です。

 

つまり、「結構ですよ」は同意だけではなく不同意の意味も存在するんです。そのため、仮に放送法をめぐる総務省作成とされる内部文書が本物で、「大臣、あなたは大臣を辞職するかと聞いたら結構ですよといいましたよね」と追求したところで、「結構ですよといいましたが、それは丁寧に断ったんですよ」といえば、それまでです。

 

もし、高市早苗経済安保担当相がそこまで考えて発言していたら策士ですし、小西洋之参議院議員が「それは議員辞職するという意味ですね」とその場で追求しなかったのは、策におぼれたともいえるかもしれません

3 「結構ですよ」のトラブル

さきほど、街中でキャッチされたり、電話でセールスの営業を受けたりしたときに「結構ですので」といったりしますといいましたが、これをめぐるトラブルはかなりあります。

(1)「結構ですよ」で契約してしまう

たとえば、ある会社が電話で商品契約をするように勧誘し、電話の相手方が「結構です」と断ったのに、「結構ですと言ったのだから承諾した」として、勝手に商品を送ってきたというトラブルです。このトラブルは消費者庁も注意喚起を促しています。「いいです」「結構です」「大丈夫です」というのは、「断り」「承諾」のどちらとも取れる表現です。そのため、こちらは断っているつもりでも、相手は「曖昧な承諾」として商品を買うよう強く迫ってきたり、一方的に商品を送りつけてくる可能性があります。

(2)正しく断るには

では、どのようにして断ったらいいのでしょうか。消費者庁は、いらない商品を勧められたときは、「いりません」「買いません」ときっぱり断ることが大切ですとしています。強く勧められても、いらないときは、何度もきっぱりと断りましょう。相手は、なんとしても契約に結びつけようとしてくるので、きっぱりと、誰が聞いても断っているとわかる表現で伝えないと、思わぬトラブルを招いてしまいます。

3 まとめ

高市早苗経済安保担当相の答弁で注目されることになった「結構ですよ」という言葉。私たちにも大きく関係する言葉ですので、これを機会にその意味を正しく知って、不要なトラブルを招かないように気をつけましょうね。