自己愛人格傾向とは、自分自身への関心の集中と自信や優越感などの自分自身に対する肯定的感覚、さらにその感覚を維持したいという欲求によって特徴づけられる性格特性のことである。

 

ときには、うぬぼれや耽美といったニュアンスで使われることも多く、Kernbergは病理的な自己愛人格傾向の特徴として、過度の自己陶酔、強大な野心、誇大的空想、賞賛への過度の依存、栄光や権力、美への強い欲求などをあげ、これらの特徴は他者を愛する能力や共感性の欠如、慢性的な空虚感、他者に対する搾取などの形であきらかになると指摘している。

 

一方で、自己愛人格傾向の高い個人は、他者からの注目を集めたいという欲求や顕示的で自信に満ちているといった特徴、エネルギッシュで外向的、自信が強く、自己本位、競争的・攻撃的で、共感性が乏しいといった特徴があることなどもあきらかにされている。

 

自己愛人格傾向は、主に思春期から青年期にその傾向がみられるといわれており、自己愛人格傾向は青年のあいだで増加しているという指摘がある。

 

青年期における自己愛人格傾向とは、自分自身への関心の集中と自信や優越感などの自分自身に対する肯定的感覚、さらにその感覚を維持したいという強い欲求によって特徴づけられている。若者がファッションに強いこだわりをもつのは、ファッションを心のよりどころとし、仲間との親密性を重視し、独自の価値観を作り上げ、それを身近に表現できるからであり、自己愛人格傾向が関連していると考えられる。この場合のファッションとは、衣服だけではなく、化粧も含まれるであろう。

 

自己愛人格傾向に注目し、化粧との関連を検討した研究では、自己愛人格傾向の高い女性は自分の存在感をだすためにアイラインやマニキュアを使用する傾向があることが報告されている。また、自己愛人格傾向が高い女性は、化粧に高い関心があり、素顔にほどほどの自己評価をもつことも報告されている。

 

男性におけるみだしなみ行動と自己愛人格傾向との関連では、みだしなみに積極的な男性ほど自己愛人格傾向が高く、また外見に高い関心があり素顔を見られることに抵抗がない男性は、自己愛人格傾向が高く、自己主張性が高いことが報告されている。

 

このように、少ないながらも化粧と自己愛人格傾向の関連性は検討されているが、具体的な化粧行動と自己愛人格傾向との関連について、男女を比較検討しておこなわれた研究はみあたらない。

 

そこで本研究では、若者の自己愛人格傾向の違いが化粧行動にどのように影響をおよぼしているのかについて検討する。なお、青年期は他世代と比べて最も特徴的に自己愛人格傾向が示されると考えられる。実際、中学生・高校生・大学生を対象に自己愛人格傾向について年齢段階間の比較がおこなわれた研究では、大学生(20歳以上)が最も高く、高校生と大学生(20歳未満)が2番目に高く、中学生が最も低いことがあきらかとなっている。そのため、本研究では調査対象者に青年期にある男女大学生を調査対象に用いた。

 

 

【原著論文】

平松隆円(2022)青年男女の化粧行動と自己愛人格傾向との関連性(ファッションビジネス学会論文誌 )